管理職と現場社員の兼務は負担も少なくない(写真:Elnur / PIXTA)

「野球界の二刀流」にも2つある


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北海道日本ハムファイターズの大谷翔平選手が投手と打者の「二刀流」としてメジャーリーグに移籍することになり、全米でも注目を浴びているようです。

エース投手で四番打者というのは少年野球や高校野球ではよくあるパターンですが、プロの世界では不可能だと米国でも思われていました。その不可能を世界最高峰のプロリーグで可能にしようと挑戦する選手だから、海外でも注目されるのでしょう。われわれもその活躍に注目していきたいものです。

大谷選手は(甲子園を目指すような)若い野球選手の目指すプレースタイルをも変えつつあるようです。将来、プロ野球選手になるなら「二刀流で挑戦したいです」と語る、高校球児のコメントがニュースをかざるようになりました。メジャーで大谷選手が成功すれば、二刀流はますます増えることでしょう。

ただ、野球界の二刀流は、投手と野手の組み合わせでなければ、以前から行われてきました。それは野手と投手ではなく、監督と選手。最近であれば中日の谷繁元信監督が捕手を兼ねたパターンです。古くは南海ホークス時代の野村克也監督。あるいはヤクルトスワローズの古田敦也氏。監督の役割を担いながら、試合の大事な場面で、

「代打、俺」

と指名するのが話題になりました。ただ、振り返ると監督と選手の二刀流で成功例はほとんどありません。

たとえば、古田氏の場合には監督との兼務になって以降、出場機会は大幅に減少。成績もダウンしました。おまけに監督として見ていたチームも不振にあえぐ結果に。仮に選手に専念していたら、あと数年は活躍できたのに……と兼務を惜しむ声がありました。あるいは監督に専念していたら負担は少なく、監督としての成績は違ってきたかもという意見を当時の専門家や野球ファンからは聞かれました。

監督と選手の二刀流は、双方にとってプラスが限りなく少ないことが明らかになってきましたので、プロ野球界では取り組むケースは今後ほとんどなくなることでしょう。

さて、今回はその監督と選手の二刀流が、一般社会で見てもいかに困難であるかについて、みなさんと考えていきたいと思います。

プレイングマネジャーの負担

監督と選手の二刀流をビジネスの世界に転じて考えると、管理職と現場社員の兼務ということになります。いわゆる、プレイングマネジャーです。こちらは増加傾向になります。なかでも中間管理職層においてはプレイングマネジャーをしている人が大多数。リクルートマネジメントソリューションの調査によると7割がプレイヤーとしての業務も行っているとのこと。

ちなみに筆者が社会人になった四半世紀前の職場では、大半の管理職がマネジメントを専業でやっていました。管理職はいつも席に座って、悠々と歩き、部下に「ちょっと来なさい」と声をかけて呼び出しては叱るという姿が印象的でした。現場の仕事は管理職になればやらないのが当たり前でした。

それが徐々に現場の仕事を管理職もやるべし……という風土が社内に入り込み、気が付くと大半の管理職がプレイングマネジャーになっていました。兼務は当たり前のように感じている人もいるかもしれませんが、管理職に相当の負担がかかるいびつな状態に変わっている状態だと思います。

取材した専門商社の管理職Sさんは、現場営業時代の取引先を継続して担当しながら、5人の若手社員のマネジメントを任される立場。当然ながら業務量が大幅に増えて、帰宅時間が大幅に遅くなっているようです。部下たちは働き方改革で残業はさせられない。ところが部下たちの取引先からの依頼は増える一方。経験も浅く、時間も足りない部下たちのフォローがドンドン増える状態です。

「私が若いころにイメージしていた管理職と全然違いました。現場の仕事はむしろ増えているくらいです」

と嘆くSさん。Sさん以外の複数の管理職に取材しても、同じように現場の仕事を先頭に立ってこなしながら、マネジメントをしている実態が浮かび上がってきます。ならば、できるだけ現場の仕事は現場の部下たちに任せるようにすべきでしょうと訊ねてみたのですが、

「それが理想なのはわかっていますが、環境的に許されない状態なのです」

との回答が返ってきます。職場における業務量が多く、自身がプレイヤーとして加わる必要があるとか、自分にしかできない(と認識している)業務があるなど、本人的には致し方ないとしか言いようがないようです。

悩ましいのはプレイングマネジャーとしての現場仕事の業務負担が、代打くらいでなく重要な役割を担う四番バッター(ないしはエースクラスの投手)になっているケースが増えてきているということです。

支店長が重要な取引先を担当

取材した金融機関では、支店長が重要な取引先を担当しながら、支店のマネジメントをするようになっていました。支店に重要な取引先を任せることができる中堅行員がいない……と過去の支店長が認識して「ならば、自分が直接に担当しよう」と決めた支店長がいたようです。そのやり方でそれなりに成果が出たようなので、銀行として支店長に重要な取引先を担当させる慣習が出来上がっていったようです。

ちなみに10年前であれば支店長は取引先の担当など持つことはなく、支店のマネジメントに専念するのが当たり前だったといいます。重要な取引先を担当する適任者がいない状態で、支店長が緊急避難的に取引先をフォローするのは致し方ないかもしれませんが、プレイングマネジャーを当たり前、あるいは推奨している職場の雰囲気が醸成されてしまっているのが実情。なし崩し的に仕方なくやっているわけで、その体制は問題ではないでしょうか?

会社は管理職に部下の育成を期待します。その期待は徐々に高くなっています。ところが管理職の働く環境はそれが十分にはできない状況になっており、さらに兼務による激務がエスカレートしていく可能性もある状態ではないでしょうか。

だとすれば、いったいどうしたらいいのか? 管理職から現場の仕事を取り上げるのが本来的にはいいのですが、会社や職場の生産性を考えると現実的ではない職場が大半でしょう。せめて、時間の足りない管理職のマネジメントを支援するツールなど、負担軽減をする方法を検討してみてはどうでしょうか。最近はHR(ヒューマン・リソース)テックとよばれるITを活用したマネジメントツールが数多く登場しています。

例えば、上司と部下で目標と習慣をリスト化し、日々報告に活用するJTBグループが提供するサービスのHabi*do。日々の業務報告をスマホなど活用して簡単にできることに加えて「頑張っていますね」と励ましのコメントを提供したりしてやる気を高めることも可能。あるいは東急不動産が提供するインセンティブ・プラス。社員とのコミュニケーションの中身を上司が勘案して「ポイント」を付与できるサービス。行動に対する評価の機会を増やし、対象者の行動を変容させ、ひいては法人の業績アップへとつなげる新しい報奨サービスです。

流行りものとスルーしている場合ではない職場がたくさんあります。現場社員たちの置かれた現状を考え、管理職が部下の育成に役立つツールを探してみてはいかがでしょうか。