【詳細】他の写真はこちら

今月のテーマ

#02 ホンダ・シビックが国内復活!



1972年に初代モデルが登場して以来、“ホンダの顔”と言っても過言ではない『シビック』。世界170を越える国と地域で販売される基幹車種だけに、今回の新モデルが国内で発売することは、業界内外を問わず大々的に伝えられている。ホンダの持てる力のすべてが注ぎ込まれている『シビック』について、今回は日米の両ステージで徹底的にテストする機会を得たのでレポートする。

戦後の成長を牽引した“ザ・ニッポン”のブランド



冒頭から“昭和”の香りが芳しい話をすることをお許しあれ。

筆者が使った英語の教科書は、1ドルが240円換算だった。ざっくり今の倍以上である。当然、本物のアメリカ製品は高価で、若者は「リーバイス」のジーンズが買えないから国産ジーンズを履いた。今、カリフォルニアのセレクトショップに足を運ぶと、どこもかしこも日本製の高級ジーンズが並んでいる様子を見ると、隔世の感がある。

しかし、昭和の時代に“和製アメリカン・カルチャー”を生んだ企業は、日本にアメリカン・カルチャーの香りを運んだだけではなく、反対に海を超えたアメリカでも支持された結果、日本の奇跡的な経済成長を支えた。



元々はアメリカ製品のコピーに過ぎなかったが、日本人の生真面目さでアメリカン・カルチャーを忠実に再現。日本ならではの高品質な製品を作り、1990年代には日本製品がアメリカ文化を牽引する役割を果たすまでに成長した。

真面目な話、今、アメリカでは1990年代が流行中である。ロサンゼルスでもっともクールなバーに連れて行ってもらったところ、バーテンダーの背後にはソニー製トリニトロンとケンウッド製スピーカーが並び、カウンターの並びにはパックマンのゲーム機が鎮座していた。

いまどきタバコの自販機があるのを不思議に思って触ると、“カラオケ・ルーム”につながる秘密のドアだった。実際、1990年代には“和製アメリカン・カルチャー・ブランド”がアメリカ市場を席巻していた。

少々前置きが長くなったが、その代表格がソニーとホンダだろう。ソニーが2000年代前半にアメリカで行った調査では、「ソニーが日本企業」と答えた人はわずか4分の1に過ぎなかった。早い段階からニューヨークにショールームを設けたソニーらしいエピソードだ。

ホンダは高品質の日本車とは認識されているものの、早くにオハイオ工場をオープンさせ、アメリカ製パーツの使用比率が高いことからも、アメリカでの調査でもホンダ=アメリカ製品という認識が実は強い。

アメリカン・カルチャーの一端を担う自動車メーカーになるまでの道のりは平坦ではなかったが、その地位を構築した立役者の一人が『シビック』である。実は2016年にホンダが累計販売台数1億台を達成したとき、約4分の1にあたる2400万台を『シビック』が担っていたほどだ。

二度の危機を乗り越えシビック10代目が降臨



まさに“ホンダの顔”ともいえる『シビック』だが、長い歴史の中で危機にも見舞われた。最初の危機は、1970年の米国での“マスキー法”の成立である。

マスキー法とは、1970年にアメリカで制定された大気浄化法改正法。本格化した大気汚染解消に向けた法律で、その基準をクリアするのは当時不可能とまで言われるほど厳しいものだった。日本車だけでなく、ビッグスリーすらも例外なく、法律を遵守するためのエンジン開発に奔走した。

当時の技術では“エンジンの死”を意味するほど厳しい規制だったため、ホンダの技術者はまさに“夜を徹して”改良にあたり、全米でも一番乗りで低公害エンジンを載せた「CVCC」対策モデルを世に送り出したのだ。

CVCCとは1972年に発表した本田技研工業の低公害エンジンである。複合渦流調「速」燃焼方式の略称。

2度目にして、最大の危機は“リーマンショック”である。ホンダは『シビック』で技術を刷新するのが常だが、9代目は不幸にも経済危機のど真ん中に開発された上に、販売が振るわず、一旦は日本から『シビック』の車名が消えることになった。

幸いにも欧米で販売を続けた結果、フルモデルチェンジに伴って、今回、日本では6年ぶりの『シビック』復活となった。

ここでようやく、10代目となる新型『シビック』に話を移そう。開発に際して、チーフエンジニアを務めた松本秀樹さんが目指したのは、ホンダのDNAである“きびきびした気持ちのよい走り”、“カッコいいデザイン”の継承だ。

そんなの当たり前! とツッコミが入りそうだが、最近のホンダは二輪車の「カブ」から連綿と続く伝統の“生活で役立つ”モビリティ、具体的には『NBOX』や『フリード』が好調だが、もう一つの伝統であるスポーティな走りが失われたと囁かれていた。

従来の延長では、顧客の期待に答えられないと考えて、シビックの伝統でもある大胆なチャレンジを試みた。とはいえ、高いレベルで操る歓びを実現しつつ、現代的でスポーティなスタイリングを与えることは、生易しくない。

「キーワードは『OTOKOMAE』。一切の妥協をせず、こだわり抜き、鍛え上げた『シビック』を目指しました。プラットフォームを刷新するにあたって、開発当初からスポーツモデル『タイプR』の運動性能を想定。それを核にタイプR、ハッチバック、セダンを同時に開発し、ドイツの速度無制限高速道路であるアウトバーンや、世界有数のテストコースであるニュルブルクリンクを徹底的に走りこんで開発しました」と、松本さんは語る。

日本でも、アメリカでも、走ってワクワクするクルマ



ホンダが『シビック』にかける想いは、乗った瞬間から伝わってくる。まず、パッと見て、カッコいい。ギュッと凝縮されたスタイリングで、今にも飛び出していきそうだ。シャープなランプが精悍な顔立ちを強調し、サイドのプレスラインが個性を強調している。

ただ、『シビック』のスタイリングを言葉で伝えようとしても、なんだか使い古された表現ばかりで陳腐に聞こえてしまう。物書きとして、なんとも歯がゆいのだが、新型『シビック』のスタイリングは非常に立体的で、実際に見て感じる印象を言葉では伝えきれない。

ドアを開けると、ぐっと質感の高まったインテリアにはっとさせられる。

ライバルと目されるのはフォルクスワーゲン『ゴルフ』だから、当然の進化だ。Dレンジを選んでアクセルを踏み込むと、1.5リッター・ユニットから豊かなトルクが生み出される。

刷新されたプラットフォームの効用が最大限に感じられるのは、高速道路のつなぎ目を越えるようなシーンだ。ガツンと強い振動が残ることなく、さっと収束する。一方で、ワインディングロードに向かえば、今度はスポーティな走りにも対応する。

高速走行で感じたステアリング・フィールの頼もしさが、山道ではキビキビとした印象に変わる。本来、乗り心地の良さとキビキビした走りは両立が難しいが、ボディ剛性を高めることにより、足回りの設計に自由度が増し、両立できるようになったのだ。

個人的には、しっとりと大人の乗り味に成長したセダンを選ぶが、多くの人が『シビック』に期待するスタイリングと走りの魅力が高次元でバランスされている点では、やはりハッチバックに軍配があげたい。

もう一台、気になるのはアメリカ仕様の『シビックSi』だ。2ドアクーペのMT仕様を借り出して、カリフォルニアの空の下を走ってみた。ターボ付き1.5リッターエンジンから生み出される出力は205psと限られるが、アメリカの法定速度の範囲で走るぶんには必要にして十分だ。しゃきっとスポーティな操舵フィールでありながら、足回りの設定が懐が深く、山道でスポーティに操れる割に、アメリカの荒れた路面でも乗り心地がよい。

「『シビック』とは、ホンダの生き様。自由で、やんちゃな存在であるべきです」と、デザインを担当した千田隆作さんが言う通り、新型『シビック』の開発を通して、ホンダが本来の姿を取り戻したことを、一人のクルマ好きとして純粋に歓びたい。

川端由美(かわばたゆみ):環境ジャーナリスト。自動車の環境問題と新技術を中心に執筆するほか、海外の展示会取材も積極的に行なう。

※『デジモノステーション』2018年2月号より抜粋。

text川端由美