結婚に必要なのは、お金or愛?

それは、女にとって永遠のテーマである。

“最後は愛が勝つ”と信じたくてもそれは理想論だということに、女たちは徐々に気づいていくのだ。

しかし「お金より愛が勝つ」と言い切る、ある女がいた。

その名は、愛子。

金に目がない女だらけの東京において、愛子は信念を貫き、幸せな結婚生活を勝ちとれるのか?

広告代理店で働く29歳の愛子は、婚約者の知樹と幸せな毎日を過ごしていた。

一方、同時期に医者との結婚を決め、結婚式準備に精をだす親友の明日香は、御曹司・翔太が愛子に好意を抱いていることに気がつき、悪巧みをするのだった。




「まあ、お客様!とってもよくお似合いですよ…!!」

おそるおそるカーテンを引いて、愛子が試着室から歩み出ると、店員が悲鳴のような歓声をあげた。知樹は驚いた表情で、その場に立ち尽くしている。

今日はウェディングドレスの試着をするため、愛子は知樹と銀座に来ている。先週末、ようやく二人の式場が決まり、提携のドレスショップにやってきたのだ。

「トモくん、さっきから黙ったままだけど、何か言ってよ…」

愛子が気まずそうに促すと、知樹ははっと我に返り、頭を掻いた。

「いやぁ…あんまり綺麗だからビックリしちゃって…」

思わず愛子も照れ笑いしながら、あらためて鏡に映った自分の姿を見つめ直す。生まれてはじめて袖を通すウェディングドレスには、不思議なパワーがあった。

それまではいまいち、結婚することへの実感がどうも沸かずにいたが、こうしてドレスを着ると、ついに自分は結婚するんだとしみじみ感じることができる。

王道のAラインを試着したあとは、マーメイドラインやエンパイアドレスなどいくつかのドレスを試した。

「Aラインも素敵でしたけど、お客様背が高くてスタイルが良いので、マーメイドラインもとってもよくお似合いでしたよ」

「私もその2つで迷っていて…。ああ、どちらも素敵すぎる。でもやっぱりAラインかしら」

「それでしたら、お色直しで両方着られてはいかがですか?最近はカラードレスでなく、白いドレスを2回着られるお客様もたくさんいらっしゃいますから」


愛子に突きつけられた結婚式の現実。




結婚式準備の現実


一通りの試着を終えたあと、店員が見積もりを作成して持ってきた。すると知樹が不思議そうな顔をして尋ねる。

「あれ…?たしか、契約した式場のプランの中にドレスのレンタル代金は含まれているって聞いてたんですけど…」

店員はにっこりと笑って説明した。

「プランに含まれているのは、レンタル価格25万円までのドレスでございます。25万円以上のドレスの場合は、差額をお支払いいただくことになります」

「あっ、そうでしたか…。そういえばプランナーさんもそんなことを言っていたような。すみませんでした」

知樹が恥ずかしそうに笑った。愛子は見積もりに目を落とし、アッと息を飲んだ。

-Aラインのドレス、66万円もするのね…!

つまり、プラン料金との差額が41万円だ。さらに見積もりには、小物の金額も明記されている。ベールやグローヴ、パニエにランジェリー、ヘッドドレスやジュエリー…。

黙り込んでいる愛子に向かって、店員は続けて言った。

「ちなみにマーメインドラインのものは46万円プラス消費税でございますので、2着の場合はそちらの料金が追加となります」



自宅に帰ってから、式場のプランナーから週末に渡された見積書をあらためて二人で見返す。

「覚悟はしてたけど…結婚式って本当にお金がかかるのね」

愛子がため息をつくと、知樹は笑いながら言った。

「まあね。でも、見積もりに書いてあるサービスを全て頼まなくちゃいけないわけじゃないんだし、無駄なものは省いていこうよ」

「無駄なものって、例えば?」

「ほら、当日のライブエンドロールとか、要らなくない?事前に製作したエンドロールを流せばいいわけだし…。それに当日の動画撮影も本当に必要なのかな。結婚した友人は皆、式の後に一度見たきりだって口を揃えて言ってたよ」

さすが、知樹は現実的である。愛子も当初は、結婚式のたった1日にこんなたくさんのお金をかけるなんて、なんだか自己満足で滑稽な気がしていた。

しかし会場を下見し、ドレスを試着しているうちに、考えが少しずつ変わり始めていた。できれば後悔のない最高の1日にしたい、そう思い始めていたのだ。

-ライブエンドロールも動画撮影も、出来ればやりたいな…。

そんなことを考えていたら、知樹が言った。

「でも、ドレスは値段を気にしないで、愛子の着たいものにしよう。愛子、お色直しは興味ないって言っていたし、だったら一番気に入ったものを1着選べばいいよ」

Aラインとマーメイド、どちらも着たくなっていたが、今さら言い出しづらい。

―ドレス代は自分で負担しようかな……?いや、ダメだわ。費用は全てトモくんと折半しようって話し合ったのに、そんなこと勝手に決めたらこの間みたいに喧嘩になっちゃう。

「そうね…!ありがとう」

モヤモヤした気持ちは残ったが、知樹の気遣いは嬉しかった。だから愛子は本心に蓋をし、笑顔を浮かべるのだった。


明日香がいよいよ、動き始める。


夫婦間のお金の問題


その翌日の日曜、愛子は明日香にランチに誘われて六本木に来ていた。

実を言うと、明日香とは電話での一件以来、二人きりで会うのをなんとなく避けていた。だから今日も理由をつけて断ろうとしたら、泣きそうな声でこう言ってきたのだ。

「愛子、最近私に冷たいよね…。なんか寂しい…!」

昔から明日香に甘えられると、愛子はノーと言えないところがある。こうして仕方なく呼び出しに応じたのだった。

約束の時間より少し早く六本木についてしまったので、けやき坂のスターバックスでチャイティーラテを飲みながら時間を潰す。

すると隣のテーブルでお茶をしている主婦たちの会話が耳に飛び込んできた。

「また昨日も旦那と大げんかしちゃったの。子供のお受験をどうするかで言い争いになったのよ。旦那は、公立で十分だって。マンション買うときも揉めたし、教育方針も合わないし、結婚してからお金の問題で喧嘩ばっかりよ」

”お金の問題”という一言に、愛子は思わずギクリとする。昨夜の知樹との会話を思い出したのだ。

-私とトモくんは、大丈夫よ…。

胸によぎる小さな不安を打ち消すように、愛子は自分に言い聞かせるのだった。



『ノック クッチーナ ブォナ イタリアーナ』に到着すると、先に着いていた明日香が笑顔で手を振った。

名物のマスカルポーネとレーズンパネ・パンナや、パスタをオーダーしたあとで、明日香に尋ねられる。

「愛子、ドレスの試着はどうだった?どんなのにするか決めた?」




愛子は明日香に試着の際に撮った写真を見せた。Aラインのドレスを着たときのものだ。

すると明日香は怪訝な顔をする。

「かわいいけど…1着だけ?お色直しは?」

愛子がお色直しはしないつもりだ、と答えると明日香は顔をしかめた。

「え?お色直し無しの結婚式なんて、私行ったことない。なんでしないの?そんなケチくさい結婚式やめたほうがいいわよ。ゲストからもご祝儀いただいておいて、式の費用をケチるなんて、愛子らしくない。まさか、知樹くんのせい?」

「いや、そういうわけじゃないの」

しかし明日香は畳み掛ける。

「ねえ。気になってたんだけど、知樹くんと喧嘩したとか言ってたよね?それってどうして?」

愛子がしぶしぶ、転職の件を相談無しに進めていたからだと説明すると、明日香は首を横に振る。

「それ、相談がないから怒ったわけじゃないと思う。そんな小さなことで普通怒らないでしょ?知樹くんが怒ったのは、愛子の年収が下がるのが嫌だったからよ。だから愛子に絶対、転職させたくなかったのよ」

その言葉に、さすがの愛子も苛立ちを感じた。

「あのね…トモくんはそんなタイプじゃないってば」

しかし明日香は、妙に自信に満ち溢れた顔で言った。

「ううん。私にはわかる。私は愛子より前から、知樹くんと友達だったから彼のことをよく知ってる。彼って実はああ見えて、お金への執着が強いタイプなのよ」

そして甘い声で囁いた。

「ねえ。そんなヒモみたいな男、愛子にはふさわしくないよ。貧乏くさい結婚式しかあげてくれないなんて、男として不甲斐なさすぎる。もっと、愛子にぴったりの男、他にいると思うよ…」

「えっ…?」

愛子が驚いて顔をあげると、明日香は微笑を浮かべて、きっぱりと言った。

「愛子を幸せにできるのは、藤原さんだと思う」

▶Next:1月29日月曜更新予定
明日香の悪魔の囁きは、現実となる……!?