JTビル(「wikipedia」より)

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 日本たばこ産業(JT)は、海外統括子会社であるJTインターナショナル(JTI、スイス)副社長の寺畠正道氏が社長に昇格した。寺畠氏は2018年1月1日付で執行役員社長になり、3月27日の定時株主総会を経て代表取締役社長に就く。寺畠氏は52歳で、JT民営化後、最年少の社長だ。

 小泉光臣氏は17年12月31日限りで社長を退任しており、株主総会の終結をもって代表取締役も退く。そのほか、海外M&A(合併・買収)を担当する新貝康司副社長も退任する。両氏は顧問や相談役にも就かない。一方、元財務次官の丹呉泰健会長は留任する。財務省は天下りポストを守ったといえる。

 日本専売公社が民営化して発足したJTは大蔵省(現財務省)の直轄地で、歴代トップは大蔵官僚の指定席だった。

 初代社長・長岡實氏(在任1985〜88年)は日本専売公社最後の総裁で、元大蔵事務次官。2代・水野繁氏(88〜94年)は元大蔵省証券局長、元国税庁長官を歴任した。3代・水野勝氏(1994〜2000年)は元大蔵省主税局長、元国税庁長官である。

 4代・本田勝彦氏(00〜06年)は初の内部昇格で、その後も5代・木村宏氏(06〜12年)、6代・小泉氏(12〜17年)と内部昇格が続いた。

 民主党政権が錦の御旗に掲げた「天下り根絶」によって天下り組は冬の時代を迎えた。JTは12年に木村会長と小泉社長の体制となり大蔵省・財務省出身の取締役は一人もいなくなった。

 だが、民主党から自民党に政権が回帰し、安倍晋三首相の誕生で潮目が変わった。財務省は有力な天下りポストを奪還した。

 14年6月の定時株主総会で丹呉氏が会長に就任。同氏は東京大学法学部を卒業し、旧大蔵省に入省。首相秘書官、理財局長、主計局長、事務次官などを経て、安倍政権の内閣官房参与を務めていた。JTの取締役に財務省出身者が就くのは2年ぶりのことだった。自民党が政権に戻った産物である。

 JTの経営トップは6年務めるのが慣例だ。そのため、丹呉氏は20年まで会長にとどまり、その後は財務省出身者に席を譲ることになるとみられる。

●海外M&A組が社長の登竜門

 新社長になった寺畠氏は、民営化後のJTに入社した世代だ。この世代から初めて経営トップに就く。

 同氏は広島県出身で、1989年に京都大学工学部を卒業してJTへ入社。在籍28年のうち12年強を海外で過ごした。30代前半には経営企画部のメンバーとして米RJRナビスコから米国事業以外の海外のたばこ事業、RJRIを9420億円で買収したディールに携わった。執行役員を経て13年に取締役、JTインターナショナル副社長に就いた。

 JTでは海外M&Aを担当することが社長への登竜門となっている。寺畠氏はそのコースを歩み、40代で次期社長候補と目されてきた。JTは計3兆円以上を投じた海外M&Aでグローバル企業に転身した。

 JTによるRJRI買収は、総責任者が4代社長になった本田氏、実務執行責任者は5代社長の木村氏。さらに、6代社長の小泉氏と7代社長に就く寺畠氏が買収プロジェクトのチームに加わっていた。

 RJRIの事業を母体に、JTの海外事業を統括するJTIが設立された。

 一連のM&Aで主導的役割を担ったのが木村氏だ。社長時代に英ギャラハーを2兆2000億円で買収した。12年、木村氏は会長に就き、社長、会長とも生え抜きという体制になった。しかし、財務省の巻き返しで、この体制は長く続かなかった。14年6月、木村氏は会長を退き、後任に丹呉氏が天下ってきた。

 木村氏は“完全民営化”を悲願としてきた。JTの筆頭株主が国(名義上は財務大臣)ということと、国内葉たばこ農家を抱えていることで、社員の多くは「潰れることはない」という安心感に浸っている。官公庁と同じで緊張感はなかった。

 JTの“お役所体質”を克服し、経営のフリーハンドを得るためにも、完全民営化はぜひとも実現しなければならない経営課題だった。

 13年3月、政府は東日本大震災の復興財源のためJT株式の一部を売却した。それでも財務大臣が33.35%(17年6月中間期)を保有する筆頭株主であることに変わりはない。

 JTの16年12月期の営業利益5933億円のうち、海外たばこ事業は56%を占める。しかし、健康志向の高まりを受けて、17年の国内紙巻きたばこの販売数は13%も激減する見込みだ。加熱式たばこで巻き返しを図っているが、国内事業の大幅な減益は避けられない。

 そのため、海外事業への依存度が一段と強まることになるだろう。

「グローバル企業」JTIと「ドメスティック企業」JT――。双頭のモンスターとしてJTグループは今後も存在し続けることになる。

 そのアンバランスの象徴が、天下りの慣行だ。
(文=編集部)