発展が続く豊洲。江東区はここから住吉までの地下鉄延伸構想に力を入れている(写真:ワンセブン / PIXTA)

人口が増え続ける江東区。都心回帰の流れが高まる中、1995年には39万5000人だった人口が、2017年には51万人に近づこうとしている。鉄道の混雑は深刻化し、南北の移動を担うバスも混雑している。

そんな中、江東区は地下鉄「東京8号線」の延伸に力を入れている。東京8号線とは地下鉄有楽町線のことで、同区が目指しているのは豊洲から分岐し、半蔵門線・都営新宿線が乗り入れる住吉までの延伸だ。

東京8号線の延伸は、1972年に都市交通審議会で亀有への分岐が初めて答申され、1982年には営団地下鉄により豊洲―亀有間の免許が申請されている。1985年には豊洲―亀有間を2000年までに整備することが適当と運輸政策審議会が答申した。2000年には豊洲―野田市間を2015年までに整備するという運輸政策審議会の答申もあった。

江東区はやる気だ


東京8号線(豊洲―住吉)の計画路線と周辺の路線概要(編集部作成)

だが、この路線はいまだに造られていない。豊洲駅と住吉駅には、この路線を導入することを想定した場所が確保されているものの、それ以外の箇所の建設は着手されていない。それどころか、2004年に営団地下鉄が東京メトロへと民営化された際、同社は副都心線を最後に新線の整備を行わない方針を立てた。

しかし、江東区はあきらめなかった。人口が増加しつつあった2010年度、豊洲―住吉間の延伸に関する検討会を開始した。2012年度には同区間の事業化検討委員会、2013年度には延伸に関する懇談会を設置した。

東京都は2015年7月に公表した「広域交通ネットワーク計画について」の中で、この区間を「整備について優先的に検討すべき路線」であるとし、翌2016年4月に交通政策審議会が取りまとめた東京圏の鉄道整備についての答申では「国際競争力の強化に資する鉄道ネットワークのプロジェクト」に指定された。

江東区は隅田川と荒川に挟まれた場所に位置し、大手町から区役所付近までは5〜6kmほど。区内を南北に貫く四ツ目通りは多くの人やバスを中心とした車であふれている。また、豊洲ではIHIの造船所や工場が移転し、跡地ではまちづくりが進み人口が増加している。そんな中で「区の内陸から豊洲へ、また東陽町へ」という移動が必要になってきたと、平川進・江東区土木部地下鉄8号線事業推進担当課長は言う。平川担当課長は、「区の南部が大きく開発されており、(内陸と)結び付けたいという考え方がある」という。


江東区の南北を移動する手段である都バス(筆者撮影)

この地域は都バスの利用が比較的多い地域だが、「バスよりも鉄道の輸送力は大きい。また(鉄道を)つなぐことで、東部の交通網に大きな影響がある」と平川担当課長。通勤時間帯の都営バスには積み残しもある。また、東陽町周辺には企業が多く立地し、そういった場所に豊洲をはじめ、各地域から通いやすくするためには鉄道が必要だという。全国でもトップクラスである、東京メトロ東西線の混雑を緩和するという目的もある。

東西線混雑緩和にも効果

では、地下鉄を造ることでどの程度の効果が見込めるのか。江東区は、2017年3月に発表した「東京8号線(豊洲―住吉間)整備計画調査報告書」の中で、豊洲―住吉間の輸送人員を1日当たり27万8000人、1年間の運輸収入を58億3000万円と予測する。

混雑緩和効果についても、東西線の最混雑区間(木場―門前仲町間)の混雑率を195%から177%(いずれも2030年の予測値)に抑えることができるとしている。また、区内の湾岸エリアを走るJR京葉線の最混雑区間(葛西臨海公園―新木場間)の混雑率も、182%から171%(2030年の予測値)へ抑えることができるという。

豊洲―住吉間を整備することにより、鉄道利用が不便な地域を解消するだけではなく、南北を結ぶ鉄道の軸ができるというメリットもある。東京の南北を貫く西側の軸は湘南新宿ライン、中央の軸は上野東京ラインがあるが、東側の南北移動はあまり整っていない。

埼玉方面から南下してくる東武スカイツリーライン(伊勢崎線)と東京メトロ半蔵門線に、住吉―豊洲間の地下鉄を結び付ければ、東側にも南北の軸ができる。さらに、豊洲から臨海部を走るゆりかもめやりんかい線へもつながっていく。こういった軸ができれば、現在は不便な東京東部の南北移動も便利になる。


江東区は、東京8号線豊洲―住吉間の運行主体に東京メトロを想定している(筆者撮影)

平川担当課長によると、東京8号線豊洲―住吉間については「都営地下鉄による運行は考えていない。東京メトロが運行すると考えている」という。問題は、どのようにしてこの路線を造るかだ。

東京メトロは民営化時に、自ら新線を造らないとの方針を打ち出しているが、改めて同社に聞くと、「弊社としては、新線建設に対する協力を求められた場合、都市鉄道ネットワークの一部を構成する事業者として、『当社の経営に悪影響を及ぼさない範囲内にて行う』という方針で対応していきたいと考えています。地下鉄8号線に関しても同様の方針で対応する考えです」との答えが返ってきた。

建設は実現するか?

となると、重い負担となる建設費などの問題をクリアすれば可能なのではないか。

この計画は、「事業手法・事業主体をはっきりと決めないと進まない」と平川担当課長は言う。江東区の報告書では、路線の整備については「整備主体と営業主体を分ける上下分離方式が想定される」と記しており、収支などの予測条件では、整備主体を第三セクター、営業主体を東京メトロとしている。平川担当課長によると、これは東京メトロに投げかけたメッセージなのだという。だが、「フィードバックはまだない」という。

報告書によると、建設費は1420億円、車両費は140億円で予測している。建設にあたっては「地下高速鉄道整備事業費補助」か「都市鉄道利便増進事業費補助」という補助制度の活用が考えられるとしており、地下鉄8号線延伸では前者の適用が適当であるとしている。この制度を活用した場合、整備主体の累積資金収支は30年以内に黒字転換する見込みだ。

地下鉄8号線延伸は、江東区と東京メトロだけで解決するものではない。東京都では、これ以外にも2016年の交通政策審議会の答申を受け、「都民ファーストでつくる『新しい東京』」の中では「東京8号線の延伸」を含む6路線の新線の計画を記している。都によると、「その中での優先順位については特にない」という。となると、計画のある各地域が声を上げて早期建設を競うということになる。

だが、2020年の東京オリンピックまで、東京の土木・建設事業者は多くの仕事を抱えている。オリンピックが終わり、土木・建設業者の手が空くような状況にならないかぎり、着工は難しい。それまでに国や東京都、江東区、東京メトロなどがどのように合意形成を行っていくかが、この計画の成否に結び付いていくだろう。