「銀座七丁目花椿通り 椿屋珈琲店本館」

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 コーヒーほど価格の二極化が激しい市場は、ほかにないのかもしれない。

「椿屋珈琲店」という高級喫茶店チェーンがある。本格的なサイフォンコーヒーを楽しむことができる喫茶店なのだが、一般的な喫茶店とは一線を画している。店内はシックで重厚感がある造りで、大正時代の洋館をモチーフにしている。高級感あるアンティークな雰囲気が店内に漂う。

 女性の店員は個性的だ。黒色のブラウスを着用し、その上にエプロンのような白色のユニフォームを着込んでいる。また、頭の上には白色のカチューシャをつけ、その姿は大正時代のメイドのようだ。落ち着きのある上品な接客を行い、上質な雰囲気を醸し出している。

 同店の高級感あふれる造りと雰囲気に驚かされるのだが、もっと驚くべきことがある。まずはコーヒーの価格だ。店舗によって若干異なるが、たとえば「銀座七丁目花椿通り 椿屋珈琲店本館」では、「椿屋オリジナルブレンド」は980円(税込、以下同)にもなる。しかも、量は大人の握りこぶし程度しかない。一般的な喫茶店のコーヒーのSサイズと同じかそれよりも少ない量にしかならないのだ。

 ドトールコーヒーショップと比べると、価格の高さのほどがよくわかる。「椿屋オリジナルブレンド」は、ドトールの「ブレンドコーヒー」Sサイズ(220円)の実に4倍以上にもなる。しかも、「椿屋オリジナルブレンド」は同店で扱う飲み物のなかでは最低水準で、ほかの飲み物の大半が1000円を超えているのだ。

 ドトールよりも価格帯が高い、ほかの喫茶店・カフェとも比較してみたい。スターバックスコーヒーの「ドリップコーヒー」ショートサイズ(302円)と比べると3倍以上になる。コメダ珈琲店の「ブレンドコーヒー」(420円)だと2倍以上だ。高級喫茶店の星乃珈琲店六本木店の「星乃ブレンド」(600円)だと1.6倍以上となる。これらと比較してみても、椿屋珈琲店の価格の高さのほどがわかるだろう。

 食事・デザートメニューも高価格のものばかりだ。たとえば、「椿屋特製ビーフカレー」は1250円、サンドイッチメニュー「椿屋ホットサンド」は1150円、「珈琲ゼリーとバニラアイス」は1180円という価格となっている。セットメニューになると、さらに価格は跳ね上がる。

 同店は地価が高い銀座に立地しているため、必ずしも割高とはいえないのかもしれない。しかし、喫茶店という括りで考えれば驚きを禁じ得ない高さといえるだろう。同店を含めて「椿屋」を冠する系列の喫茶店は都内を中心に約40店あるが、このように多店舗展開している喫茶店でこれほど高額のコーヒーを提供しているチェーンは、ほかではなかなか見当たらない。逆に、これほどの高価格帯で多店舗展開できているというのにも驚いてしまう。

 もうひとつの驚きは、客の多さと回転の速さだ。ブレンドコーヒーが1000円近くもするため客は少ないかと思いきや、休日の昼時に訪れてみると、店内は多くの客で賑わっていた。年齢層が高く、裕福そうな人が多い印象がある。意外にも長居する客は少なく、コーヒーや食事を簡単に済ませて帰る人が多いため、客の回転が速い。コーヒー1杯で長時間粘る客は皆無だった。一般消費者の節約志向が弱まる気配を見せないなか、高価格帯のメニューを扱っているにもかかわらず、客数が多く回転が速いため繁盛しているようだ。

 運営会社の東和フードサービスの業績が好調なことからも、椿屋珈琲店の人気のほどがわかる。2017年5〜10月期の単独決算は、売上高が前年比2.7%増の54億2500万円、純利益は40.4%増の2億円だった。通期の業績も好調で、17年4月期まで4期連続で増収を達成している。

 ちなみに、同社は喫茶店やカフェのほか、手づくりケーキや自社工場直送の生パスタ、ピザなどを提供するイタリアンレストラン、お好み焼き・鉄板焼き店などの飲食店も展開している。

●競争が激化するコーヒー市場

 それにしても、コーヒーといえば一昔前までは低価格が当たり前だった。その先駆けがドトールだ。ドトール1号店が誕生したのは1980年だが、当時1杯300円程度が一般的だったコーヒーを150円という低価格で販売した。その後、およそ20年間は150円に据え置き、一般サラリーマンたちが気軽に飲めるということで人気を博した。現在は、前述した通り「ブレンドコーヒー」Sサイズを220円で販売しているが、この価格でも十分安い。

 低価格の喫茶店といえば、カフェ・ベローチェもそうだろう。「ブレンドコーヒー」通常サイズの価格は200円でドトールよりも安い。ほかのメニューも低価格だ。また、「速い」という意味のイタリア語を店名にしていることからもわかる通り、迅速なサービスを提供することを旨としている。客は低価格で店を利用することができ迅速なサービスを受けられるので、気軽に利用できる喫茶店として人気がある。

 近年でいえば、コンビニコーヒーも低価格で人気を博している。セブン-イレブンやローソン、ファミリーマートなどがレジカウンター横で、本格的なコーヒーを100円程度で販売して話題となった。

 さらに、近年はコンビニにおいてイートインの設置が進み、カフェ化の様相を呈している。従来のコンビニコーヒーは持ち帰り需要がほとんどだったため、既存の喫茶店やカフェとの競合は限定的だったが、近年はコンビニ内のイートインコーナーでコーヒーを飲む人が増えているため、双方の競争が激化しつつある。

 このように、低価格のコーヒーが市場を席巻しているが、近年は高価格帯の市場も大きく伸びてきている。少し古い情報になるが、市場調査会社の富士経済は、客単価が900円以上の高価格型喫茶店・コーヒー専門店の16年の市場規模の見込みを878億円とはじき出し、15年比で5.1%増加するという見通しをたてている。15年の市場規模は835億円で、14年比で9.9%増加したという。高価格帯の喫茶店市場は大幅に拡大しているとの判断を示しているのだ。

 賃金が思うように伸びず消費者の節約志向が弱まる気配が見えない一方で、近年は株価が上昇し、それに伴う資産効果で富裕層の消費が活発になっている。高級時計や美術品など嗜好品の売れ行きがいいとメディアなどで伝えられているが、その波及範囲はどうやら喫茶店市場にも及んでいるようだ。

 今後の喫茶店市場は、ドトールなど「低価格」を売りにする勢力に加え、椿屋珈琲店など「高価格だが高級」を売りにする勢力の動向も見ていく必要がありそうだ。
(文=佐藤昌司/店舗経営コンサルタント)

●佐藤昌司 店舗経営コンサルタント。立教大学社会学部卒。12年間大手アパレル会社に従事。現在は株式会社クリエイションコンサルティング代表取締役社長。企業研修講師。セミナー講師。店舗型ビジネスの専門家。集客・売上拡大・人材育成のコンサルティング業務を提供。