「自称クリエイター」から売れっ子芸能人まで、半ニートから高額所得者まで……幅広い社会人のるつぼ・下北沢のバーを中心に「一人飲み」歴10年以上のライター・きたざわ御神酒(おみき)です。酒の席で遭遇した男女の「へー」「うわー」「あら〜」「イタタ!」なヨモヤマ話をご紹介します。

バーは、社会的バックボーンから解放される、癒しの空間

バーというと、セクシーなオッサンが「あちらの彼女に1杯」と酒を贈って、一夜の恋が始まる……なんて昭和な発想とは全くかけ離れた、レゲエ20代マスターのカジュアルバーにデビューした、30歳当時の私。店のノリを一言で表すなら、「小学生のクラブ活動が『お酒クラブ』になったような店」でした。

ちゃんとしたツマミもあるけど、店内で『よっちゃんイカ』等の駄菓子も買えるバーで、床は人工芝。「みんなが楽しかった子供時代」を連想させるインテリアに、下は20代の学生やOLさんから、上は50代のデザイン会社社長や、『新聞社で編集長をやってたのよ』という80代のマダムまで、みんながカウンターに並んで世間話……というような、のんびりした空間。仕事帰りにその店で一人飲みするようになって、顔見知りも増え、「ああ、家に帰る前の、いいセカンドスペースができたなぁ」と、すっかり落ち着いていた私。

自分と別業界の職業の人に出会うのも楽しみで、「私、ライターなので、いろんなお話聞いてみたいんです」と自己紹介すると、みんないろいろ話してくれました。自分の社会的な立場と全く関係ない場所だから、気楽になんでも打ち明けられちゃうんですよね、ほかの一人飲みの人も。実際、私は社会人になってずっとマスコミ系の限られた世界にいたので、いわゆる「普通の仕事」の話は、なんでも新鮮で面白かった。サラリーマンの方の会社の愚痴話を「へぇ〜!そんな事があるんだ!意地悪な人がいるもんですねぇ!」と、やたら食いついたりするもので『聞き上手な女性』のような誤解を受け(笑)、酒をおごっていただく……なんて事も出てきました。自分の職場ではガツガツした『可愛くない女』の私にとって、素晴らしき癒しの世界。マスターのキャラがムンムンしてないので、様子を見ながら女性客をフォローしてくれて「強引に一夜のお持ち帰りトラブル」とかも出ない、ほんとに平和なバーでした。

『伝説の彼女』に出会うまでは。

複数の名で呼ばれる、マンガみたいな「魔性の女」に遭遇!

ある夜、いつものように行きつけの店に入っていくと、先客は女性一人。私と同年代くらいの、カジュアルなワンピースを着た、ちょっと綺麗な人。私は初対面だけど、マスターとは何度か面識があるっぽい。……そんなのよくある光景なんですが、いつもと少しだけ雰囲気が違う?なんだろう?と思いながらも、私にも愛想のいい彼女の隣で飲み始めて5分、違和感の正体に気づきました。

いつもホンワリのんびりしたマスター「ラガくん(仮名。レゲエ系なので)」が、なんとなく前のめり?ほほう、彼女にちょっと興味あるんだ?意外。過去に「ラガくんのタイプ」と感じた女の子たちは、みんな20代前半の、ちょっと元気なレゲエ系とかエスニック系でしたが、隣の彼女は「しっとりした、おとなしめ」。色白でスラッとしていて、すずやかな切れ長の目。厚くて形のいい唇にだけピンクベージュの控え目なリップがのってるところが、さりげなく色っぽい。ささやくような、でもよく通る声で話す言葉遣いも綺麗で、頭の良さを感じさせます。

遠目で見ると「ちょっと綺麗な人」だけど、そばで話すと「すごくイイ女」と感じさせるタイプ。おお〜、ラガくん、こういう人は、たしかにイイよね〜!と、個人的にそっちの興味も涌いてきて、「こりゃ、彼女がどういう人なのかお話しなくちゃ!」と、私まで内心、前のめり(笑)。会話の最初のほうで、彼女と私が同学年とわかり、自然と打ち解けた空気に。時間は深夜1時。私は仕事時間にムラがあるので、翌日はオフでしたが、世間は平日。なんの仕事の人なんだろう?と思いながら……。

私「電車もうないよね。近所なの?」

彼女「うん。すぐ近く」

私「私も〜。私、フリーだから、明日は仕事休みなんだ」

彼女「私も」

私「平日休みなんだ。じゃあ、安心して飲めるね」

彼女「平日休みっていうか、シフトが自由なの。だから、出勤するのは、月に2回くらい」

月に2回の出勤!?ずいぶん優雅だな。あ、実は結婚してて、仕事は趣味とか?……だったら、こんな深夜に一人で飲みに来ないか。

脳内でナゾを深めつつ「そういえば、まだ名乗ってなかった」と気づき。

私「私、御神酒(おみき)です」

彼女「私はショーコ」

私「え?でも、ラガくんは『リエちゃん』って呼んでなかった?」

ここでラガくんが「この人、名前いっぱいあるみたい」と、ナゾのセリフをインサート。

彼女「ペンネームとか?」

私がそう返すと、ラガくんが複雑な顔。一体なんなんだ!?ナゾを探るべく、私は自分の職業を話しました。

私「『ペンネーム』って、発想が唐突だったかな?私、自分自身がペンネーム持ちのライターなんだ。だからいろんな話聞くの、勉強にもなるな、って、このお店で会った人に次々話しかけちゃうの。嫌じゃない?」

探るように私がそう言うと、ショーコちゃんは微笑みました。

彼女「全然。私、女のコの友達少ないから、楽しい」

私「えー!嬉しい!ショーコちゃんは、なんのお仕事してるの?」

彼女「デリヘル」

で、で、デリヘル!?

堅実女子の皆様は、デリヘルが何かご存知でしょうか?「風俗」という大まかなくくりの中の細かい説明をしますと、「ホテル等の指定の場所に女の子がヘルス・サービスをしにデリバリーしていく」お仕事の事です。『ショーコ』は本名で、『リエ』は、似ている女優さんからとった源氏名。男性相手に話す時には、彼女は源氏名を名乗っているそうで「下北沢では『ユウカ』って呼ぶ人もいる」だそうです。

それまでの私の生活で、風俗の仕事をしている女性と会話した記憶はありません。ものすごい驚きました。が、彼女は私には本名を名乗り、するっと職業を明かした。苛烈な事を言ってからかおうとしている風では、まったくありません。なので、頭の中ではそれなりに衝撃をうけつつも、会話の流れを全くとめずに言いました。

私「へー。大変そうなお仕事してるんだね。どうしてその仕事選んだの?」

のちに、彼女が『この辺のバーに出没しては、男性を食いつくして店から消える伝説の魔性の女』だと知ることになってくのですが……。〜その2〜に続きます。

魔性の女は表面的には同性にフレンドリーだったりします。