トランプ大統領は米豪関係悪化に拍車をかけている(写真:Yuri Gripas/ロイター)

30年前のことだ。英政府でアフリカ・アジアに関する閣僚級の職責を担っていた私の同僚は、世界地図を上下反対にして執務室に掲げていた。そうすることで、当時「第3世界」と呼ばれていた地域が抱える問題に対する理解が深まるのだと彼は力説していた。だが、英国から見て本当に地球の反対側に位置しているのは豪州だ。子供たちは学校でこう教えられたものだ。地球を真っすぐに貫くトンネルを掘ったとしたら、たどり着くのは豪州だと。

豪州は活力ある民主主義国家である。法の支配や、自由で開かれた社会というものが深く尊重され、全世界からの移民や難民にとって安息の地となってきた。しかし、この賞賛すべき国は今、存在意義にかかわる難題に直面している。

豪州にとって米国の動きは厄介

過去何十年にわたり、豪州は米国と同盟関係にある。だが、トランプ米大統領は同盟国との関係に異議を投げかけるだけでなく、米国が先頭に立って支えてきた国際協力の仕組みをも切り崩すべく、活発に動き回っている。「米国を再び偉大にする」とのスローガンとは反対に、世界における米国の地位をおとしめているのである。

豪州は、インド、日本、米国など民主主義の価値観と利害を共有する国との連携強化を望んでおり、こうした米国の動きは厄介だ。豪州が模索する同盟関係は中国の封じ込めを目指すものではないが、中国が軍事力を盾に地域を不安定化し緊張を高めないようにすることを狙っている。確固たる対抗勢力がなければ、いかにも中国がやりそうなことだ。

トランプ氏と同様、習金平国家主席は前任者の政策を次々にひっくり返している。臂平氏の「改革開放」路線のいくつかも、その中に含まれる。毛沢東スタイルの個人崇拝が進んだ今、習氏は「中国を再び偉大にする」時が訪れた、と高らかにうたい上げる。習氏の下、中国共産党は再び経済を支配することが可能になり、自由企業は今や、国有企業に従属する存在だ。

1917年のロシア革命以降、すべての共産主義体制は「統一戦線」を党勢拡大の目的に利用してきた。国内外を問わず、時にはそれとなく、時には公然と。だが、そのやり方はつねに姑息なものだ。今日における中国の統一戦線も例外ではなく、そのターゲットになっている国の1つが豪州なのだ。

豪州と中国の経済的な結びつきは強い。中国は豪州から資源や農産物を輸入する一方、豪州には実業界から学界に至るまで幅広く資金や人材を輸出してきた。豪州に住む中国人には、圧政や腐敗から逃れてきた者もおり、多くが愛国的な豪州人となっている。

中国に懐柔されるつもりはない

だが、中国の一党独裁体制の手下になっている者も存在する。中国の外交官やビジネスマンがこうした人々を操っているのだ。その工作活動の影響は外交政策の遂行のほか、豪州政府に対する反対票の動員に見て取ることができる。

そこで豪州のターンブル首相が対抗策として打ち出したのが、政党や活動家組織に対して国外からの献金を禁じる法案だ。一部の慈善活動も規制対象となり、海外の利害関係者に雇われた元政治家、ロビイスト、企業幹部が豪州政治にかかわる場合には登録を義務づける。これが明確に意図しているのは、豪州の民主主義に対する外国──とりわけ中国──からの干渉を防ぐことだ。

豪州は中国の友人となる用意があるが、脅かされたり懐柔されたりするつもりはない、というのが同首相のメッセージだ。民主主義国家の団結が、このメッセージを明確にする助けとなるのは間違いない。なのにトランプ氏は豪州を支援するどころか、悪ふざけによってターンブル首相の努力を台なしにしてしまっているのである。