30代、40代なら気をつけるべき脳の病気

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■現代人は血管の老化が早い

「日本人の主な死因は、(1)ガン、(2)心臓の病気、(3)肺炎、(4)脳の病気の順です。厚生労働省の発表による4大死因ですが、この4つはさらに大きく2つに分けられます」

脳神経外科医の菅原道仁氏(菅原脳神経外科クリニック院長)はこう話す。どういうことか。

「実は2位と4位は、心臓と脳の『血管の病気』なのです。心臓の血管が詰まれば心筋梗塞になり、脳の血管が詰まれば脳梗塞になります。3位の肺炎で亡くなる人の大半は寝たきり生活だった高齢者ですが、寝たきりになる最大要因は、脳の血管の病気です」

つまり2大死因である「ガン」と「血管の病気」を予防すれば、病気リスクが軽減できるのだ。血管の病気の原因は動脈硬化が進むこと。「よく医者が、高血圧の人に『血圧を下げなさい』と言うのは、『血圧を下げないと、血管の内側がダメージを受けて動脈硬化が進みますよ』という意味です。そのリスクを防ぐのは、食事・運動・ストレス対策なのです」。

健康関連の取材では「現代人の衰え」を知ることが多い。たとえば「唾液を出すための食事」をテーマにしたときは「戦前に比べて現代人は4分の1しか噛まなくなった」と聞いた。今回学んだのは現代人の「血管の老化」だ。

■多くの人は「運動」を誤解している

「食生活の乱れと運動不足が2大要因です。たとえば外食で選ぶメニューは、栄養過多かつ栄養不足になりがちです。カツ丼に小うどんをつけたら炭水化物ばかり。つまり栄養が偏ってしまう。運動に関しては、40年前の6割しか体を動かしていません」

食生活では、いつもの肉を青魚に替え、ゴボウなど食物繊維を摂るなど、昔の日本人の食事に近づけることだ。

日常生活で体を動かすことも減った。加えて、多くの人は「運動」を誤解していると菅原氏は言う。

「学生時代の部活を思い浮かべてしまい、『時間がない』と言い訳してしまう。電車での移動なら、通勤時や外出時に駅のエスカレーターではなく階段を使う。早く退社できた帰宅時に一駅手前の駅で降りて歩くのは、運動にもなり、脳への刺激にもなります」

■どう違う? 慢性頭痛と急性頭痛

以上は予防の話。では、脳の病気になると、どんな症状が見られるのか。

働き盛りの世代が気をつけるべき脳の病気は、血管の老化にともなう脳出血と脳梗塞だろう。「頭痛がする」というだけでは深刻な病気かどうかわからないことが多いのだが、その慢性度や痛みの強弱からある程度は判断できるという。まずは、その頭痛が慢性のものなのかどうか。

「肩こりや首こりからくる症状も多いのです。その理由は、姿勢の悪さと運動不足が大半。大人の頭の重さは約5キロもあり、姿勢の悪さで体のバランスが乱れると、頭全体が重苦しくなったりします。デスクワーク中心の人が、前かがみでパソコン作業を続けたり、無理な姿勢でスマホ画面を長時間見続けるのもよくありません」

菅原氏のクリニックに来る患者でも「2週間ほど前から頭が痛い」と訴える人は、緊急度が低いと判断する。2週間は日常生活ができたからだ。逆に深刻なのが、「急性」で「程度が重い」頭痛である。

「これは頭だけではなく体のどの部位についても言えますが、『突然激痛が走った』という場合は注意しなくてはなりません。万一、クモ膜下出血を発症していたら3分の1のケースで死亡しますから、対応は一刻を争います。迷わず救急車を呼びましょう」

脳出血とは、読んで字のごとく「血管が破れて出血する」症状、脳梗塞は「血管が詰まる」ことに起因する症状だ。脳出血は死亡率も高く大変危険だが、脳梗塞のほうものんびり構えてはいられない。対処に問題があると体に不自由が残ることが多く、自分1人で健康に暮らすのが難しくなるからだ。

■発症3時間以内で病院に到着するのが理想

脳梗塞への対処には次のような基準があると菅原氏が教えてくれた。キーワードは「FAST」である。

F(FACE)=顔の麻痺、A(ARM)=腕の麻痺、S(SPEECH)=ろれつが回らない。これらの症状が出たら、「すぐに救急車を呼んで脳卒中専門病院を受診すること」(菅原氏)。つまり、T(TIME)=病院に行くまでの時間が回復のカギを握るからだ。

「検査時間を考えると発症3時間以内で病院に到着するのが理想。受診が早ければ『tPA』という血栓を溶かす薬を使うことができます」と菅原氏。

以下は再び予防の話になる。

■キーワードは「楽しい未来」を描くこと

菅原氏は日々の外来診察で、「患者は医者の言うことをなかなか聞いてくれない」ことを痛感したという。たとえば血管リスクの5大要因は、(1)血圧、(2)コレステロール、(3)中性脂肪、(4)血糖値の各数値と、(5)酒・タバコだが、「高血圧気味なので、食事は少し薄味にしましょう』と伝えても、『はい、わかりました』で終わってしまいます」。

そこで言い方を変えた。

「肥満気味の中高年女性なら、『あと○キロ痩せれば、若い頃の服が着られますよ』と伝えるのです。痩せて昔の赤いドレスを着ることができ、検査数値が改善した患者さんもいます。60代から社交ダンスを始めて、今では先生になった高齢女性もいます」

動脈硬化の原因の1つとされるストレスを抱え込むのはよくないが、適度なストレスがないと脳は老化してしまう。社会人が「働く」行為も、引いた視点で見ればストレスだ。前向きな目標を掲げてストレスと付き合いたい。

「たとえば『子供が高校受験を終えたら、家族で温泉旅行に行こう』とか、『前から欲しかったコートを、冬のセールで買おう』といった手の届きそうな目標がよいでしょう」

キーワードは「楽しい未来」を描くこと。そのための病気リスク対策と心得たい。

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菅原道仁(すがわら・みちひと)
菅原脳神経外科クリニック(東京都八王子市)院長。1970年生まれ。杏林大学医学部卒業。国立国際医療研究センター、北原国際病院勤務を経て、2015年から現職。All About「家庭の医学」ガイド。著書に『死ぬまで健康でいられる5つの習慣』など。
 

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(経済ジャーナリスト 高井 尚之 撮影=永井 浩)