高すぎる目標があだとなることも(写真:aijiro / PIXTA)

間違った「目標」を立てていないか?

新しい年を迎えるとき、「仕事も勉強も頑張ろう!」と前向きな気持ちで「目標」を立てる人は多いだろう。

だが、忙しい毎日が始まり、仕事に追われているうちに、目標を達成しようというモチベーションが薄れていく。やがて、目標を目指すどころか、目標を立てたことさえ忘れてしまう。

なぜ、こうした事態を招くのか?

拙著『いつも目標達成できない人のための自分を動かす技術』でも詳しく解説しているが、それは「目標」自体が間違っているからだ。これまで、大勢のビジネスパーソンの目標達成に携わってきた経験上、言えることがある。99%の人が「高すぎる目標」を掲げて挫折している。

ちまたでは「ちょっと高めの目標を持つと良い」とアドバイスされることがあるが、それが当てはまるのは、目標を達成することに快感を覚える「達成体質」を身に付けた人である。

大抵は、高めの目標は絵に描いた餅で終わる。

目標を何一つ実行できず、日々自信を失い、動けなくなるとどうなるか? 目標が煩わしくなり、一刻も早く記憶から消し去ってしまいたくなる。非常にもったいないことである。なぜなら、「目標設定」のコツを知るだけで、どのような目標でも100%達成できるようになるからだ。

現在私は、ビジネスパーソンからアスリートに至るまで、目標を達成させるプロとしてさまざまなコンサルティング活動を行っている。

コンサルティングをしていく中で、目標を達成できない方々に共通点があることに気づいた。「高すぎる目標」を掲げてしまい、何から始めればいいのかわからない、だからいつまでも動けない、という状態になっているという点である。

私はこうアドバイスしている。

「いったん高すぎる目標は脇に置き、すぐできる『目標』を持ってほしい。毎日、達成できるような簡単な目標でいいのです」

なかなか動き出せず、目標を目指す気持ちを失ってしまうのは、高い目標を掲げてしまうからである。

だが、会社から与えられるノルマは、

「今月300万円の売り上げを稼ぐ」

「売り上げを30%アップする」

といったように高い目標がほとんどだ。

こうした目標を掲げているかぎり、「何をしていいのかわからない」「だから動けない」という状態は変わらない。一刻も早く目標を下げたほうがいい。

どんな目標でもかまわない。いや、簡単にできることのほうがいいのである。「アポを10件取る」ではなく「アポを10件探す」、「資料を作成する」ではなく「資料の概要をメモする」といった具合だ。

なぜなら、「達成する回数を増やすこと」が何よりも大事だからである。どんなに小さな目標であっても、やりきると達成感を得られるようになる。これを繰り返す。私の場合、多いときは1日に30回以上達成し、その都度、達成感を味わった。

まるで貯金するかのように達成感を経験していくと、驚くほど自信がついて「達成するのが当たり前」という感覚が身に付くからだ。

いつも目標を達成する人は、無意識にこの経験を積んでいる。

「高い目標」と「低い目標」を持つ

一方、目標を安易に下げてしまうと、本来の目標を達成できないのではないか、と不安になる人もいるかもしれない。

資格試験であれば「合格」という目標から、営業であれば「ノルマ達成」という目標から遠ざかってしまうのではないかと……。大丈夫、心配することはない。いずれは必ず、こうした高い目標を達成できるようになるはずだ。

要は「最終目標」を見失わなければ良いのである。「合格」あるいは「ノルマ達成」という最終目標と、日々の目標とをひも付けしておけば良い。

ここで私がお勧めしたいのは目標を2つ持つことだ。それは「最高目標」と「最低目標」である。

「最高目標」とは、「売り上げ1000万円」「試験合格」「昇進/昇格」といった、結果を示す目標を指す。会社から与えられるノルマもこれに類する。多くの場合、第三者に設定され、自分でコントロールできない目標であることが多い。

一方、「最低目標」とは、自分一人で完結できる粒度に落とし込んだ目標のこと。あいまいになりがちな行動をコントロール可能なタスクに落とし込むために設定する。

たとえば、「売り上げ目標」を達成するために設定する、「アプローチ件数」や「提案件数」が「最低目標」となる。あるいは「試験合格」のために、参考書を読んだり、問題集を解いたりするが、その回数の設定も「最低目標」となる。

目標を下げるといっても、単に数字を下げるわけではない。行動目標をブレークダウンして、自分一人でできる動作にまで落とし込むことに意義がある。

これらをタスクと呼ぶこともできるが、あえて「最低目標」と定義し、達成していくことに意味がある。

自分が「最低限」できることを目標とし、それを一つずつ達成していくこと。この繰り返しが「達成する習慣」として定着していくのである。

「できない」という意識を変えていく

最高目標を下げるわけにはいかないが、これだけ掲げていても行動できないのである。そこで「最低目標」が登場するというわけだ。

目標が高すぎると、毎回60%、70%しか達成できないという「未達の状態」が続く。すると、「そもそも達成できるわけがない」と考える習慣がつく。これが、"未達成グセ"を強化するのだ。

もしも、60%、70%しか達成できないなら、目標を50%、あるいは思い切って20%ぐらいまで下げて、達成の経験をしてみよう。そして、「自分は立てた目標を100%達成できるんだな」という意識に変えていく必要があるのだ。こうした自信を持つことが非常に重要だ。

目標をここまで下げてみる

たとえば、本来の売り上げ目標は1000万円なのに、毎回500万円しか達成できなかったらどうすればいいか?

それなら、目標を500万円、場合によっては100万円まで下げてもかまわない。とにかく100%達成することのほうが、はるかに大事だからだ。その結果、100%どころか、500%達成できたら、「できる!」という自信がつくはずだし、さらに欲が出てくる。やがて「1000%達成するにはどうしたらいい?」と考えられるような思考のクセがついてくる。

若手の部下ほど、目標を低めに設定して成功体験を積ませる。達成回数が増えることで自信がついて行動が変わり、グングン数字を伸ばしていくからだ。

やがて、危機感がわいてくる

一度でも達成を経験すると、その後も達成しようと思えるし、達成しないことに危機感を覚えるようになる。

たとえば、3カ月連続で目標を達成できた人は、「4カ月目もやらないとヤバい」と感じるようになる。

また、「どうせできないよね」から、「どうすればできるかな?」という考え方をするようになる。このように、達成を前提とした意識や考え方に切り替わり、動ける自分に変わっていく。目標を下げ、100%やり切る効果は、自分に想像以上の自信と行動力を与えてくれるのだ。

未達成グセから脱したAさんのケース

達成経験を増やしていくことで、面白いように成果が出るようになる。

昨年春に入社したばかりの営業Aさんは、半年ほど単月100万円の売り上げノルマをなかなか達成できなかった。未達成グセがしみついており、「今月は4割ぐらい達成できればいいほうだと思います」などと口走ることもしばしば。そのうち営業に行くのもイヤがるようになってしまった

この状況から脱するために、「単月100万円の売り上げ」という目標をいったん脇に置いて、こんな目標を持ってもらった。「200件のアポリストを作る」という目標だ。毎日数件のお客様にしかアプローチしていなかったAさんは当初イヤイヤ取り組んでいたが、2日ほどでリストを作成することができた。

はじめて目標を達成できたAさんに新たに、「1週間に10回お客様と会う」という目標に挑戦してもらった。こうして少しずつ、「やることのレベル」を上げていくことで、「できることのレベル」が上がっていく。


やがて、多くのお客様の元に通えるようになっていき、明るい表情で営業に行くようになった。そのうち、お客様のほうから声をかけてもらえるようになり、次々とアポを取れるようになっていった。

何と半年後には、アポが止まらなくなり、提案が通る確率も一段と上がり、会社のノルマは楽勝でクリアできるようになったのだ。

あるときAさんに、「先月と一緒の数字でいいの?」と聞くと、「もっといきます!」とのこと。どのぐらいの数字を設定するのかを尋ねると、「200万円はいけますよ」と言い切った。

約束どおり、Aさんは200万円の目標を難なくクリア。目標を必死で追いかけていたAさんが、自分で高い目標を設定し、その数字を達成する状態へと進化したのだ。その後、250万円、300万円と数字を上げていき、最終的に500万円の目標を達成することになる。

ひとつの達成経験が自信を生み、次の達成経験につながっていく。目標を下げ、一歩踏み出す。これがすべての出発点になる。