車輪はふたつなのに、なぜバイクは「単車」と呼ばれることがあるのでしょうか。調べてみると、「単車」以外にも様々な呼び方がありました。

「単車」は「バイク単体」を指す?

 バイクは「単車」と呼ばれることがあります。辞書類でも、「単車」の意味は「オートバイ・スクーターなど、原動機つきの二輪車」(三省堂『大辞林』より)などとされています。


側車(サイドカー)付きバイクのイメージ。「単車」という言葉の由来は、側車が関係しているという(画像:写真AC)。

 車輪はふたつなのに、なぜ「単車」なのでしょうか。モータージャーナリストの伊丹孝裕さんに聞きました。

――バイクはなぜ、いつごろから「単車」と呼ばれているのでしょうか?

 言葉が生まれた時期としては第二次大戦前後です。このころはサイドカー、つまり「側車」付きのバイクが一般的で、これに対しバイク単体で成立していたものを「単車」と呼んだといわれています。ただし、諸説あります。

――ほかにはどのような説があるのでしょうか?

 そのころはバイクのエンジン形式にバリエーションがなかったこともあり、単気筒エンジン(シリンダーがひとつだけのエンジン)の「単」であるとする説、また、「タンタン……」という、高回転しない当時のエンジン音に由来するという説もあります。ただ、さすがに後者は信ぴょう性が薄いとは思います。

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「単車」は半世紀以上も前に生まれた言葉ではありますが、伊丹さんによると現在でも50代半ば以上の世代では一般的に使われている印象で、「古さ」はあまり感じないといいます。一方、全国でバイクのイベントを主催する日本二輪車普及安全協会(東京都豊島区)にも話を聞いたところ、「(『単車』は)久しぶりに聞きました。やはり『バイク』や『オートバイ』が一般的ではないでしょうか」とのこと。若い世代のあいだでは、あまり使われなくなっているのかもしれません。

「エンジン音に由来」説、別の言葉に

「単車」の「単」がエンジン音に由来するという説もあるようですが、そのような言葉はほかにもあります。

 ホンダ、ヤマハ、スズキという国内大手3社の発祥地であり、市の主要産業としてバイクの歴史を紹介している静岡県浜松市の産業振興課によると「当地域ではバイクが『ポンポン』と呼ばれることがあります」といいます。

「戦後まもなく、本田宗一郎さんが自転車に補助エンジンを取り付けて走らせたことが、ホンダにおけるバイク産業の始まりといえますが、このような補助エンジンの『ポンポン』という音に由来する呼称です。現在もおもに70代以上でバイクを『ポンポン』と呼ぶことがあるほか、市内では『ポンポン』の呼称を冠したバイクのイベントも開催されています」(浜松市産業振興課)

 ちなみに、本田宗一郎さんが作った補助エンジン付き自転車は、やはりそのエンジン音から『バタバタ』とも呼ばれます。このようにバイクの黎明期には「単車」を含む様々な言葉が生まれ、一部は現在も引き継がれているようです。

【写真】バイクのことを「ポンポン」とも その由来は…?


1947年発売のホンダA型(通称「バタバタ」)。こうした補助エンジン付きバイクのエンジン音に由来し、浜松ではバイクを「ポンポン」と呼ぶこともある(画像:ホンダ)。