現在、北海道日本ハムファイターズが本拠地としている札幌ドーム。同球団は新球場構想を進めている(写真:digi009 / PIXTA)

プロ野球各球団のキャンプインが近づき、「球春」の到来が迫ってきた。特に野球ファンの注目を集めているのは、なんといっても2017年ドラフト会議1位で北海道日本ハムファイターズ(以下、ファイターズ)に入団した清宮幸太郎選手だろうが、ファイターズにはもう1つ大きなニュースがある。新球場(新本拠地)構想だ。

ファイターズは、現在の本拠地である札幌ドームからの移転開業を2023年に目指す新本拠地について、アジアNo.1を目指す「ボールパーク構想」を公表した。商業施設やホテルなどを備えて野球以外でも楽しめる多機能複合型施設とする構想だ。ファイターズは「年間シーズンで200万人以上の観客が来場する施設には公共的意味合いもあるのではないか」(新球場構想を率いるファイターズの前沢賢執行役員・事業統轄本部長)との考えの下で新本拠地構想を掲げ、候補地には札幌市と北広島市が名乗りをあげた。

これは鉄道業界にとっても注目すべきニュースである。プロ野球球団の本拠地となる球場にとって、交通アクセスの確保は極めて重要な課題だからだ。

札幌市と北広島市が名乗り


ファイターズ新球場候補地の概略図(筆者作図を基に編集部加工)

札幌市は「スポーツの持つチカラを最大限に活かしたまちづくりを進める。そのために、互いの資源を活用した施策の実行に一体となって取り組み続ける」を基本理念に、新本拠地の候補地を提案。北広島市はまちづくりのテーマである「自然と創造の調和した豊かな都市」を踏まえて、「北海道のランドマークとしてのボールパーク」「Sports Communityの共創」の2つの基本理念を設定し、誘致に名乗りをあげた。

札幌市は昨年12月、球団に対して道立真駒内公園(同市南区)を候補地として正式に提案した。ファイターズの前沢本部長によると、「札幌市は当初、道立産業共進会場跡地周辺(同豊平区)、北海道大学構内(同北区)を提案し、北大案に対して球団も前向きに対応をした。しかし、北大OB等による反対があるとの理由で同市は取り下げた格好だ。また、共進会場跡地は地主である八紘学園との折衝がまとまらず、別の候補地も模索したと認識している」と言う。

札幌市の村瀬利英まちづくり政策局政策企画部プロジェクト担当部長は「産業共進会場跡地および北海道大学構内ともに敷地面積の狭さなどで建設地としては難しさがある。交通アクセスに課題はあるが、冬季オリンピック・パラリンピックのスピードスケートの競技会場として考えられていた道立真駒内公園が競技会場候補地から外れたことで新本拠地球場建設が可能となったと考えるに至り、12月15日、同公園案をファイターズへ正式に提案した」と説明する。

一方、北広島市の川村裕樹企画財政部長は「ファイターズが希望する条件と当市のビジョンを一致させた上で、ファイターズが目指す『アジアNo.1のボールパーク』を実現する用地を提供できる」と自信を見せる。また、1月15日には、ファイターズと北広島市がパートナー協定を締結し、「両者が有する資源の利活用により連携し、両者が発展するための取り組みを協働して行う」ことが表明された。

新球場で新たなファン獲得を

新本拠地の候補地選定に向けて報道が過熱する中、ファイターズはどのような考え方で本拠地移転を進めようとしているのか。同球団の前沢本部長に話を聞いた。

――なぜ新本拠地へ移転しようとしているのか。


ファイターズの前沢本部長とボールパーク構想のイメージ図(筆者撮影)

どの候補地も一長一短があり、現時点では選定に向けて調査検討を行っている状態であることをまずお断りしておきたい。札幌ドームについては、2005年頃の来場者アンケートでは、駅から遠く、札幌市中心部から離れていて不便という意見が多かったが、時間の経過とともにそうした心理的距離を含めだいぶ変わってきたと思っている。

これからの球場は、野球以外の施設を併設する多機能複合型とすることが必要だ。タッチポイント(顧客との接点)の増加および通常の野球ファンとは違った経路でスポーツファンを獲得していくことがスポーツ界にとっては重要との考えであり、それが新球場を構想する大きな理由であることは間違いない。

――札幌ドームに本拠地を置き続けていても、新たな展開は困難だということなのか。

ファイターズが北海道に誕生して14年目のシーズンを終えた。北海道に新たに誕生することができたのは、札幌ドームがあったからこそで、これまでのサポートに深く感謝している。あまり知られていないが、北海道に本拠地を置く際に、前の会社を清算し、新たに北海道日本ハムファイターズを設立している。それが、北海道あってのファイターズだと言い続けている理由だ。

一方で、札幌ドームを使い続けてきて、問題点も感じるようになった。たとえば、現状ではサッカーとの入れ換えのため巻き取り式の薄い人工芝を使わざるを得ない。選手が怪我をしたとの知らせに接する度に心が痛かった。またトレーニングルームの器具を試合の有無で搬入・搬出を繰り返さなければならず選手に不便を強いている。人生を懸けてプレーしている選手たちによりよいプレー環境を用意することは、我々経営層の使命だ。

――他に感じている問題点はあるか。

球場は街の活性化に貢献する施設であるべきだと我々は思っているが、札幌ドーム周辺に賑わいはほとんど生まれていない。そもそも、催事開催時以外の札幌ドームは非常に閑散としている。試合観戦の需要を満たす機能しか持っておらず、主目的がないと人が来ない場所だからだ。

――現状を変えるためには何が必要か。

エンターテインメントの多様化に対応するため、球場との一体経営を通して、野球を基軸とした新たな魅力を作り出していく必要がある。そうすれば、球場はもっと街づくりに貢献できる施設になるはずだ。

――「ボールパーク構想」で思いは実現できるのか。

北海道民にとって強すぎる札幌ドームのイメージを打破して、現状維持ではない新たな価値を提供できるファイターズの未来図を描くために、「ボールパーク構想」を発表した。我々は、球場を野球だけを目的にせず、バラエティに富んだ副次的な展開をする施設とすることも重要だと思っている。

球場には交通アクセスが重要だ

前沢氏は球場との一体経営とともに、野球以外の機能を併設する多機能複合施設とすることがプロ野球、ひいてはスポーツ界にとって重要であると強調する。

球場、テーマパーク、ホテル、温泉施設、および商業施設などからなる多機能複合施設の先例としては、東京ドームシティ(東京都文京区)がある。筆者は平日の催事休催日に訪問したが、テーマパークではアトラクションを楽しむ若者のほか、商業施設内のスーパーに買い物に訪れた近隣の主婦や、飲食店に食事に訪れた学校帰りの高校生・大学生などでにぎわいを見せていた。立地の違いがあるため単純な比較はできないが、副次的利用を目的とする来場者の獲得には参考になる事例ではないだろうか。

そして来場者を安定的に呼び込むためには、交通アクセス確保は最も重要な課題の1つであると筆者は考える。札幌ドームは札幌市交通局(札幌市営地下鉄)東豊線福住駅から徒歩圏内にある。

札幌ドーム総務部によると「交通局や市内バス会社とは大規模イベントごとに連携し、東豊線の臨時便運行や、シャトルバス運行などできめ細かく対応いただいている。新千歳空港からの空港連絡バスも、2つの路線が当施設近隣のバス停に停車し、北海道外からの来場者の利用も多い」と言う。交通アクセスを分担する札幌市交通局も「札幌ドームと連携し、催事開催時には特別ダイヤで臨時列車を運行している」(同局事業管理部経営計画課)と説明する。

事実上、札幌市案の中で最有力候補となった真駒内公園については、札幌市営地下鉄南北線真駒内駅から筆者の足で徒歩25分を要した。現地を実際に訪問して、バスやマイカーなどの道路交通への依存度増加にともなう球場周辺の渋滞悪化の懸念を感じた。現在の我が国のプロ野球の本拠地球場はいずれも鉄道駅から徒歩圏内に立地し、催事終了後の短時間に集中する観客輸送に鉄道が大きく貢献している。

他方、北広島市案の実現の課題として、ファイターズの前沢本部長は「新駅が重要だ。それは北広島市にも申し上げている」とするが、新駅設置には、北海道旅客鉄道(JR北海道)との交渉をクリアする必要がある。ファイターズが提示する「課題」に対して、北広島市の川村部長は「あくまでも個人的な見解」と断った上で、「新本拠地が当市に内定すれば、千歳線の利用促進にもつながる新駅は実現可能と期待している」との認識を示す。

ただし、新駅設置費用の負担をJR北海道から求められる可能性が高い。北広島市は新本拠地誘致のメリットとともに、公的負担の有無や大きさについて、市民へ丁寧に説明する必要がある。それでもなお、北広島市案が選定されるためには新駅設置の実現可能性が高いことをファイターズに示す必要があることに変わりない。

道内各地からのアクセスに強み

新駅の強みは、札幌(下り)方面および新千歳空港・苫小牧(上り)方面の両方向への輸送に対応できることである。また、あくまで筆者の私見であるが、仮に特急列車を3両増結の上で新駅に臨時停車させれば、特急の停車本数が上下4本の場合、1時間当たり800人程度の輸送力の上積みにつながると考えられる。さらに、特急の増結車両を新千歳空港駅発着とすれば、道外や道内遠隔地への輸送サービス向上にもつながる。

両方向の乗車人員が1:1であることが前提になるが、千歳線の列車をすべて6両とした場合の千歳線新駅発下り方面および上り方面の両方向を合わせた輸送力は、南北線真駒内駅発麻生方面の輸送力とほぼ同等である。

仮に北広島市案に内定した場合、新駅設置が決定されれば、新駅とボールパークを一体開発できるチャンスが生まれる。あるいは発想を転換して、駅そのものをボールパークの一部として整備することも考えられるだろう。

ファイターズの新本拠地がいずれの場所に決まるかは現時点では明らかではないが、札幌市、北広島市はそれぞれ、明確なまちづくりビジョンとして、新本拠地誘致後のまちの価値向上に向けた戦略を広く社会に示していくことが望まれる。そして、ファイターズも「アジアNo.1のボールパーク」を実現できるかどうかの観点から、十分な敷地面積とともに、鉄道アクセスを確保できる用地を選定することが重要ではないだろうか。ファイターズの本拠地移転構想を、鉄道・プロ野球・地域の連携のあり方について関心を深める契機としたい。

多くの鉄道事業者がプロ野球球団のオーナーとして名を連ねた時代があったことから、プロ野球界は鉄道と関係の深い業界であった。さらに今後の別記事では、鉄道・プロ野球・地域がともに発展する道筋を、プロ野球球団の取材を踏まえて考えてみたい。