トヨタ自動車・豊田章男社長(Rodrigo Reyes Marin/アフロ)

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 経営者が占う日本経済新聞社恒例の株価・景気アンケート(40人)と、読売新聞の経営トップ30人のアンケートは、人選に特色が出た。1月4日付毎日新聞も、18人のトップのコメントを掲載している。日本経済団体連合会会長を出している東レは毎日のみで、日覺昭廣社長が回答者だ。読売は三菱ケミカルホールディングス(HD)を落としている。日経では同社の小林喜光会長(経済同友会代表幹事)が回答している。経団連も経済同友会も存在感がない証拠だ。

 読売は三菱商事の垣内威彦社長を外し、三井物産の安永竜夫社長を入れている。毎日も安永社長だ。前身が三井物産の子会社だった日経は、伊藤忠商事を選び三井物産を連続して落としている。日経と三井物産の間に何か軋轢があるのだろうか。例年、読売は三菱商事、三井物産を入れていたが、今回は伊藤忠商事(岡藤正広社長)に替えた。三菱・三井の“2M”で通すのもひとつの見識ではある。

 読売はNTTの鵜浦博夫社長を選び、日経はNTTを落としている。日経はNTTグループを完全に無視しているが、業種のバランスなどを考えると、これでいいのかと首をかしげたくなる。読売はキヤノンの御手洗冨士夫会長兼CEO(最高経営責任者)に聞き、日経はキヤノンを外した。日経は精密機械業界から誰も選んでいない。

 読売“御用達”なのは、三井不動産の菰田正信社長、西武HDの後藤高志社長だ。ほかにはANAHDの片野坂真哉社長、明治HDの松尾正彦社長、J.フロントリテイリングの山本良一社長、ローソンの竹増貞信社長、帝人の鈴木純社長。三菱商事を落として子会社のローソンを入れるのは特筆ものだ。片野坂氏は次期経団連副会長候補である。

 読売はパナソニックの津賀一宏社長、ホンダの八郷隆弘社長、花王の澤田道隆社長を入れた。日経が津賀氏や八郷氏を外したのは解せない。日産自動車が不祥事で回答を自粛したこともあるのだろうが、日経は自動車業界の回答者もゼロである。

 日経“御用達”なのはTDKだ。日経の監査役がTDKの元社長・会長で現相談役だからだと勘繰る向きもある。昨年までは相談役が答えていて、「おかしい」との批判があった。今回は石黒成直社長に替わった。そもそも、この種のアンケートは業界のリーディングカンパニーを選ぶことが建て前になっている。果たして、TDKは業界のリーディングカンパニーなのかと疑問視する声も少なくない。

●人選に偏りがみられる日経新聞

 日経の40人に入っているのは、アサヒグループHDの泉谷直木会長(毎日は小路明善社長)、日本ガイシの大島卓社長、信越化学工業の金川千尋会長。金川氏は長いこと常連で、「昔はよく株価を当てたが今はダメ」との、口さがない評もある。ほかには、東京エレクトロンの河合利樹社長、三菱ケミカルHDの小林喜光会長、富士フイルムHDの古森重隆会長、SMBC日興証券社長の清水善彦社長、三菱地所の杉山博孝会長(読売は三井不動産)、ユニ・チャームの高原豪久社長、ダイキン工業の十河政則社長(もともと日経は井上礼之会長を重用してきたが十河社長にチェンジ)、日本電産の永守重信会長兼社長、セコムの中山泰男社長、大和ハウス工業の樋口武男会長、カルビーの松本晃会長、三菱商事の垣内威彦社長(読売、毎日は三井物産)、MS&ADインシュアランスグループHDの柄澤康喜社長、SOMPOHDの櫻田謙悟社長、JTBの高橋広行社長、住友化学の十倉雅和社長(毎日も同じ)、日本郵船の内藤忠顕社長、第一生命HDの稲垣精二社長、三井住友トラストHDの大久保哲夫社長である。日経は40人のうち生損保から5人もリストアップしている。銀行、証券も多い。業種のバラツキが目立つ。

 古森氏、井上氏、永守氏などは、日経が講演会の講師や事件が起きた時のコメンテーターとして重用している人々だ。日ごろの付き合いに対する“忖度”があれば、人選にブレが生じかねない。

 読売、日経の共通回答者として登場しているのは、セブン&アイHDの井阪隆一社長、キリンHDの磯崎功典社長。JXTGHDの内田幸雄社長、三井住友フィナンシャルグループの國部毅社長、みずほフィナンシャルグループの佐藤康博社長、新日鐵住金の進藤孝生社長、日本生命保険の筒井義信社長、JR東日本の冨田哲郎社長、野村HDの永井浩二グループCEO、日立製作所の東原敏昭社長、三菱UFJフィナンシャル・グループの平野信行社長、三菱重工業の宮永俊一社長、伊藤忠商事の岡藤正広社長、三越伊勢丹HDの杉江俊彦社長、大和証券グループ本社の中田誠司社長、東京海上HDの永野毅社長、味の素の西井孝明社長である。

 毎日で読売、日経と重なるのはJXTGHD、味の素、セブン&アイHD、新日鐵住金、三菱重工、JR東日本、野村HD、大和証券グループ本社、日本生命保険の9社のトップ。読売、毎日の2紙なのが三井物産。毎日、日経ではアサヒグループHD(ただし、毎日は小路明善社長、日経は泉谷会長)。住友化学の十倉社長が重なる。

 毎日単独は三菱電機の棚山正樹社長。明治安田生命保険の根岸秋男社長。東レの日覺社長、京セラの谷本秀夫社長。東芝の綱川智社長を回答者に選んでいるのは英断か。それとも判断ミスか。昨年も毎日は綱川社長を回答者にしていた。

●同一人物なのに、日経と読売で回答内容が異なる

 読売と日経で共通する17人の回答者のうち、両紙で違った回答をしている人がいる。東京海上HDの永野毅社長だ。日経平均株価について、日経では高値2万5500円(12月)、安値2万500円(2月)とする一方、読売では2万円〜2万5000円としている。高値が500円違う。「回答をつくった人が同じなら、数字の違いに気づくはず。本人も回答を送る際にチェックしないのだろうか」(財界の長老)との指摘が出ている。

 日経でマクロ景気の回答をしている、みずほフィナンシャルグループの佐藤康博社長も、答えが異なる。日経では実質経済成長率1.2%、円相場は6月末が108円、12月末は105円と予測している。一方、読売ではそれぞれ1.0〜1.5%、100〜115円としている。

 新日鐵住金の進藤孝生社長も同様に、日経で1.2%、115円と回答しているが、読売では1.0〜1.5%、105〜120円と答え、円相場に幅がある。

 さらに、野村HDの永井浩二グループCEOは日経で1.1%、前後半とも120円としているが、読売では1.0〜1.5%、110〜125円との予測を出している。125円という円安を予想しており、かなり印象が違う。

 読売と日経で聞き方が違うからかもしれないが、景気アンケートで読売、日経でニュアンスの違いが、はっきり出た人が少なくない。

●株価予想、「2万5000円以上」が圧倒的多数

 日経の株価予想では20人のうち17人が日経平均株価の高値は「2万5000円以上」と予測した。高値がもっとも低いのは三越伊勢丹HDの杉江俊彦社長で「高値2万4000円(10〜12月)、安値2万2000円(1〜3月)」。日本電産の永守重信会長兼社長は「高値2万4300円(4〜5月)、安値2万1300円(11〜12月)」としている。このあたりが妥当な予想なのかもしれない。

 安値が2万円を割るとみているのはセコムの中山泰男社長だけで「安値1万9500円(6月)」、「高値は12月の2万5000円」だった。読売新聞の主要30社のトップアンケートでは4人が2万円割れと回答。うち2人は下値を1万8000円としており、日経よりかなりシビアな見方だ。

 日経のアンケートで安値を2万円としているのは4人。2万500円が1人。2万2000円が6人である。信越化学工業の金川千尋会長は「高値2万8000円(8〜9月)、安値2万1000円(1〜2月)」とみている。

 兜町では戌(いぬ)年に因んだ銘柄を「ブルドックソースや犬のマークでおなじみのJVCケンウッド」としている。ペット保険のアニコムHDにも期待する。犬の鳴き声の「ワン」の連想から、ラウンドワンや福利厚生代行サービスのベネフィット・ワンが大穴。

 新元号がらみでは光村印刷、野崎印刷紙業、共立印刷、オフセット印刷用製版大手の光陽社などをリストアップしている。商業印刷や請求書などの印字、発送を手掛けるカワセコンピューターサプライに注目する向きもある。

 毎日の回答で印象に残ったものをピックアップする。三菱電機の棚山正樹社長は景気の先行きを「横ばい」とみている。野村HDの永井グループCEOも同じ。味の素の西井社長、セブン&アイHDの井阪社長も同様で、井阪氏は国内の景況は「踊り場にある」と認識している。

 東芝の綱川社長は「国内の景況は悪化する」とした。東芝の厳しい現状の投影か。「昨年の危機的状況から安定成長へのシフトチャレンジの年にしたい」と語る。安定成長では重電大手3社から完全に脱落する。2018年、重電は日立と三菱電機の2強の時代になる。

 JR東日本の冨田社長は会社発足30周年の節目を迎え、「自主自立」「お客様第一」「地域密着」という会社発足の原点に立ち返ると述べている。JR3社(東日本、東海、西日本)にとって今年は厳しい年になる。特にリニア中央新幹線談合が発覚したJR東海は、かなり厳しいはずだが、経営陣に危機感が乏しいのが気掛かりだ。17年度内に東京地検特捜部はスーパーゼネコン4社の談合を立件すると意気込んでいる。

 日本生命保険の筒井社長も国内の景況は「やや悪化する」と回答。「引き続き超低金利という厳しい環境が継続する」とみている。超低金利ではなくマイナス金利という異常事態なのである。金融業界のトップは、日銀のマイナス金利導入という歴史的な“誤謬”をもっと厳しく指弾すべきではないのか。

 今年もトヨタ自動車の豊田章男社長はどこのアンケートにも答えていない。秘書や広報部でまとめるものを読者は“お約束事”で本人の回答と受け取っているのだが、豊田社長はこうした“お約束事”が嫌いらしい。
(文=編集部)