2018年シーズン10大注目ポイント@後編

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(7)HALO導入で「美しいF1マシン」はおしまい?

 2018年はF1マシンそのものの規定に変更はないものの、ルックスが大きく様変わりする。頭部保護デバイス「HALO(ヘイロー)」が導入されるからだ。


スーパーライセンス獲得を目指す20歳の福住仁嶺

 オープンコクピットのF1マシンはドライバーの頭部が露出しているため、クラッシュでタイヤが外れて飛んできた場合などを想定して、このような頭部保護デバイスが考案された。シールド式も検討されたが、視野が歪んで見えることや汚れ対策などの問題もあり、最終的にHALOが採用された。

 ただ、その導入については賛否両論があり、ルックスについてはF1ドライバーらをはじめほとんどの関係者が否定的。特に若手ドライバーの間では「F1マシンはオープンであるべきだ」といった声が多数で、ルイス・ハミルトンは「2017年で美しいF1マシンはおしまいだ」と明確にHALO批判をした。

 しかし、ベテラン勢を中心に「ルックスは賛成ではないが、安全性が向上するなら導入すべき。安全は何よりも優先されなければならない」という声が多数を占めていることも、また事実である。

 もちろん、HALOを装着したからといって事故が100パーセント防げるわけではない。だが、装着することによって悲劇を未然に防ぐ可能性が高まることも確かだ。今後の研究と実用試験によって、さらに優れたデバイスが登場するまでの移行期的なつなぎとなる可能性もあるが、安全性を高めてくれるものがあるなら採用するべきであり、否定する理由はない。

 1950年代には「クラッシュ火災時の逃げ遅れにつながる」として、シートベルトが否定された時代すらあった。しかし今では、シートベルトは当たり前の存在になっている。

 HALOも導入当初は違和感をもたらすだろうが、人間はすぐに慣れてしまう生き物だ。そして、F1はどんなものでも1/1000秒でも速く走るために利用しようとする世界で、すでにHALOへの空力付加物などのアイデアが生まれつつある。早晩、HALOも新たなF1の一部となることだろう。

(8)フランスGPの復活でF1カレンダー再編も?

 2018年はフランスGPが10年ぶりに復活する。開催地は南仏のポールリカールで、同地での開催は実に1990年以来28年ぶりだ。

 F1でもっとも歴史あるグランプリのひとつだったフランスGPだが、2008年のマニクールを最後に姿を消していた。しかし、ルノーがワークスチームとして復活し、フランス人ドライバーもロマン・グロージャン(ハース)だけでなく、エステバン・オコン(フォースインディア)、ピエール・ガスリー(トロロッソ・ホンダ)と増えており、フランス国内のF1熱も再沸騰しそうだ。ポールリカール周辺はホテルの数も少ないとあって、すでにグランプリ週末の予約は困難。チケットも早々に売り切れているという。

 その一方でF1サーカスは、第8戦・フランスGPから第9戦・オーストリアGP、そして第10戦・イギリスGPと、史上初の3週連続開催を経験することになる。その後も1週のインターバルを挟んで第11戦・ドイツGPと第12戦・ハンガリーGPの2連戦があり、6週間で5戦という前代未聞の超過密スケジュール。3月から11月までの8ヵ月半に21戦を転戦するがゆえの弊害だ。

 F1を統括するリバティメディアは、ひとまずこれ以上の開催数増加は断念したようだが、本拠地アメリカでの2回開催(2018年は第18戦・アメリカGPのみ)の意向も持っており、こうした過密スケジュールを回避するために年間カレンダーの再編が進められることになるかもしれない。

(9)リバティメディアのF1改革、いよいよ本格化か?

 2017年からF1を実効支配し始めたリバティメディアは、1シーズンでさまざまな改革を進めてきた。公式ロゴのリニューアル、運営首脳陣の刷新、観客エリアの充実、ロンドン市街地でのデモ走行イベントのようなPRの拡大(性差別を理由としたグリッドガールの廃止論はF1ドライバーやチーム関係者、ファンからの猛烈な反発によってかき消されたようだが……)。

 しかし、実はその改革の大半が「外側」の部分であって、「中身」であるF1のレースそのものにはまだ手を出してはいなかった。だが2018年は、いよいよ「中身」の改革にも着手しそうだ。

 すでに昨年のアメリカGPでは実験的にレース週末のタイムスケジュールを動かし、土曜のフリー走行と予選の間に4時間ものインターバルを挟んでファンイベントを行なうなどのトライがなされた。決勝直前のリングアナウンサーによるドライバー紹介も、いつもの流れを変えるものだった。

 現在のところは「3回のフリー走行」「1時間の予選」「305kmの決勝」というスケジュールはレギュレーションによって策定されているため、簡単に動かすことはできない。しかし、リバティメディアはレースをより多くの人が楽しめるものにするために、レース距離やスケジュールの変更も視野に入れているようだ。

 彼らがどのような決断を下すかはまだわからないが、2018年はF1の「外側」のみならず「中身」も変容を遂げていくことになるかもしれない。

(10)日本人F1ドライバー、今年こそ誕生なるか?

 昨年は松下信治(まつした・のぶはる/24歳)がザウバーのテストドライブを経験したものの、F1への昇格を果たすことはできなかった。2018年に期待がかかるのは、牧野任祐(まきの・ただすけ/20歳)と福住仁嶺(ふくずみ・にれい/20歳)だ。ともにF1直下のFIA F2に参戦予定で、福住はランキング4位以内、牧野は3位以内に入ればスーパーライセンスの発給条件を満たすことになる。

 牧野は昨年チームタイトルを獲ったロシアンタイム(ロシア)からの参戦を視野に入れているが、まだチーム状況がはっきりせず、参戦の確定には至っていない。しかし参戦が実現すれば、上位争いは確実なチームだ。

 福住は昨年下位のアーデン・インターナショナル(イギリス)と契約を済ませている。アーデンはレッドブルのクリスチャン・ホーナー代表が共同経営者を務めるチームだけに、今年はレッドブル・レーシング本体からの支援を取りつけてチーム体制強化を進めているという。

 さらに福住はスーパーフォーミュラにも並行して参戦し、全7戦のうち日程が重ならない4戦でスーパーライセンスポイントの上積みを狙うことも視野に入れている。それならば、FIA F2がランキング5位でスーパーフォーミュラ8位、F2ランク6位でスーパーフォーミュラ2位でも条件をクリアする。

 レッドブル側も2006年の設立からトロロッソで自社育成ドライバーをずっと起用し続けてきたが、F1に見合った実力のあるドライバーであればレッドブル外からの起用もまったく問題ないとの姿勢を示しているという。すでに福住はレッドブルとアスリート契約を結び、ヘルメットにレッドブルのロゴをつけてレッドブルカラーのマシンでレースを戦う。

 また、FIA F2にフル参戦するドライバーは、F1の金曜フリー走行に出走する権利を得ることも可能だ。そのため、シーズン前半戦の展開によっては福住か牧野がF1の公式セッションFP-1でトロロッソをドライブするチャンスも巡ってくるかもしれない。鈴鹿の金曜日に日本人ドライバーがトロロッソ・ホンダをドライブすれば、ファンとしては2019年に向けた大きな追い風となる。

 まさに、あとはドライバーたちの腕と結果次第。日本人F1ドライバー復活の瞬間は刻一刻と近づいいてきている。

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