後からやり直さなくてもいいようにするには?(写真:UYORI / PIXTA)

やり直しは顧客のせいではなく自分たちのせいだった

家は一生のうちで最も高い買い物。できるなら心の底から納得のいくように、それも可能なかぎり安く手に入れたいというのが、多くの人の思いでしょう。「こんな家に住みたい」「自分の部屋はこんなふうにしたい」というたくさんの希望も持っています。

某ハウスメーカーA社の営業マンはかつて顧客からこうした希望をしっかりと聞いたうえで設計に反映し、そして建設に取りかかっていました。ところが、いざ設計図が出来上がってみると、「こうじゃないんだよなあ」「なんかイメージと違うなあ」というやり直しの声が上がり、何度も設計をやり直したうえでようやく着工にこぎ着けることがしばしばでした。

こうしたやり直しのムダの改善がA社の課題でした。やり直しが多いとどうしても時間がかかりますし、その分、コストもかかります。それでも顧客の納得が得られればいいのですが、最後は「時間」を理由に押し切ることもあります。いざ工事に入ってから、時には完成してから「なんか違うんだよなあ」という不満を顧客が口にすることがあるほどでした。

これでは「家を買う」という顧客の満足度は契約時点をピークに下がっていくことになってしまいます。せっかくの顧客の「喜び」が半減するのです。

拙著『トヨタだけが知っている早く帰れる働き方』でも詳しく解説していますが、トヨタ式の「『なぜ』を5回繰り返す」ことでA社がその原因を調べたところ、いくつかの理由がはっきりしました。

(1)設計に入る前のヒアリングが不十分なため顧客の希望が設計部門にしっかり伝わっていない

(2)話を聞く相手が奥さん中心で夫や子どもたちの意見をほとんど聞いていない

(3)設計部門のつくる図面が専門的すぎてその中身を顧客が十分に理解できていない

(4)営業マンと設計部門のコミュニケーションが不足しており意志の疎通ができていない

(5)建築部門が着工を急がせるため顧客へのヒアリングも設計も納得いくまで時間をかける余裕がない

A社の設計部門や建築部門には顧客の考えがふらふらしてはっきりしないために何度もやり直しをすることになるという不満がありました。「営業マンが『こうしましょう』と引っ張ればいいんだ」と営業マンを責める意見もありましたが、個々の事情を丁寧に調べていくと、A社の側に顧客の考えを汲み取る姿勢が欠けていることがはっきりしました。

顧客は建築のプロではありませんが、「こうしたい」というたくさんの夢や希望があります。それをいかに正確に汲み取り、「見える化」して設計に反映するかはまさにプロであるA社の役割でした。

時間をかけたヒアリングと思いの見える化

A社はすぐにいくつかの改善策を実行しました。

(1)ヒアリングは家族全員がそろう曜日や時間を中心に行う。全員にアンケートを記入してもらい、個別に家への希望を話してもらう

(2)ヒアリングをベースに営業マンがイラスト風の設計図を作成、それを見ながら再度家族みんなの考えを聞く

(3)家族みんなの考えがある程度まとまった時点で設計部門に設計を依頼するが、同時に誰が見てもわかるイラストも作成してもらう

(4)営業マンが設計部門の人間を交えて家族としっかり話し合って最終的な設計図を決定する

大きく変わったのは家族全員の意見をしっかり聞くことと、そこで聞いた要望を誰にでもわかりやすいイラスト風の図面に落とし込むことでした。

トヨタ式に「思いの見える化」という言い方があります。

自分の考えを誰かに伝えるとき、言葉だけでは伝わらないものもイラストや模型など目に見えるようにすることで格段に伝わりやすくなります。相手の意見も積極的に出るようになり、建設的な意見交換が可能になってきます。

同様に家に関しても家族みんなの意見をしっかり聞いたうえで、「それを反映するとこんな家になりますよ」というイラストなどがあれば、誰もが見てわかりますし、見ることで「ここはもっとこうしたほうがいいよ」「これはやめたほうがいいな」という意見も出やすくなるのです。

もう1つ気を付けたのは「曖昧な表現」や「専門用語」への注意でした。たとえば、顧客が「子ども部屋はもうちょっと広いほうがいいなあ」「キッチンをもう少し使いやすくして」という要望に出てくる「もうちょっと広いほう」「もう少し使いやすく」は主観的な表現ですから、人によって言葉のとらえ方も違い、ミスが生じるおそれがあります。

そんなときにはできるだけ「数字」を交えて行き違いが起こらないように気を付けました。もちろん専門用語もできるだけわかりやすく言い換えて、顧客に伝わっているかどうかを確認するようにしました。「曖昧語」や「専門用語」はいつだってミスの原因になります。具体的にわかりやすく話すこともA社は心掛けるようにしました。

こうして家族の意見がまとまった段階で初めてA社の営業マンは家族みんなの希望や、家族と一緒に完成させたイラスト風の設計図を設計部門に渡し、そこから設計図の作成に移ることにしました。

この段階ではA社の営業マンは家族の希望をしっかりと把握していますし、イラスト風の図面もあるだけに、設計部門に対して的確な依頼をすることが可能になります。

こうした改善を積み重ねた結果、A社での設計のやり直しは格段に減っただけでなく、契約から着工、完成に向かって下がり続けていた満足度も改善され、顧客が納得する家を納得する価格で提供するという目標に近づくことができました。

仕事のスタート時点、途中、最終段階に気を付けよう

やり直しは誰にとっても面倒なものです。最初から「ダメならやり直せばいいや」といういい加減な気持ちでスタートしているならともかく、ほとんどの人は「いいものをつくろう」という思いで、それなりの時間をかけ、コストもかけて仕事を完成させています。

出来上がったものに対する誇りもあるはずです。にもかかわらず、「これダメ、やり直して」と言われると、「ガーン、けっこう時間かかったのに」となるのは当然のことと言えます。

思わず上司の指示の仕方を恨んだり、顧客のわがままを嘆きたくなったりするものですが、いくら不満や不平を口にしたところで最初にかけた時間が戻ってくるわけではありません。やり直しというムダを排除するためには、A社のように「なぜやり直しが起きるのか?」という理由を調べ、やり直しをなくすための改善策を考え実行することが必要なのです。

やるべきことは大きく分けて3つあります。

(1)スタート時に納得しているか。わからないままスタートしない

(2)Y字路での報告など報連相を大切にする

(3)不良やミスを後工程に流さない自工程完結で行う

最初から部下が上司の意図を間違えて理解しているケースもあるように、スタートの時点でボタンの掛け違いが起きてしまっては最終的に「やり直し」になってしまいます。

あるいは、スタート時点でのズレはないものの、仕事を進めていく途中での判断ミスなどによって「やり直し」になるケースもあります。

さらに指示も正しく理解して、途中での判断ミスもないものの、最終的に出来上がった仕事の質が低かったり、ミスが多かったりして「やり直し」になるケースもあります。「やり直し」というムダを排除するためには、このように仕事のスタート時点、仕事の途中、仕事の最終段階それぞれに気を配り、注意をすることが必要なのです。

スタート時点での「理解」と「納得」を大切にしよう

やり直しをしないためにはやはり最初の段階でのしっかりとした「理解」と「納得」を欠くことはできません。

A社のケースでも設計段階や建築段階で「こんなはずでは」が起きるのは、A社の営業マンたちが顧客としっかりとしたコミュニケーションをとらず、ある種の見切り発車をしていたためです。

そのため本格的にものごとが動き出してから「ここは違う」「ここはこうしてほしい」といった食い違いが生じていたのです。反対に最初の段階でしっかりと話を聞いて、イラスト風の設計図などを使って納得を得ていれば、その後のトラブルややり直しはずいぶんと少なくできるのです。

トヨタ式を実践しているある企業の経営者が新入社員にいつも言っていたのは「とにかく顧客の話をしっかり聞きなさい。わからないことがあれば、その場で教えていただくか、それでもわからなければ顧客のおっしゃっていたことをそのまま先輩に伝えなさい」でした。

まだ十分な知識がない新入社員にとって顧客の話が100%わかることはまずありません。そんなとき、「わかったふり」をしていい加減な対応をしたり、「半分わかった」ような状態で仕事に入ってしまったりすると必ず問題が生じます。だからこそ、その経営者は「そのままをしっかり聞く」ことを強調したのです。

まずしっかりと聞くことさえできれば、その先は先輩たちに聞くなり、教えてもらうなり、助けてもらうことができますが、もししっかりと聞いていなければ、せっかくの仕事が「こんなもの頼んでいないよ」とやり直しになったり、先輩が代わりに確認に行ったりするほかはないのです。

スタート前の準備には時間をかけるのがトヨタ式

上司や顧客から仕事を依頼されたとき、守るべきは「納得していないのに『わかりました』と言わない」ことです。何をやるべきかが具体的にわかっていないのに「わかりました」と言うことはミスを招き、やり直しを招く、上司にとっても本人にとっても最も不幸なことなのです。大切なのは最初の段階でしっかりと考え、十分な準備を行ってからスタートすることです。

たとえば、ある目的のために改善を行う場合、「とにかく急がなければ」と思いついた改善をすぐに行った場合、何が起きるでしょうか。


トヨタ式では改善に先立って、できるだけたくさんの改善策を考え、それぞれを十分に比較検討を行ったうえで最善のものを選択します。いずれも時間のかかるものであり、それよりも思いついたらすぐにやるほうが効率的に思えますが、あとになって「あれよりももっといい改善策があった」となれば、コストの面でも時間の面でもムダをしたことになり、場合によっては「やり直し」をすることになります。

トヨタ式はムダを嫌いますが、スタート前の準備にはしっかりと時間をかけて、たくさんの改善策を考え、しっかりと比較検討を行い、上司や働いている人、前後の工程の人たちへの「理解」と「納得」を得てから実行に移ります。少し時間はかかったとしても、あとになって「失敗した、やり直さなきゃ」となるよりははるかに効率がいいのです。

仕事の指示を受けたときは自分自身がしっかりと理解して納得することが大切なのです。この段階での「よくわからないけれど、とりあえずやってみるか」は、「やり直し」覚悟の無謀なやり方としか言いようがありません。十分な理解と、しっかりとした準備こそが「やり直し」を排除するための大前提なのです。