米WTI原油先物価格は今年に入り上昇を続け、1バレル=60ドル台半ばで推移している。「世界的な株高が商品相場にも波及する」というリーマンショック以前に生じた現象が頭をもたげつつある。相場過熱の可能性が警戒される中、原油価格は「今年中に1バレル=80ドルに上昇する」との見方も出始めている(1月11日付ブルームバーグ)。

 好調な原油価格を支えている最大の要因は好調な世界経済である。

「ゴルディロックス(適温)相場の下で、今年も世界同時好景気が続く」との認識が広がり、原油市場でも「売り」につながるはずの情報が材料視されにくくなっているようだ。

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協調減産はいつまで続くのか?

 原油の「売り」材料にはどのようなものがあるのか。筆者が注目しているのは、まず中国の原油輸入量の減少である。

 昨年(2017年)12月の原油輸入量は日量796万バレルと前年比7.4%減となった。前年割れとなったのは2016年1月以来だが、原油価格の上昇によりマージンが大幅に減少し精製需要が減少した結果である。

 昨年11月の原油輸入量は「茶壺」と呼ばれる民間製油所の「爆買い」により日量901万バレルと好調だった。しかし、1月の精製業界を巡る環境は、原油価格のさらなる上昇により悪化の度を深めており、原油輸入量の前年割れが続く可能性が高い。強気相場の下ではしばらく材料視されないだろうが、「堅調な原油需要」という前提が崩れることになることから、原油価格の動向を占う上で見逃せない要素である。

 次に挙げられるのは、OPECをはじめとする主要産油国の協調減産がいつまで続くかである。

 昨年1月に開始された協調減産(日量約180万バレル)は今年末まで実施されることになっているが、中東やロシア産原油の価格指標である北海ブレント価格が1バレル=70ドルを超えると不協和音が出始めている。

 イランのザンギャネ石油相は1月10日、「OPEC加盟国はシェールオイルの存在を念頭に1バレル=60ドルを超える北海ブレント原油価格の上昇を目にすることに乗り気でない」と発言した。ロシアではノヴァク・エネルギー相が12日に「1月から3月の原油価格を見て協調減産の解除について結論を出す」と述べ、石油大手アレクペロフCEOも「ブレント原油価格が70ドル付近を維持した場合、協調減産を解除すべき」と主張した。

 アラブ首長国連邦(UAE)、カタール、オマーン、イラクなどは「協調減産を継続すべき」としているが、市場関係者の間では「まもなくOPECは原油価格の沈静化に向けた動きに出るだろう」との観測が高まっている(1月10日付OILPRICE)。

 イランやロシアの抜け駆け増産、債務支払い遅延が常態化しているベネズエラのさらなる減産など、主要産油国の協調減産は今後若干の波風が立つだろうが、6月のOPEC総会までは「現状維持」で推移すると考えられる。ただし、その後の展開は予断を許さない。

 3番目の要因は、シェール企業の動向をはじめとする米国市場の動向である。

 原油価格の上昇局面にもかかわらず、1月5日時点の米国の原油生産量は日量949万バレルに減少した(12月15日時点の生産量は日量979万バレル)。記録的な大寒波襲来の影響が大きいと思われるが、石油掘削装置(リグ)稼働数も750基前後で推移しており、「シェール企業は原油価格上昇にもかかわらず短期的な増産に慎重だ」との憶測が広まっている。

 投資家の間から「増産ばかりを追求するのではなく、債務の返済に充てる資金を内部留保してほしい」との声が高まっているとするのが主な理由である(1月11日付OILPRICE)。シェール企業は大量に発行したジャンク債の償還が今年から始まり(毎年約20億ドル)、2022年にピークを迎える(約113億ドル)。無謀な増産により自ら破滅を招いたという過去の教訓もある(2015年後半から2016年前半にかけて100社以上のシェール企業が経営破綻した)。

 足元の原油価格に比べて期先の原油価格が割安になっているため、増産に備えた「売りヘッジ」が行いにくいとの事情もある。さらに、シェールオイルの掘削現場での人手不足がより深刻になっているとの報道(1月15日付OILPRICE)もある。

 だが、シェール企業の「増産に慎重」な姿勢はいつまで続くだろうか。国際エネルギー機関(IEA)は、「WTI原油価格が1バレル=65ドルを超えればシェールオイルの増産は堅調となる」との見通しを示している。一時ほど「原油価格上昇 → シェールオイル増産」というフローが顕著ではなくなったものの、今後の動向には要注意である。

もしも米国が北朝鮮を攻撃したら?

 さらに、バブル化し始めている原油相場を攪乱させそうなのが、地政学リスクである。

 年初はイランの政情不安に驚かされたが、抗議活動は沈静化したようである。抗議運動の指揮者・政治勢力が不在であるとの弱点が露呈し、運動は一気に下火になったとされている。

 イランにおける抗議活動にいち早く支持を表明した米国のトランプ大統領は、1月12日、2015年の核合意により解除した対イラン制裁を復活させないことを決定した。しかし、120日の期限付きで「国際査察官のすべての場所への即時査察を認める」などの4つの条件(イランにとっては受け入れがたい)が満たされなければ、2度目の制裁解除継続はないと明言しており、今年5月にイランに対する制裁が再発動される情勢になりつつある。これによりイランの原油輸出は打撃を受けるだろう。

 欧州諸国は米国に同調しないことからそのダメージはあまり大きくないだろうが、むしろOPEC加盟国内での不協和音が一気に高まり、協調減産の枠組みが瓦解する懸念の方が気がかりだ。

 北朝鮮情勢はどうだろうか。トランプ大統領が平昌オリンピック終了後に北朝鮮へ軍事攻撃を開始するのではないかと取り沙汰されている。だが、北朝鮮への空爆を中心とする短期的な軍事攻撃であれば、原油価格への影響は少ない。軍事攻撃の被害が韓国や中国に及べば当該地域での原油需要が減少するとの思惑から、むしろ原油価格に対する下げ圧力になるのではないだろうか。

サウジリスクで原油価格は高騰から下落へ

 最後に、日本にとっての最大の原油輸入国であるサウジアラビアの政情は安定したのだろうか。

 1月12日、サウジアラビアの沿岸都市ジッダで、同国で初めて女性による会場での観戦が許されたサッカーの試合が行われた。日本をはじめ世界のメディアは「サウジアラビアの女性にとって歴史的な日である」とこの模様を大々的に報じたが、国内の混乱ぶりを覆い隠すためのプロパガンダであるように思えてならない。

 イランに続きチュニジアでも経済への不満から抗議活動が発生したが、サウジアラビア国民が生活に満足しているとは思えないからだ。

 今年初めから付加価値税(5%)が導入され、燃料価格も再び大幅値上げとなった。政府が公共事業を大幅に削減していることから雇用市場の悪化も続いている(首都リヤドでは、宮殿近くの大通りで増税などの経済政策に反対するデモが発生したとの情報がある)。

 1月4日、リヤドの宮殿前で抗議活動を行った11人の王族が拘束された。政府発表によれば「王族に対する電気・水道代への手当てが停止された」ことなどに対する抗議だとされている(抗議の内容は、政府の都合により歪曲されている可能性が指摘されている)。王族内での不満の高まりは、今後体制転換を意図する勢力に利用されることだろう。

 汚職を名目に昨年11月に摘発されていた大勢の王子や閣僚経験者らが拘束されていたリヤドの超高級ホテル「リッツ・カールトン」は1月15日、「2月中旬から営業を再開する」との見通しを明らかにした(1月15日付AFP)。和解が成立した多くの重要人物が釈放され、一連の和解で約1000億ドルもの資金が国庫に移るとされている。しかし国際社会が注目していたアルワリード王子は、釈放の条件である600億ドルの支払いを拒否したため、リッツ・カールトンからサウジアラビア国内で最も警戒が厳重な刑務所に移送されたようである(1月14日付ZeroHedge)。アルワリード王子が首を縦に振らなければ、政府のカネ不足の状態は一向に改善しない。

 政府は、中東最大の建設会社であるビン・ラディングループへの多額の資金未払いを抱えている。その借金帳消しのために、同グループを接収しようしているようだ(1月11日付ZeroHedge)。さらに、国際金融市場からの100億ドルの借り入れや、政府系ファンドの投資資金調達のための銀行借り入れを検討している(1月15日付ブルームバーグ)。

 財政赤字の元凶とも言えるイエメンへの軍事介入は、出口が見えないどころか、サウジアラビアの安全保障にとって深刻な脅威になりつつある。昨年後半以降、イエメンの反政府武装組織フーシのミサイル攻撃が増加していることに加え、1月8日にはサウジアラビア軍の戦闘機(F-15)がフーシによって撃墜された。9日、フーシは「サウジアラビアの空爆が継続されれば、タンカーなどが多く通過するイエメン沖の紅海(バブ・エル・マンデブ海峡)の封鎖も辞さない」と警告を発している。17日、フーシが発射したミサイルがサウジアラビア南西部の軍事基地に命中したとの情報もある(1月17日付ZeroHedge)。

 こうしたサウジアラビアを巡るリスクが顕在化すれば、原油価格が高騰し、世界の中央銀行はインフレ懸念から金融引き締めを余儀なくされる(「ゴルディロック相場」の終わり)。「原油価格の急騰(2007年7月:1バレル=147ドル) → ゴルディロックス相場が崩壊して世界経済が失速 → 原油価格が大幅下落(2009年3月:1バレル=33ドル)」というリーマンショック後の悪夢が頭をよぎる。歴史が繰り返さないことを祈るばかりである。

筆者:藤 和彦