現実世界とサイバー世界は、どのようにつながるのか。


 私たちの住む「現実世界(Physical World)」は、さまざまなモノと多くのヒトで満ちあふれています。それらが、お互いに関係を持ち、影響を及ぼし合いながら社会や経済を動かしています。

 そんな現実世界はアナログで連続的で、途切れることのない時間と物質によって満たされています。地理的な距離はモノやヒトを隔てる絶対的な壁であり、時間は不可逆的で巻き戻すことはできません。

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現実世界の「ものごと」をデータ化するIoT

 そんなアナログな現実世界を、モノに組み込まれたセンサーによってデータとして捉えようという仕組みがIoT(モノのインターネット/Internet of Things)です。

 IoTにより、「現実世界のデジタルコピーが作られてゆく」と解釈することもできます。そんな時々刻々の状態を写し撮ったデジタルコピーが、インターネットの向こうにあるクラウドコンピューティングの世界、すなわち「サイバー世界(Cyber World)」に送られ、積み上げられてゆきます。

 このデジタルコピーは、「現実世界とうり二つのデジタルな双子の兄弟」という意味で「デジタルツイン(Digital Twin)」とも呼ばれています。

 そんなデジタルツインはサイバー世界のデータですから、地理的距離を一瞬にして行き来でき、時間を自由に遡ることができます。それにより、これらのことが実現できます。

・これまでには考えられなかった新しいヒトやモノ、あるいはプロセスの組み合わせを生みだす。
・過去のデジタルツインに埋め込まれている事実から、ものごとの因果関係や原因を見つけ出す。
・いまどうなっているかをリアルタイムに教えてくれる。
・データに刻み込まれた規則性を見つけ出し、そこから未来を予見できる。

 具体的には、スマートフォンには、位置情報を取得するGPSや身体の動作を取得するセンサーが組み込まれています。私たちが、それを持ち歩き使用することで、日常の生活や活動がデータ化されます。ウエアラブルデバイスは身体に密着し、脈拍や発汗、体温などの身体状態がデータ化されます。

 自動車には、既に100ほどのセンサーが組み込まれています。住宅や家電製品、空調設備や照明器具などの「モノ」にもセンサーが組み込まれ、さまざまな出来事がデータ化されようとしています。それらがインターネットにつながり、取得したデータを送り出す仕組みが作られつつあります。

「ソーシャルメディア」もまた、デジタルツインを築く役割を担っています。例えば、私たちはスマートフォンやタブレットを使い、FacebookやLINEなどで、写真や動画、自分の居場所の情報を、デジタルデータにしてネットに送り出しています。また、流行や話題、製品やサービスの評判について、地域や時間を越えてさまざまな人たちと意見を交換しています。また「友達になる」や「フォローする」ことで、ヒトとヒトとのつながりについての情報を生みだし、インターネットに送り出しています。

 他にも、オンラインでの買い物やさまざまなWebサービスを利用することで、私たちの行う行動や世の中の出来事もデータ化されます。モノとコト、すなわち「ものごと」にかかわる膨大なデータが、ネットに送り出されているのです。

 インターネットにつながっているモノは、2009年に25億個だったものが2020年には300億〜500億個へと急増するとされています。ソーシャルメディアもWebサービスもユーザーを増やしています。それらを通じて現実世界の「ものごと」が、きめ細かく、そしてリアルタイムでデータ化される仕組みが、築かれつつあるのです。

最適解を見つけ出す人工知能

 現実世界のデータは、インターネットを介してクラウドに送られます。インターネットにつながるデバイスの数が劇的に拡大し、Webサービスが充実を続ける中、そのデータ量は、急速な勢いで増え続けています。このようなデータを「ビッグデータ」と呼びます。

 現実世界のビッグデータは、集めるだけでは何の価値も生みだしません。解析して価値ある情報を見つけださなければ、生かされることはありません。しかし、そのデータ量は膨大で、内容や形式は多種多様です。単純な統計解析だけでは、価値ある情報を引き出せないのです。この課題を解決する手段として、「人工知能(AI)」に注目が集まっています。

 例えば、日本語の文書や音声でのやり取りなら、言葉の意味や文脈を理解しなければなりません。また、写真や動画であれば、そこにどのような情景が写っているか、誰が写っているかを解釈できなければ役に立ちません。さらには、誰と誰がどの程度親しいのか、商品やサービスについてどのような話題が交わされたのかといった意味を読み取り、何らかの対処が必要かどうかといった解釈や判断を行わなくてはなりません。このようなことにAIが役立ちます。

 AIは、コンピューターの性能向上や「人間の脳の仕組みを参考にした」技術である「深層学習(Deep Learning)」が開発されたおかげで、その実用性が急速に高まっています。囲碁や将棋の世界でトッププロを打ち負かしたのも、そんな深層学習の成果のひとつであり、特定の知的作業では人間の能力を超えるまでになっています。

 そんな技術を使えば、このようなことができるようになります。

・曖昧な音声での問いかけや命令を理解して、情報提供や様々なサービスを提供し、難しい機械の操作を代わってくれる。
・人間が指示を与えたり操作したりしなくても、自分で学習し、判断・行動できるようになり、人間にしかできなかったことを代わりにやってくれる。
・膨大なデータから見つけ出した規則性や関係性から、未来に何が起こるかを高い精度で予見してくれる。

サイバー・フィジカル・システム

「サイバー・フィジカル・システム」の概念図。


 アナログな現実世界をデジタルデータで捉え、現実世界とITが一体となって社会を動かす仕組みを「サイバー・フィジカル・システム(CPS/Cyber-Physical System)」と呼んでいます。これを「(広義の)IoT」と捉える考え方もあります。

 インターネットにつながるモノの数は増加し、ソーシャルメディアやWebサービスの利用が増えればデータはさらに増え、きめ細かくなってゆき、より精度の高い現実世界のデジタルツインがサイバー世界に築かれてゆきます。そのデータをAIで解析し、さらに正確な予測や最適な計画、アドバイスができるようになります。

 その情報を利用して現実世界が動けば、その変化は再びデータとして捉えられサイバー世界に送られます。いま、そんな仕組みが、私たちの社会や生活の基盤になろうとしているのです。

 CPSは「現実世界とサイバー世界がリアルタイムで改善活動を行ってくれる仕組み」と捉えることもできます。これにより、経済やビジネスは効率よく機能し、コスト低下、時間短縮、個別最適といった恩恵を私たちに与えてくれます。さらに、エネルギーや地球資源などの消費の無駄がなくなり、サステイナブル(持続可能)な社会の実現にも貢献してくれるのです。

筆者:斎藤 昌義