女性管理職比率が高い会社トップ10社

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政府は女性管理職比率を「2020年までに30%」とする目標を掲げている(写真:ふじよ / PIXTA)

「働き方改革」に「ESG投資」……。いわゆるCSR(企業の社会的責任)の領域は、環境対応や社会貢献など従来からのテーマに加え、最近では冒頭に上げたようなテーマがクローズアップされるようになった。

東洋経済が毎年発行する『CSR企業総覧』の最新版となる2018年版が昨年11月に発売となった。年々、カバーする領域が拡大しているうえ、企業の情報開示への意識も高まっていることから、2017年版に続き「雇用・人材活用編」と「ESG編」の2分冊での刊行となった。

今年も、誌面に収録した豊富な情報・データのなかから、特に関心の高いテーマや注目していただきたいテーマについて、本稿を皮切りにランキングを中心とした分析を行っていきたい。


第1弾の今回は、「女性管理職比率」を取り上げる。

周知のとおり「女性の活躍推進」は、安倍晋三政権が進める経済政策(アベノミクス)の成長戦略の1つの柱として掲げられていることもあり、非常に関心の高いテーマである。政府も2015年度以降、毎年「重点方針」を掲げ、関連するテーマへの予算措置を講じている。

2016年には「女性活躍推進法」が施行され、企業には、女性の採用や管理職への登用、働き方改革などの取り組みについて、数値目標を含めた行動計画の策定と情報の開示が求められるようになった。すでに厚生労働省の「女性の活躍推進企業データベース」には8552社(データ公表企業)、10051社(行動計画公表企業)の登録が行われている(2018年1月12日11:00時点)。

さて、では各企業の最新の状況についてみていこう。なお、本稿でのランキングは2016年9月以降の時点で女性の管理職が10人以上いる企業を対象としている。管理職の定義については、「部下を持つ、または部下を持たなくとも同等の地位にある者」としており、ここには「役員」(執行役員を含む)は含まれていない。また、企業ごとに管理職の基準は異なっているので、その場合は会社基準をベースにしている場合もあることに留意いただきたい。

2018年版のトップはシーボンで、前回に続く2年連続のトップとなった。管理職142人のうち女性が124人で、女性管理職比率は87.3%に達する。それもそのはずで、同社は女性の“美を創造し、演出する”を企業理念に掲げ、女性向け化粧品の製造・販売、およびビューティサロンを全国展開している、まさに女性のための会社だ。そのため従業員構成も、男性80人に対し女性が1016人と圧倒的多数を占める。

したがって、女性が働きやすいさまざまな仕組みが整っている。たとえば結婚や出産、介護などとの両立を可能にするための多様な働き方に関しては、1日6時間勤務など短時間勤務であっても、フルタイムの正社員と同等の福利厚生を受けられる「ショートタイム正社員」制度や、一度退職した社員が再び即戦力として再入社できる「ウェルカムバック制度」などを設けている。

こうした取り組みの成果もあり、2010年度に79.5%だった女性管理職比率は、2013年度に84.4%、2014年度85.3%、2015年度88.2%と高まり、目標として掲げた「女性の管理職比率85%以上」はすでにクリアしている。また2010年度に5.3年だった女性の平均勤続年数も、今回のデータ(2016年度)では8.1年に延びている。

2位はニチイ学館で比率は77.1%。管理職3810人のうち女性が2938人を占める。同社は医療、介護、教育を3本柱にヘルスケアや生活支援、さらに保育所の運営も行うなど、生活のさまざまなシーンに密着した事業を行っている。こうした事業は、優しさやきめ細かさといった女性の目線が重要で、それだけに創業以来、女性の就労機会を提供し、活躍を後押しし、管理職への登用も進めてきた。女性管理職比率も2006年度ですでに77.0%に達し、以降現在まで同水準を維持している。

4位はゲームソフト『うたの☆プリンスさまっ♪』シリーズとその関連商品を展開するブロッコリー。従業員95人のうち女性が60人と多数を占める。管理職も女性が18人、男性が15人と女性が多数派だ。前回の調査では、女性管理職は5人(男性10人)で女性比率が33.3%と順位では14位相当だったが、ランキングの対象が女性管理職数10人以上だったため対象外だった。

以下、5位がパソナグループ、6位は関西地区を地盤に介護事業を展開するケア21、7位は婚活サービスのパートナーエージェント、9位がクレディセゾン、10位にはツクイがランクインした。いずれも前回調査でトップ10に名を連ねていた企業であり、上位の顔ぶれはほとんど変わっていない。

そんななか4位のブロッコリーのほか、8位には女性向け恋愛ドラマアプリなどを展開するボルテージが新たにランクイン。両社を含め上位50社のうち15社が新たに対象となり、ランキングに加わった。

金融・保険業、サービス業、小売業で高い女性管理職比率

ランキング上位では化粧品など女性をターゲットにした商品・サービスを提供する企業、介護や保育事業を展開する企業が目立つ。また保険や小売業のように顧客・消費者と直接対面する業態の企業がほとんどで、そのような場面では女性の力、活躍が非常に有効であることを物語っている。


では、あらためて業種ごとの女性管理職比率を全体で見てみよう。『CSR企業総覧』2018年版に情報掲載のある1413社のうち、女性管理職数または比率の開示がある1222社を33業種に分類してみてみると、保険業が18.76%と断トツで、2位が証券・商品先物の14.37%、3位はサービス業の14.11%、以下、4位銀行業13.80%、5位その他金融業13.79%、6位小売業13.58%となっている。

これに対し、製造業では全般に女性管理職比率は低く、医薬品を除けば10%以下にとどまっている。特に鉄鋼や非鉄金属、輸送用機器といった重厚長大型の業態ではわずか1%台にとどまっている。最近では現場で働く土木系女子を称する「ドボジョ」、ゼネコンで働く「ゼネジョ」という言葉も登場した建設業も、女性の管理職となるとまだ1%台だ。

参考までに別のデータをみてみよう。厚生労働省が発表した「2016年度雇用均等基本調査」によると、業種別の課長相当職以上の女性管理職割合(役員を含む)では、「医療・福祉」が50.6%と断トツ、次いで「生活関連サービス業、娯楽業」の21.9%、「宿泊業、飲食サービス業」と「教育、学習支援業」が各21.0%などとなっている。やはり医療・福祉・教育といった業種で女性管理職の比率が高いことがわかる。


もう1つのランキングは、この5年間にどれくらい女性管理職の比率を拡大させたか、増加ポイントの高い順に示したものだ。5年前の『CSR企業総覧』2013年版(2011年度)で情報開示があり、今回2018年版(2016年度)で女性管理職の数が5人以上いる企業433社を対象としている。

増加トップはイオンフィナンシャルサービス

1位はイオンフィナンシャルサービスで、こちらも前回調査に続き連続トップとなった。同社は5年前の2011年度では、女性の管理職はわずか6人、比率も3.6%にとどまっていた。その後、2012年度11.8%、2013年度14.0%、そして2014年度には31.9%と急上昇している。実は同社はグループ企業再編を行っており、本調査において2013年度まではイオンクレジットサービスの集計データだったが、2014年度以降は経営統合したイオン銀行を含むイオンフィナンシャルサービスの連結ベースの集計データに変わっている。

2位はイオン(データはグループの中核企業であるイオンリテールの集計データ)で2011年度の8.3%から19.4ポイント上昇した。これまで2013年度10.2%、2014年度11.9%、前回2015年度13.0%と着実に比率を高めてきた。そして今回は27.6%と大きく上昇している。これは、従来の「やや厳しめ」のベースの集計から、女性活躍推進法で策定が義務付けられた事業主行動計画において状況把握の必須項目とされている女性管理職比率の基準、すなわち課長級以上のベースの集計に変更したことによるものだ。

同社はグループ全体で女性管理職比率を「2020年に50%」とする目標を掲げている。グループ内には小売業のほか、アパレル、化粧品、施設管理、ディベロッパーなど多種多様な業態の企業を擁している。1位のイオンフィナンシャルサービスもその1つだ。これら各社がそれぞれ「ダイバーシティ推進責任者」「女性が活躍できる会社リーダー」「女性が働きやすい会社リーダー」を配置し、各社ごとに課題の設定を行い、女性が働きやすい企業づくりに向けて活動している。こうした取り組みもあって、異動に際しても女性の登用が強く意識されているという。

同じく19.4ポイント上昇で同率2位となったのは高知銀行。前回調査のランキングでも4位と上位にランクインしていた。同行は5年前(2011年度)の女性管理職数はわずか5人、比率も2.2%にすぎなかったが、その後も2014年度まで2.2〜2.4%という水準が続いた。ただ、この間も仕事と子育ての両立支援やワーク・ライフ・バランスを推進するための雇用環境の整備などを行い、次世代認定マーク(「くるみん」)を4期連続で取得していた。

こうした取り組みを進めたことに加え、管理職のベースを変更して集計したこともあり、前回調査では女性管理職比率が20.3%となり、今回調査で21.3%に上昇した。同行では、さらに結婚や育児などにより退職した職員の復職を進める制度整備に取り組んでおり、その結果、2017年6月に「プラチナくるみん」認定を、同9月には女性が管理職として活躍できる雇用環境の整備が評価され、女性活躍推進法に基づく「えるぼし」認定を受けている。

一方、昨年2位のセブン&アイ・ホールディングスは10位、同3位の第一生命ホールディングス(データは第一生命保険)は34位と順位は後退した。両社とも女性管理職比率ランキングでそれぞれ38位(26.4%)と44位(24.3%)に名を連ねており、どちらも言わずと知れた女性活躍推進における先進企業だ。女性管理職比率は、すでに5年前(2011年度)の段階でセブン&アイ・ホールディングスは15.0%、第一生命ホールディングスは17.6%に達していた。したがって上昇率が鈍化するのはある程度やむをえない面はある。ただし、それでも上昇率でトップ50圏内だ。

それでも日本は遅れている


政府は女性管理職比率を「2020年までに30%」とする目標を掲げている。従業員301人以上の企業も女性管理職比率の目標が義務付けられており、女性管理職を増やし、その比率を高めていかなければいけないというコンセンサスはほぼ確立している。しかし現実は、まだ全体で12.1%(厚生労働省「2016年度雇用均等基本調査」)と、目標には遠く及ばない水準だ。もちろん諸外国との比較でも低い水準にあることは言うまでもない。

すでに現役世代の減少による労働力確保が課題となってきた日本企業は、長時間労働是正をはじめとする「働き方改革」を進めることが急務となっている。そのなかで、女性が働きやすい環境を整備し、その能力を発揮できる体制をつくり、優秀な人材を登用していくことは重要なポイントとなる。数値目標達成の性急な数合わせではなく、着実に一つひとつの取り組みを積み上げていくことが肝要だ。