最安値圏、高金利で注目されるトルコリラは買ってよいのか(写真:Givaga / PIXTA)

いまだ世界中が低金利でカネ余りの状態が続き、ゴルディロックス相場が出現している。しかし、米国ではFRB(米国連邦準備制度理事会)が利上げを進めており、ハイイールド債券のような高リスク商品の下落リスクを警戒する声も出始めた。そんな中、著者が投資対象として注目しているのが、代表的新興国の一つであり、このところ通貨が最安値圏で推移しているトルコである。トルコリラの投資対象としての価値とリスクを検証していきたい。

まず、投資対象として通貨を考える場合、収益の源泉は為替レートの変動からくる損益と保有期間分の金利に大別される。

外貨投資の損益=「価格変動」+「金利」

為替レートの変動は、たとえば1トルコリラを30円で買い、それが変動して31円になると1円儲かり、29円に下落すれば、1円の損失が発生するというもの。金利はその通貨の預金や債券に付与される金利である。たとえばトルコリラの1年の預金金利が10%の時に30円で買った1トルコリラを1年預金すれば、金利が0.1リラ付与される。1年後に為替レートが変動しなかったとすれば、1.1リラx30=33円になるため、3円の利益が発生することになる。

為替の動きは中長期でみるべき

とはいえ、経済指標やチャート分析を真面目にしたところで、短期の為替変動を適格に予想できるほど市場は甘くない。ドルのような主要通貨ですらそうなのだから、新興国通貨においてはなおさらである。

しかし、アプローチの仕方を変えることでより合理的な投資ができる可能性はある。短期を当てに行くのではなく、中長期的な価値について自分なりの見方を形成できるのであれば、納得のうえでの投資が可能だ。

実際にはあらゆる投資において、「なんとなく好材料が多いので買ってみる」といった行動が多く見られる。これは、株式投資ならば、業績がよくて、商品の売れ行きが好調でイメージのよい会社の株価は、PER(一株あたり利益)の水準を無視して買い進まれてしまうような例である。

株価もそうであるが、通貨の価値を考える上では、絶対的な価値基準を持つ必要がある。それがないと、GDP(国内総生産)の成長がプラスで、地政学リスクも少なく、人口が多いというような、マイナス要因が当面見当たらない通貨あると、それがどんなに割高な水準にあったとしてもさらに買い進まれるというような事態が起こってしまう。

ところが、新興国通貨、それも対円レートの水準において確固たる相場感を持つのは容易ではない。さらに気をつけなければならないのは為替の世界は基本的に「基軸通貨である米ドルに対していくらなのか」という観点で取引されているという点である。

1トルコリラは現在(2018年1月)30円程度なので、日本人には、「30円の大台を割った(もしくは超えた)」ということが意識されるかもしれないが、対ドルでは3.7673リラであって、特に切りのよいレベルではない。どちらかというとこの先「対ドルで4リラを超えるかどうか」のほうがはるかに注目されているのである。

通貨を測る便利な物差しは「購買力平価」

そこで、投資対象の通貨に対して自分なりの水準感を持つにはどうしたらよいのか。少なくとも「今ポジティブなニュースがでたので、昨日の水準よりも高くなるはず」という考え方は正しくない。昨日の水準自体が間違っている可能性があるためだ。

あるべき為替レートについてはいろいろな考え方やモデルが存在するが、唯一意味があると筆者が考えるのは購買力平価である。これは簡単に言えば「同じものは世界中のどこで買っても同じ値段のはず」という考え方である。ある商品が日本では400円、同じ物がアメリカで4ドルならば、1ドル100円ということになる。

「複雑な要因が絡みあって形成されている為替レートはそんなに幼稚で単純ではない」とお叱りを受けそうであり、確かに国によって税金や人件費、不動産の費用、エネルギー価格など価格形成に係るものの条件が変わるのも事実であるが、通貨は基本的に「モノを買う手段」である。したがって購買力平価で見て妥当と思われる水準から乖離しているのであれば、いずれ妥当なレベルに収斂(しゅうれん)していくと考えることができる。

購買力平価の考え方を用いて為替レートを評価する方法もいろいろあるが、基準年をどこに置くかで、割安か割高かが変わってしまう。そこで、トルコリラの対ドルでの購買力平価のスタート地点を計測期間中の実際の対ドル為替レートと購買力平価の平均が同じになるように調整してみた。実際の為替レートの下落は購買力平価の下落よりも大きいことがわかる。購買力平価の観点からもトルコリラは割安に推移していると見てとれる。


また、トルコリラの実質実効レート(多通貨の中での実力を見るもので、かつ、インフレの影響を除いたもの)も、過去10年の平均と比較して足元は下げている。


実際の投資となると、名目為替レートとなるが、名目為替レートは当然インフレの影響を受けることになる。対ドルであれば、トルコのインフレ率が米国よりも高いのであれば、その分だけ為替はリラ安になるはずだからである。高インフレ通貨は時間の経過とともに下落する、つまりある時点で割安であったとしても、その後に上昇するとは限らないことには注意が必要だ。割安の是正=名目レートの上昇ではない。

インフレ率より金利が高ければ利益が得られる

仮にドルよりもリラのインフレ率が10%高いとすると、1年後にはリラはドルに対して10%下落するはずである。ある時点で5%割安だった場合に、ちょうど1年後に割安は是正されたとしても、絶対値としては5%下落することになるのである。

それでは儲からないように思えるが、ポイントは金利差である。冒頭に述べたように外貨投資の損益は「価格変動」と「金利」の合計なので、この場合、もし金利が10%であれば1年後には金利分の10%から為替の下落5%を引いた5%が利益となる。


通常、金利の高い通貨を発行している国はインフレ率が高いため、基本的に高金利の効果はインフレで相殺される。しかしながら、実際の市場では、通貨防衛目的などから政策的に、インフレ水準以上に金利が高く設定されることはよくある。金利水準がインフレよりも高い場合に、超過収益の原資となるのである。

現状ではトルコリラは、購買力平価で考えた水準よりも安い状態にあるが、その背景には以下のような理由が考えられる。

(1) 経常赤字であること。対GDP(国内総生産)比で4〜5%の赤字が続いており、海外からの資金調達に依存する中、米FRBの利上げなどから資金が引き上げられるのではないかと不安視されている。(2) 対外的緊張 。米国とのビザ発給相互停止問題(しかし12月28日には全面再開)やEU(欧州連合)から人権問題で批判されていること。(3) インフレ率の高止まり。 政治的要因で利上げが難しい中、2017年11月のCPI(消費者物価)上昇率が約12%に達するなどインフレが深刻なこと。

筆者はこれらの割安となる要因については以下のように考えており、市場が過剰反応していると思っている。

5年程度の固定利付債券は一つの選択肢

まず、経常赤字についてだが、人口増加による輸入拡大が主因であり、外貨建て債務の借り手も外貨建て売り上げのある大企業中心となっている。また、 2019年11月の大統領・統一議会のダブル選挙に向け、外交より内政を優先しており、当面は対外的な摩擦が継続する可能性もあるものの、米国はトルコにとって最大の焦点であるクルド人部隊への武器供与停止を明言している。欧州とはシリアからの難民問題で協力関係が成立した。ロシアとの接近も続いている。

インフレ率については、主な原因である通貨安による輸入物価高問題は2018年初には一巡しており、今後は低下が見込まれる。 実際、2018年、2019年のCPIはブルームバーグによれば、コンセンサス予想として、それぞれ9.5%、8.6%に改善見通しである。

つまり、いずれの理由においてもリスクに過剰に反応しているものと思われる。もちろん、懸念材料もある。トルコは貯蓄率が低く経常収支の恒常的に赤字であることを材料に、リラが売り込まれてしまう可能性は否定できない。またクルド人問題も含めて政治・社会情勢が盤石であるとは言い難い。

以上のような論点以外に、国の財政運営状況や金融システムの安定性、経済構造の変化や地政学リスク、エルドアン大統領の安定度や対抗勢力に対する評価などによって、購買力平価の数字は調整していく必要があるが、ここでは紙面に限りがあるため、割愛する。

ただ、トルコリラに関しては、そもそも水準自体が割安である上に、インフレ率が金利水準を下回ると予想されることがポイントである。高いクーポン(債券の金利)を持ち、世界銀行などの信用力の高い世界的な金融機関の発行する中長期(現在は5年満期程度の債券の金利水準が高い)の債券に投資し、短期の為替変動に振り回されることなく保有するというスタンスならば投資対象になるのではないか。