専門性の高い職種などで一般的な「業務委託契約」。しかし、実際にはブラック企業が雇用保険や社会保険代金をケチったり、残業代を払いたくないために、無理矢理、業務委託を装うケースも散見されます(写真はイメージです)

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企業のコンプライアンス遵守が叫ばれ、社内の労働環境にも厳しい目が向けられるようになった。2013年からは厚生労働省によるブラック企業調査が始まり、労働基準監督署が介入する企業の数も増えている。だが一方、そんな労基署の監視網にかかりにくい勤労者もいる。「業務委託」といった雇用形態のもとで働く人々だ。一般雇用とは条件が異なる業務委託、その問題点とは?(清談社 松原麻依)

労基署でも判断が難しい
労災認定のグレーゾーン職種

 昨年8月、スタントマンの男性が撮影リハーサル中に“もらい事故”で左目を失明したにもかかわらず、労災が却下されたというニュースが報じられた。

 男性が参加していたのは民放キー局のドラマの撮影で、その局は連ドラの放送が終わると、男性への治療費の支払いを打ち切っている。

 民放キー局のドラマ撮影スタントマンや俳優、音楽家などは一般に「芸能実演家」と呼ばれ、企業側とは業務委託契約を結んでいることが多いという。その男性もご多分にもれず、業務委託契約をしていた。業務委託の場合、企業と業務委託者は対等な立場での契約ということになり、受託者には労働基準法など労働者を保護する法律が適用されなくなる。

 しかし、組織と個人の契約において、完全に「対等」ということはありえるのだろうか。ベリーベスト法律事務所の野口直人氏に、業務委託の実態とその問題点を聞いた。

「一般に、業務委託者は企業側の依頼を断る権利を有しており、業務も概ね受託者の裁量で進められることになっています。これは、委託者と企業が対等な関係であったかを測る判断基準のひとつでもあります。もし委託者が裁量権のない現場で働いていた場合、その事実が労基署に認められれば、たとえ業務委託を結んでいたとしても労災はおりる仕組みになっているのです」

 スタントマンのような、一般人には真似できない技術を実演する職業は、使用者による指示があったとしても、業務遂行時における細かな判断は本人の裁量であることも多いという。

「その結果、労働基準監督署の調査・判断では、芸能実演家本人の裁量で業務をこなしている部分が多いとみなされ、労働者性が認定されない可能性があるのです」

 過去には、フリーランスの映画撮影技師が、映画の撮影期間中に宿泊先の旅館で脳梗塞により死亡してしまった事故もあった。こちらも、労働基準監督署が亡くなった映画撮影技師を労働者とは認めなかったため、遺族が訴訟を起こしている。

「この裁判で、1審では撮影技師は技術が高く、業務遂行上の裁量が認められていたとし、『労働者ではない』という判断が下されました。一方、第2審は、一定の裁量があったとしても、最終的には映画監督の指揮命令に基づいて業務遂行する必要があったため、指揮監督関係にあると判断、その他の事情とも考慮して『労働者性』が認定されたのです。このように、裁判所においても判断が分かれるほど、芸能実演家の労働性は判断が困難といえます」

 しかし、いくら判断が困難とはいえ、チームで進めていくような現場だと、100%自分の裁量で動くことは難しい。スタントマンであれば、難易度の高いアクションを求められることだってあるだろう。その際、一個人が企業側に向かってNOを突きつけることはできるのだろうか。もしそれで致命的なケガを負っても、何の保障も得られないのであれば、かなり理不尽な話である。

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