女同士の闘いなんて、くだらない?

美貌・財力・センスのすべてを手に入れた女たちが繰り広げる、ヒエラルキー争い。

男からは求められ、女からは妬まれ、そして羨望の的となるカリスマ読者モデルの世界。

己の自己顕示欲を隠すことなく曝け出す彼女たちは、時に結託し、時に競い合う。

くだらない、と思うならどうか覗かないで欲しい。

優雅で美しくも、水面下で死にもの狂いで闘う、女たちの醜い生き様をー。




マテリアル・ガール


セリーヌのラゲージは、マイクロショッパー・ナノショッパーの少なくともどちらかは持っていないとダメ。

合わせてフェンディのピーカブー、もちろんシャネルのマトラッセはマスト・ハブ。

全身コーデの撮影で、プチプラファッションを投入していいのは1点まで。それも、PR用のアイテムだと貧乏臭くならなくていい。

こんな感じで徹底的に自分をセルフプロデュースして、ハイブランドの新作お披露目パーティへの招待状が届くようになったら、読者モデルとして一人前と言える。

話題のレストランやカフェだって、オープン後にいち早く駆けつけるんじゃ、すでに負け。レセプションで呼ばれないと恥ずかしい。

夏は水着姿をサラッとインスタにアップできるように、周りのみんなと同じようにパーソナルトレーナーをつけて1年中ジムに通う。

もちろんウェアだってタイアップアイテムで、私が身につけているのを見てフォロワーのみんなが買ってくれるように少しだけウエストの部分を加工したりするのは、当たり前。

そんなの、みんなやってることだもの。

こんな私を見て、バカらしい、頭が空っぽのミーハー女だ、って思う?

でもね、まさか私だって、自分がこんな風にブランド物のバッグに興味を持ったり、新しいレストランにアンテナを張ったりする生活を送るなんて、思ってもみなかった。

そう、始まりは、ほんの好奇心だったの―。


典型的なマテリアル・ガールに見えるあおいの大学時代とは?


大学で上京。必死に勉強し、得た自由。




「あおい、内定おめでとう!」

渋谷にある九州料理の店、『たもいやんせ』で、親友の優が乾杯をしてくれた。




埼玉県出身の優が、宮崎県出身のあおいの為にと、宮崎の郷土料理の店を予約してくれたのだ。

日南風のチキン南蛮が食べられるなんて…と、あおいは親友の優しさと有難さを噛み締めつつ、都農ワインのハイボールを喉に流し込む。

「お、美味しいよ…。本当に、本当にありがとう。」

チキン南蛮を夢中で頬張るあおいを見て、優がふふっと笑った。

資格取得のため猛勉強に明け暮れた大学時代を過ごした自分たちが、こうして外でお酒を飲むなんて珍しい。

早稲田大学在学中、あおいは公認会計士試験の勉強に人生のほとんどを費やしていた。

まずは簿記の資格取得から始め、1年生のうちに3級・2級の試験に軽くパスしたものの、1級の壁は厚く2年生の夏休み前にようやく合格することができた。

それからも、周囲が要領良く大学の単位を取りサークル活動を楽しんでいる様子を横目に、公認会計士試験の短答式に挑んだ。モチベーションを保つのが難しく、何度泣きながら故郷の母に電話をかけたかわからない。

彼氏もろくに作らず、食事会にも行かず、ひたすら髪を振り乱して勉強した結果、ついに公認会計士の論文式試験に合格した時の喜びが鮮明に蘇る。

「あ、そうだ!お母さんに写メしてあげないと!優ちゃんとチキン南蛮食べちょるよ、と。」

あおいは、今まで感じたことのない解放感に浸っていた。

在学中に難関試験にパスした実力が認められ、半ば売り手市場の状態で大手の監査法人から内定を得ることもできた。あとは地道に実務補習を受け、無事に公認会計士になれれば…。

「ね。これでやっと、少しは遊べるよね。明日、銀座に買い物に行ってみようよ。」

自身も超難関の税理士試験を突破した優は、とりあえず思いきり遊ぼうよ、とはしゃいでいる。

思えば4年間、自分たちは大学生らしいことをほとんどせずに過ごしてきたのだ。お金もほとんど使っていない分、少しくらいなら贅沢な買い物もできる。

「うん、行ってみよう!私UNIQLOで欲しいものあるから、銀座行きたかったんだよね。」

「あおいってば…。私達ももう社会人になるんだし、ちゃんとした服とかバッグとか、ブランド物で一通り揃えようよ!」

だが翌日、意気揚々と銀座のデパートやブティックを見て回った2人は、そのあまりの値段設定に尻込みし、結局UNIQLOで「社会人らしい」服を一揃え購入して終わることになった。


ついに社会人デビューしたあおいに訪れた転機とは?


タフな職場で、ひたすら華やかな集団


「おはようございます!」

朝一番にオフィスに来て、大きな声を出す。

大手監査法人の東京事務所に配属され、ここ飯田橋のオフィスに通うようになって数ヶ月が経った。周囲の人間関係にも恵まれ、あおいは順風満帆な社会人生活を送っている。




宮崎の両親は、娘が東京で1人働くことについても心配している上に、監査法人という多忙なイメージの職場に就職したことを、誇りにも心配の種にもしている。

だが、大学の単位を取りながら資格習得の勉強をこなしていたあおいは、少々の激務ではへこたれない。タフな仕事ぶりで上司からの信頼も厚かった。

「今日のお昼、どこに行くんだろう。」

社会人としての生活リズムにも慣れ、心と時間にも余裕のできたあおいの最近の楽しみは、会社の近くのグルメを開拓することである。

そして、そうした情報を圧倒的に持っているのは、同じフロアで働く華やかな事務職の女の子達だ。

年齢も近いあおいと彼女達が一緒にランチをとるようになるのに、そう時間はかからなかった。

今日は『神楽坂 くろす』という、元リッツカールトン東京の和食の統括料理長が開いた店を予約してくれたという。

2階の個室を陣取り、ネットで話題になっていた鯛茶漬けや大海老天丼などを注文する。ひとしきり料理の写真を撮ってしまうと、彼女たちの一人が唐突に言った。

「あおいさん、前髪のサイドが、またハネてる(笑)」

たしかに今朝は、起きたての髪をそのまま1つに縛っただけで出てきてしまった。それを機に、女の子たちは口々にあおいの外見について語り出す。

「でも、あおいさんって顔は小さいし、背も高くてスラっとしてる。それによく見ると胸もありますよね。なんかズルい!」

「わかる!もっと綺麗にメイクして、ちゃんとオシャレしたら、絶対雑誌の”読モ”とかになれますよー!」

ー雑誌の読モ…って、読者モデル?この私が…?

ポカンとするあおいに、彼女たちはスマホの画面で“GLORY”という、働く20代女性をターゲットにしたファッション誌のウェブ版を見せてくれた。

「ほらこれ、今新しい読者モデル募集してるんですよ。雑誌の中でも読モの審査基準がかなり厳しいことでも有名なんですけど、あおいさんならイケそう。」

「そ、そうかな?」

容姿を褒められたことなどないあおいだが、何故かその“読者モデル募集”という文字の下でニッコリ笑う、人形のような美しい女達に目がクギ付けになってしまった。

「わぁ、意外と乗り気じゃないですか。じゃあ、今からみんなで応募してみましょうよ!私、一人じゃ恥ずかしいと思ってたんです」

そう言った彼女は、あおいに手持ちの化粧品でメイクを施す。マスカラやリップを塗られ、それぞれの服やバッグを交換し合い、道の真ん中で応募写真を撮った。

「はい、これで応募完了。」

ものの15分程度だっただろうか。

だが、このほんのおふざけ程度の遊びがあおいの人生を変えてしまうことになるなど、この時は知る由もなかったー。

▶NEXT:1月26日 金曜更新予定
果たして、雑誌“GLORY”からの反応は―?