普段のデートや女子会でなかなか選ばれることがない街「四ツ谷」。しかし実は、星付きの店や隠れた名店がひしめく、大人のグルメスポットなのだ!

足を運んでみると、「大人だけが秘密にしているのでは?」と思うほど、名店がひしめいている。

若者の街に飽きたら、四ツ谷で大人酒なんていかがだろうか。



女将が訪れた日本酒の酒蔵からもらった酒粕と味噌で漬けた「鳥もも肉のかす漬け焼」¥850
しみじみとひとり酒の夜は大正時代にタイムスリップ『宵のま』

その店は荒木町の裏路地にある。のれんをくぐると大正アンティークの客席と、雪平鍋など和の道具がつるしてある調理場が見える。

たすき掛けした着物姿の女将がテキパキ働く姿を眺めていると、ひとり料理を待っている間も苦にならない。



ほんのりかつおだし香る「竹の子とフキの煮物」¥800

元女優の女将・高久さんが店を出したきっかけは「自宅で日本酒と料理を振る舞っていたのが楽しくて」。

そう話すとおり、酒に合う和食がずらり。季節の煮物やかま焼きをつつきながら、ぬる燗を傾けたい夜に訪れたい。



「真鯛のづけ茶漬」¥750



男性には厳しいですが、女性にはやさしくしますよ!(高久さん)




幕末からの老舗酒屋が営む角打ち酒場の代表格『鈴傳』

角打ちという言葉をご存じだろうか。九州地方の方言で、要は酒店のカウンターで楽しむ立ち呑みのことだ。都内にも角打ち酒場は多くあるが、なかでも嘉永3年創業という長い歴史を誇る酒店がこちら。立ち呑みを始めてから60年以上が経つという老舗である。

その魅力は何といっても酒店ならではのリーズナブルな価格と、豊富に揃う日本酒。季節によって用意される地酒は十数種類にもなる。肴も多数揃い、もつ煮やニシン煮つけなどの料理が素朴で旨い。




山灯コースの4品は月替わりとなっている。造りや焼物、強肴はプラス料金でほかの料理に変更可能なため、気分によってアレンジができる
舌に贅沢させたい日の普段使いに『旬菜料理 山灯』

『つきぢ田村』出身の店主渡邊さんが「使い勝手のいい和食屋を」と開店。¥2,500の山灯コースがメニューの中心となっているので、〆の雑炊や酒を頼んで4千円台で収めることもできる。



旬がつまった本格コースは、いい素材と昔ながらの和食の技法を用いながら、意外な取り合わせがいただけるのも魅力。舌の肥えた大人の普段使いの店としてにぎわっている。

早い時間帯は予約で埋まっている可能性が高いため、ひとりでふらりと入るなら22時以降がおすすめ。27時まで営業しているので、それでも十分に楽しめる。また深夜限定でかつおだしのラーメンが登場するのも見逃せない。


あのたん焼きの名店も、わざわざ足を運びたい!



左.佐久乃花 純米吟醸無ろ過生酒(長野) 香が華やかで酸が立った味わい。ワイン好きの人にも(一合¥750)。リンゴ系の華やかな吟醸香が広がる 右.洌純米吟醸(山形)辛口ですっきりキレのいい味わい(一合¥850)。個性的で質感のある味わいが左党に人気
居酒屋で唯一の星獲得店『萬屋 おかげさん』

ミシュランガイドに居酒屋で唯一、星を獲得した店がある。四ツ谷にある『萬屋おかげさん』。小ぢんまりと風情ある店内は、“20歳以下おことわり”の大人の聖地であり、予約至難の超人気店だ。



ツウな常連が大絶賛する「おから炊き」。ほのかな甘さがちょうどよく、しっとりとした口当たり

揃える日本酒は50種類前後。いずれも日本酒の伝道師とも呼ばれる神崎康敏さんが全国から選び抜いたものばかりだ。さらには、その蔵の最も得意とする酒のみを仕入れるのだから、いずれを取ってもハズレなくすべてが珠玉の1本。

丁寧に蔵元を回り試飲を重ねているので、蔵からの信頼は絶大。人気の酒であっても必ず手に入る。それどころか「この酒は1年寝かせたらさらによくなる」と、特別に神崎仕様にと1年間保管をしている日本酒もあるほどだ。



おまかせコースの〆は、シンプルで懐かしい塩むすびとお味噌汁

料理はおまかせ。ひと仕事したお造りは酒との相性抜群だ。旨い酒と肴にたっぷり酔いしれたい。




美味しいタンをお腹いっぱい味わいたい日に行くべき『たん焼 忍』

昭和53年(1978)創業の老舗『たん焼 忍』は、絶品タンを求めて集まるグルメな大人たちで連日連夜大盛況だ。

駅から徒歩7分ほど歩き、店先で「いらっしゃい」と出迎えてくれるのは、同店を創業当時から守る女将だ。女将の笑顔にほっこり癒され、店内に入ると立派な欅の柱や鍛冶物、白壁、瓦の床で造られた重厚な佇まいに圧倒される。

通されたテーブルを見れば、栂(ツガ)であったり、カウンターは火に強いジマツだったり。何百人という人がここでタンの美味しさに唸ったのだろうと、『たん焼 忍』の歴史にまで思いを馳せてしまいたくなる佇まいである。



「ゆでたん」(1人前¥1,000)※写真は1人前3枚に1枚プラスしたもの¥1,340

賑わう店内に入って、まず注文すべきは「ゆでたん」、「たんしちゅー」、「たん焼」という同店イチ押しの3品だ。

まずは一番人気の「ゆでたん」。さぁ食べようと箸で掴んだ瞬間に、その柔らかさに驚愕してしまう。この柔らかさを生んでいるのは、やはり煮込みの工程。まず皮のまま7〜8時間じっくりと丁寧に煮込まれ、その後皮をむく。箸で切れるのは言うまでもないが、口に入れると噛む必要を感じないほど、瞬く間にとろけていく。味付けはシンプルに塩胡椒、わさびのみという潔さも素晴らしい。わさびはたっぷりつけて食べるのがおすすめだ。



「たんしちゅー」(¥1,130)※写真は1人前3枚に1枚プラスしたもの¥1,540

続いては「たんしちゅー」。これぞタンシチューだと言わんばかりの、完璧なフォルムで登場。皿に盛られているのに、既にとろけてしまいそうな儚いまでの柔らかさから、すぐさま手を伸ばせば、期待以上の美味しさが口いっぱいに広がっていく。

創業当時から継ぎ足し、継ぎ足しで受け継がれてきた和風デミグラスソースの味わいも、タンの味を決して邪魔することなく、お互いを引き立て合っている。ご飯との相性も抜群なので「ライス」(¥250)をオーダーする人も多いとか。



「たん焼」(¥1,130)

「たん焼」はタン特有の力強い食感を楽しむのに最適の一品。焼き肉屋で味わうタンとは違い、しっかりとしたタンの存在感を一切れ一切れに感じる事ができる。

こちらも味付けはシンプルに塩胡椒のみ。タンの合間にさっぱりとした自家製の白菜のお新香やお酒をはさんで、リズム良く食べていけば完食はあっという間だろう。


開店とほぼ同時に満席となる店内を見渡すと、意外にも若い人が多いことにも気がつく。それは39年という歴史の長さから、子どもの頃に親と来ていた人が大人になって、今度は友人や彼女とともに訪れているからなのだろう。

このようなお客様の無限ループが絶えることがないのも、いつまでも変わらないタンの美味しさがあってこそ。タン好きならば、ぜひ通い詰めて常連の座を獲得したい名店である。