平昌五輪サイトの聖火リレーページより

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開幕まで1か月足らずとなった平昌冬季五輪。開催地の韓国では、聖火リレーが終盤を迎えている。

首都ソウルでは、日本から参加した女優の泉ピン子さんをはじめ、多くの聖火ランナーが走ったが、その中に3年前、世界中を賑わせた「ナッツ姫」の姿があった。大韓航空の元副社長、趙顕娥(チョ・ヒョナ)氏だ。

懲役10か月執行猶予2年の刑が確定

日が暮れたソウル市内。2018年1月13日、高齢の男性が右手にトーチを持って走る。その後ろには数人の伴走者が続いた。ランナーは韓国の巨大財閥のひとつ「韓進グループ」会長の趙亮鎬(チョ・ヤンホ)氏で、近くに寄り添っていた女性が、あの「ナッツ姫」だ。

2014年12月、米ニューヨーク・JFK空港で離陸直前だった大韓航空機で、騒動が起きた。同機には、当時大韓航空の副社長だった趙氏がファーストクラスに乗客として搭乗していた。趙氏は、客室乗務員によるマカダミアナッツの出し方を見て「サービスがなってない」と激怒。すったもんだの末、滑走路に向かっていた同機を搭乗ゲートへ引き返させたのだ。その後、遅れて同機は飛び立ったが、この傍若無人な振る舞いが明るみに出て趙氏は厳しい批判にさらされ、嘲笑を込めて「ナッツ姫」と呼ばれるようになった。

騒動により趙氏は、大韓航空副社長を辞任。さらに機体を搭乗口に引き返させたことが航空保安法違反などの疑いがあるとして韓国内で逮捕、起訴された。17年12月には、韓国の最高裁にあたる韓国大法院で懲役10か月、執行猶予2年の有罪判決が確定した。

騒動から3年、自国開催の五輪の聖火リレーという舞台にひょっこり姿を現した趙氏に、韓国メディアは注目した。大手紙「中央日報」は1月16日、聖火リレーの様子を伝えるとともに趙氏が大韓航空の経営陣に復帰する可能性について、同社関係者の否定コメントを紹介した。またリレーには、趙氏の妹も加わっていたことも報じた。

大韓航空は平昌五輪の「公式パートナー」

平昌五輪の公式サイトには、聖火リレーについて「いつでも、どこでも、だれでも参加できる101日間の輝く旅路」とうたっており、韓国全土を回るルートの地図が掲載されている。また平昌五輪聖火リレーのページを見ると、聖火ランナーの選考基準が分かった。13歳以上であれば、性別や国籍、職業など一切問わず誰でも参加資格があるが、全体の10%は「社会的に恵まれない、あるいは社会に貢献しているグループ」が選ばれる。選考過程については公平中立であると書かれている。

「サポートランナー」という枠組みもある。聖火ランナーの伴走を許可される人たちだ。聖火ランナーを励まし手助けする「アソシエイトランナー」、写真や映像を撮影する「PRランナー」、護衛の役割を務める「セキュリティーランナー」の3種類だ。

趙氏の役割は、このサポートランナーとみられる。そして聖火ランナーを務めた父の亮鎬氏は、平昌五輪の「公式パートナー」、つまりスポンサー企業のひとつである大韓航空の会長だ。さらに2014年から2年間、平昌五輪組織委員長を務めた。途中で辞任したが、平昌五輪とは浅からぬ縁がある。

どのような経緯で亮鎬氏が聖火ランナーに選ばれたかは分からないが、社会的に厳しく指弾された娘に、少しでも晴れがましい思いをさせたいという親心から伴走に参加させたのだろうか。