インドラマユ石炭火力発電所の環境許認可取り消しの判決に歓喜する反対住民ら(インドネシア・バンドン、写真はFoE JAPAN提供)

日本の政府系機関や企業が関与してインドネシアで進められている石炭火力発電所建設計画が、環境や生活の破壊を招くとの理由から、地元住民の強い反対に直面している。

反対住民らは、計画実施の前提条件となっている地元行政機関による環境許認可の取り消しを求める訴訟を提起。行政裁判所が、プロジェクトの環境許認可を無効とする判決を相次いで出した。

地元住民による反対運動に遭遇しているのは、インドネシア西ジャワ州チレボン県およびインドラマユ県での石炭火力発電所拡張計画だ。

チレボン拡張事業は、丸紅などの出資によって建てられた既存の石炭火力発電所(66万キロワット)の隣接地に出力100万キロワットの大型石炭火力発電所を新たに建設しようというもので、事業主体の発電企業CEPR社には、丸紅や、東京電力グループおよび中部電力が設立したJERAがインドネシアの大手企業などとともに資本参加している。また、協調融資する金融機関として、日本の国際協力銀行(JBIC)のほか、三菱東京UFJ銀行、みずほ銀行、三井住友銀行の3メガ銀行および韓国輸出入銀行、蘭ING銀行が名前を連ねている(仏クレディ・アグリコルは撤退)。

法的な問題に直面

一方、インドラマユ拡張計画の主体はインドネシア国有電力会社(PLN)。中国の融資で建設された既存の石炭火力発電所(33万キロワットの発電設備3基)の東隣に、100万キロワットの大型石炭火力発電設備2基を建設しようとするもの。そのうち1基の建設費について、日本の国際協力機構(JICA)が円借款を検討している。

両プロジェクトはいずれも現在、法的な問題に直面している。チレボン拡張事業をめぐっては、地元の西ジャワ州が出した環境許認可が、その前提となる「空間計画」(土地利用計画)に含まれていない地域を建設予定地にしていたことを理由に、地元のバンドン行政裁判所で許認可取り消しの判決が出された。

しかし、電力会社CEPR社は、空間利用計画の改定がないまま西ジャワ州から新たな許認可を取得して事業を続行。JBICは「(新たな環境許認可により)空間計画との間にあった齟齬(そご)が解消された」(JBICの安居院徹報道課長)などと判断して、2017年11月14日、ドイツ・ボンでのCOP23(国連気候変動枠組条約第23回締約国会議)のさなかに初回の融資に踏み切った。

これに対して、反対住民側は12月4日、新たな環境許認可の取り消しを求めて再度提訴し、行政裁判所での争いが続いている。


チレボン石炭火力発電所拡張計画に反対して記者会見する住民と支援者(東京都内:記者撮影)

そうしたさなかの12月5日、チレボン石炭火力をめぐる訴訟にかかわっている弁護士や地元住民らが来日し、記者会見をした。その1人である地元住民で現地NGOメンバーのリキ・ソニア氏は「1号機が5年前に稼働して以降、魚が取れなくなり、発電所周辺での塩作りでも降下煤塵(ばいじん)による被害が深刻になっている。ぜんそくなどの健康被害、売春や犯罪の増加など社会問題も起きている」と発言。「今後、2号機が建設された場合、影響はさらに深刻になる」と、建設の中止を訴えた。

弁護団の一員であるシャウリ・ダルムンテ弁護士は「当初の許認可の違法性が裁判所で確定したにもかかわらず、空間計画の修正を経ないまま、環境許認可を新たに取得して建設を強行しようとしているのはおかしい」と批判した。

時をほぼ同じくして12月6日、インドラマユ拡張計画についても、同じくバンドン行政裁判所が、事業の前提となっている環境許認可を取り消す判決を下した。こちらについては、「本来、西ジャワ州政府によるべきところを、権限のないインドラマユ県知事が出した」ことや、「影響について原告や住民への公表や告知がなかった」ことなどを理由に許認可を無効とした。インドラマユ県や事業主体のPLNは判決を不服だとして控訴した。

反対住民を逮捕、人権問題も

「インドラマユでの反対運動には激しい弾圧が加えられている」と支援者の1人で国際環境NGOのFoEJapanに所属する波多江秀江氏は指摘する。2017年12月17日の深夜1時ごろ、インドネシア国旗を上下逆さに掲げたことが「国旗侮辱罪」に相当するなどとして、反対派の農民3人が地元の警察に逮捕された(当日23時に保釈)。

こうした経緯について波多江氏は「国旗侮辱罪は言いがかりにすぎない。公権力による強硬な行為は、住民に恐怖感を残し、反対運動への参加を躊躇させることにつながりうる。人権擁護の観点からも憂慮すべきことだ」と指摘している。

チレボン拡張計画を巡っても、反対派住民の自宅に「プレマン」(ちんぴら)と称される不逞のやからが押しかけ、反対運動をやめるように圧力をかけているという。

インドネシアでは、石炭火力発電所のみならず、最重要な国家プロジェクトである高速鉄道建設計画でも、立ち退きを強いられている住民による反対運動に見舞われている。

インドネシア政府はこうした動きに危機感を強めるとともに、昨年4月12日、開発を一気に推し進めることを目的として「2017年政令第13号」を制定した。チレボン拡張計画に関する行政訴訟で違法判決が出されるわずか5日前のことだ。

同政令は「国家戦略上、価値のある活動は、既存の空間計画に規定されていない場合であっても推進可」とするものだ。これを踏まえて、チレボン拡張事業を担うCEPRは新たに環境許認可を取得する一方で、JBICなどは同許可が新政令と整合的であると見なして融資に踏み切った。

とはいえ、住民から12月に起こされた行政訴訟で環境許認可が再び取り消された場合、チレボンの拡張計画は暗礁に乗り上げる可能性がある。そうなった場合の影響について、JBICは「仮定の質問には答えられない」とする一方で、前出の波多江氏は「インドネシア国民にツケが回されかねない」と指摘する。

電力供給が一転過剰に

「新たな許認可が取り消された場合、JBICは融資契約に盛り込まれた条項(JBICの「環境社会配慮ガイドライン」順守)に基づき、融資の停止もしくは期限前償還を事業者に求めることができる。インドネシア財務省の保証もあるため、焦げ付くことはないだろう」と波多江氏は見ている。民間銀行による融資の一部についても、政府系の日本貿易保険が保険を付与している。


既存のチレボン石炭火力発電所。丸紅などの出資で建てられた(写真:FoE JAPAN提供)

もともと、日本が関与する石炭火力発電事業は、増大するインドネシアの電力需要に応えることを目的としてきた。日本側にとっては、「インフラ輸出」の目玉事業でもある。

しかし、近年、インドネシアでは電力需要の伸びが鈍化して電力供給の過剰問題が顕在化している。さらに注目を集めるのが、国有電力会社(PLN)の財務内容が急速に悪化していることだ。

2017年9月には、インドネシアの財務相がPLNのデフォルトリスクを懸念し、事業計画の見直しを求める書簡を、PLNを管轄するエネルギー鉱物資源相および国営企業相に送付していたことが判明。インドネシア国内で大きく報じられた。今後、PLNの財務状況がさらに悪化した場合、チレボン、インドラマユの両拡張事業にも影響が及ばないとも限らない。

住民側が新たな訴訟を提起したことについて、チレボン拡張計画を担う発電事業会社に出資する丸紅およびJERAは「行政訴訟の状況を注視していく」と答えている。そのうえで両社とも、「引き続き発電事業会社では、現地住民との対話を重ねながら、奨学金の支給、離乳食の提供、小口融資、職業訓練およびマングローブでの植林など、さまざまなCSRプログラム(生計回復プログラム)を実施していく」などと説明している。

一方、協調融資で名を連ねるみずほ銀行など3メガ銀行は、「個別案件については回答を差し控える」としている。そのうえでみずほ銀は次のように回答した。

「大規模なプロジェクトファイナンスなどを実施する際に、地域社会や自然環境に与える影響に配慮して実施されるプロジェクトであることを確認するための金融機関共通の枠組み『エクエーター(赤道)原則』(以下、EP)を採択している。EP署名金融機関として、EPの対象となるすべてのプロジェクトについて、適切なデューデリジェンスと評価プロセスを実施する旨コミットしており、EPの規定に基づき、定期的にモニタリングを実施している」

環境や人権について詳細な検証を

既存のチレボン石炭火力発電所をめぐっては、これまでにも周辺海域での漁獲量の減少や、降下煤塵による塩田への影響などさまざまな被害が周辺住民から指摘されていた。

これに対して、発電会社に出資する丸紅は、「事業主体の現地企業から委託され、インドネシア・ガジャマダ大学が実施した調査では、いずれも発電所に起因するものではないと報告されている」と反論。また、不逞のやからによる圧力について、丸紅は「そのような事実は把握していない」としている。

インドラマユ拡張事業について、JICAは基本設計、入札補助、施工監理などを対象としたエンジニアリングサービス借款貸付契約をすでに締結しており、これに基づいて融資を実施している。その一方で、建設事業本体への融資については「現時点でインドネシア側から円借款の正式要請は受けていない」としたうえで、「判決内容をきちんと確認していく」としている。JICAでは正式な要請があった場合、「環境社会配慮ガイドラインに適合するかどうかをチェックしていく」(壽樂正浩・東南アジア第1課主任調査役)。

しかし、反対住民側はすでにエンジニアリングサービス業務にJICAが融資をしていることについても問題視しており、今年1月10日にFoE JAPANなどが河野太郎外相およびJICAの北岡伸一理事長宛てに、公的支援停止を求める要請書を送っている。

インドネシアでは、セメント工場建設に関する環境許認可が2016年10月に最高裁判所によって無効とされるなど、大型の開発プロジェクトが頓挫する例も出ている。

環境や人権状況、石炭火力発電所の事業性に関する詳細な検証が必要になっている。