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8年連続赤字、度重なる債務超過、社員のボーナスは何年も出ていなかった。どん底だったメガネスーパーを立て直すべく、外部から招聘されたのが星崎尚彦さん(51歳)だ。三井物産出身、MBA取得後、さまざまな企業の立て直しに成功した「V字回復請負人」である。頭も体も動かさず、現場に責任を押し付ける幹部社員を一喝し、自ら現場に出ていった。前編・後編の2回にわけて、お届けする――。(前編)

■「なんだ、この会社は!」 心の中で叫んだ

私がメガネスーパーにやってきたのは、2013年6月のことだった。業績を回復させるべく、さまざまな取り組みを進めてはいたが、どこか的外れで、真逆の効果を生んでしまっているケースもあった。速やかに解決すべき課題が山積みだった。

私の経験からして、業績が芳しくない会社には共通する悪癖がある。メガネスーパーにもそれがあった。まず、ダラダラと会議ばかりしていて、物事がスムーズに決まらない。場当たりの議論が多く、うまくいかないことの原因捜しに終始する。そして往々にして、「現場」の責任にする。

「現場がこう言っている」「それでは現場が持たない」と、ふたこと目には現場、現場と口にするのだが、そんなものは欺瞞だ。幹部社員も含め、経営課題を自分事として捉えていないから、何でも現場のせいにしてしまう。自分は頭も体も動かさずに、だ。私は、社員に強く訴えた。

「すぐに『現場が』『現場は』なんて言うな。現場とは、誰のことなんだ。『現場』という名前のヤツでもいるのか。いるのなら、今すぐその『現場』をここに連れてこい!」

「現場」という「便利なウソ」がまかり通る甘えを捨てさせ、危機的な経営状態を全社で共有し、社員一人ひとりが責任感と当事者意識を持って職務にあたる――。そんなまっとうな組織に生まれ変わらせることが急務だった。

「なんだ、この会社は!」

会社の内情を知ったとき、心の中で叫ぶしかなかった。かなりタフな状況だったが、反面、大きな可能性も感じた。打つべき手を打ちつくした結果、業績が落ち込んでいるのなら「万策尽きた」と言わざるを得ない。しかし、メガネスーパーにはやれることが十分に残されていた。

■あ、これ、メガネスーパーって読むの?

メガネスーパーは、2011年から投資ファンドのアドバンテッジ・パートナーズ(AP)の支援を受け、経営の立て直しに取り組んでいた。私はメガネスーパーの社長に就任する前、そのAPに招かれ別の会社(クレッジというアパレル企業)の社長を務めていた。クレッジの経営を立て直した後、APから打診されたのがメガネスーパーの経営再建だった。

私の就任以前から、APはさまざまな改革を実行していた。社内インフラを整えたり、POSを導入したり、外部から優れた人材を引き入れたりと。それらは決して悪い打ち手ではないのだが、どこかチグハグだった。また、あらゆる施策が、お客さまの感覚とズレているのでは、と感じていた。たとえば、会社のロゴだ。

社長就任の打診をいただいたころ、私は自分の出身地である東京・吉祥寺に出かけた。メガネスーパー吉祥寺店を密かに観察するためだった。店舗の近くまで行き、人の流れや店の様子を眺めていたのだが、お客さまが店に入らない。来客数が想像よりかなり少ない。そのとき、1人のお客さまに「すみません。ここにあったメガネ屋さん、知りませんか?」とたずねられた。「え、目の前にありますよ」と私が答えると、「あ、これ、メガネスーパーって読むの?」という反応だった。

当時のロゴは、アルファベットが大きく使われ、かっこよくデザインされていた。社名のカタカナは小さく、メガネスーパーと思っていただけなかったようだ。私は社長になってすぐ、カタカナが目に入るロゴに戻した。

■君たちは、真逆のことをやっている

 さまざまなズレを修正するため、私自身も直接店舗運営に関わることにした。当時、メガネスーパーには約300店舗あり、それらすべてを6人のストアディレクターと2人のゼネラルマネージャーで見ていたのだが、彼らから上がってくる現場の声が、真実とは思えなかった。そこで「私に直轄領をください」と申し出た。東京や神奈川にある直営の6店を「天領」(天領とは、江戸幕府の直轄の領地)として、私が直接運営することになった。

店舗にいると、いろいろな問題が見えてきた。たとえば、接客スタイルだ。それまで、メガネスーパーの接客は基本的に「待ち」だった。蜘蛛のようにお客さまが網にかかるのをジッと待つ。来店数が多い時代はそれでよかったかもしれない。しかし、来客数が減った状況で、同じやり方を続けていた。「なぜ、積極的な接客をしないのか」という私の質問に、スタッフはこう答えた。

「お客さまにゆっくり見てもらうため、声をかけないようにしていました」

私は「それは違う。君たちは真逆のことをしている」と指摘した。私は、店頭で呼び込みを始めることにした。それだけのことで、お客さまが店内をのぞいてくれるようになり、入店してくださったお客さまにも果敢にアプローチした。私の話を聞き、購入してくださるお客さまが増えていった。メガネスーパーは、ごく当たり前のことをしていなかった。

店舗では、何かにつけて「そうじゃないだろ」と言うほかなかった。スタッフが私に抵抗しているのはわかっていたが、「それじゃダメだ」「どうしてこんなことになっているんだ」としつこく指摘し続けた。

■君たちのフィルターを通すと真実が見えない

スタッフには私の考えを、より深く理解してほしいと思った。そこで、「天領ミーティング」という現場会議を始めた。開店前や閉店後に私が店舗に出向き、店の問題点の洗い出しや改善への取り組みなどについて、徹底的に議論する場だ。

「社長が直々にやってくるのですか。自分がやりますよ」と店長やストアディレクターは私が現場に介入することを拒んだ。しかし、「いやいや、君たちのフィルターを通すと真実が見えない。だから、私が店に行く。そして店舗スタッフたちと直に話す」と取り合わなかった。

「店舗には店舗の『仕事』があり、スタッフも忙しいので……」などと食い下がるものだから、「ミーティングも『仕事』だよ。仕事だから参加してもらう。忙しいというなら、開店前や閉店後にやろう」と押し切るしかなかった。朝7時半もしくは夜8時半に私が店に出向いて、議論する日々が始まった。

ミーティングでは現状の把握だけなく、「なぜ赤字なのか」「どうすれば赤字を改善できるのか」といったことを詰めていった。それまでずっと、上から「やれ」と言われたことだけをやってきたせいで、スタッフは思考停止に陥っていた。上司に「どうすればいいか、考えてみよう」と言われたことがないから、頭を使うことを放棄している。私に「どうすればいいと思う?」と問われても、何も返せなかった。

■上司を大事にしても、利益は増えないよ

このミーティングを通じて、私は店舗運営のもっとも重要なことをスタッフに伝え始めた。それが、「やるべきことはたった一つだ。お店を黒字にすることしかない。そのためにどうすればいいのか、具体策を考えていこう」ということだった。

しかし、スタッフの反応はもう一つだった。たとえば、「顧客にDMを送ってはどうか」と私がヒントを出したら、「え、お金を使っていいんですか?」などと言う。私は「コストをかけないと、利益なんて出ないよ」と教えた。メガネスーパーには、「お金を使わないヤツが偉い」というくだらない風潮が蔓延していた。「1円も使っていませんから」と自慢をするスタッフまでいた。

お金を使わないで経営再建などできない。もっと言うなら、無駄は徹底的に省いて、そのうえでコストをかけるべきところにしっかりお金を使う。それが「コスト感覚」の本質だ。そういったことも、スタッフに教えていった。

店の前にのぼりを並べたり、店内の意匠を変更したりといったことも、私が音頭を取って実行していった。ある店舗では、入口を入ってすぐのところに格子のようなものが設えてあり、たしかにオシャレには見えるが、店内の様子が外から見えない。もちろん、店内からも外の様子が見づらい。

店舗のスタッフに「これ、邪魔じゃないの?」と聞くと、「ええ、そうなんですよ」と言う。「そうか、それじゃあ今すぐ外してしまおう」と、脚立に乗ってバキバキと外してしまった。「そんなことをして、いいんですか!」とスタッフは目を丸くしたが、「いいよいいよ。だって、このままじゃお客さまから店内の様子が見えない。それでは不安で店に入ってくれないでしょ」と作業を進めた。

見るべきは上司でもなく、コンサルタントでもない。エンドユーザーであるお客さまの気持ちだ。「上司を大事にしても、利益は増えないよ」と、何度スタッフに話したかわからない。

■「スタッフのやる気=売り上げ」の法則

とんでもない社長が出張ってきた、と不審そうにしていたスタッフたちも、店舗改革を進めていくなかで次第に乗り気になり、2カ月も経つころには「あんなことをやってみたい」「こうしてみてはどうか」と自分のアイデアを表明するようになった。

私は、考えることを徹底的に教えていった。スタッフ一人ひとりが自分のアタマで考えて、考えて、考え抜く。それをしつこいくらいに求めた。

スタッフの意識が変わり始めたところで、次の段階に進んだ。ROI(投資利益率)について考えさせるようにさせた。スタッフのアイデアに対して「10万円かかるその案では、10万円以上の利益は出せないよね。それは現実的な施策ではないよ」といった調子だ。いかに利益を出していくかを強く意識させた。

やって然るべきことをやっていなかったから売り上げが下がっていただけで、やるべきことをやれば、売り上げは一定程度まで伸びていく。究極的に言えば、スタッフがやる気になるかどうか、それだけだ。

その後、「天領」を6店舗から22店舗まで増やした。それだけの数になると、私が店舗に出向いて朝晩のミーティングをこなすのが難しくなり、ミーティングを集約することになった。それが現在も続いている「天領ミーティング」だ。天領の店舗から合計200人くらいのスタッフが集まり、朝7時半、もしくは夜9時から、ミーティングを行っている。

■大赤字なんだよ! ボーナスなんてありえない

天領ミーティングでは、「8年間、ボーナスが出ていません」「給料がぜんぜん上がらない。そもそも、安い」という声がスタッフから上がることもあった。私は「そんなの当たり前だ。だって、大赤字なんだよ! むしろ、給与が下がっていないことに喜びを感じてほしいくらいだ。ボーナスなんて、ありえない」という私に、憮然とする者も少なくなかった。ただ、合わせて「黒字になったら、ボーナスを支給する。だから、はやく黒字にしよう」と伝えた。

会社の実情をスタッフにも知ってもらうため、全社P/L(損益計算書)や店舗別損益など、個人の給与額以外の99%の情報をオープンにした。ミーティングはネットで同時中継し、社員であれば誰でも見られるようにもした。質問があれば、その場でLINEなどを使って受け付ける。映像はアーカイブ化し、自分の見たい時間に視聴することも可能だ。

店舗に関するミーティング以外にも、マーケティングやマーチャンダイジング、開発、研修など、さまざまな部門についても一つひとつ、ミーティングを頻繁に行って、あらゆる問題を潰しにかかった。

■業界慣習はどうでもいい。われわれは赤字企業なんだぞ

問題は、私の身は一つしかないことだった。部門ごとに議論していては効率が悪い。「さっき、マーケがこう言っていたんだけど」と、私がメッセンジャーになってしまった。それならば、みんなが一堂に会して、一緒に議論すればいいじゃないかと、部門を横断した形の全体会議を開くことにした。それが現在の「アクション会議」だ。この案にも、社員から反対意見が上がってきた。

「僕ら、月曜日は忙しいんです。火曜日開催にしてください」

月曜日に日曜日までのデータをまとめるから、忙しいと主張する。「いやいや、週初めの月曜朝に会議を開かず、火曜日開催にしたら、対応が1日遅れるだろ」と言い返した。小売業界では「月曜日は忙しい」が常套句で、たしかに火曜日にミーティングを実施している企業が多い。しかし、くだらない慣習にとらわれているような組織は、その時点でダメだ。私はこう言い放った。

「業界慣習なんてどうでもいい。われわれは赤字企業なんだぞ。1分1秒でも早く問題を解決して利益を出し、1日でも早く赤字から脱却しなければならない。危機感を持て」

それを聞いても「月曜朝ではデータの取りまとめが間に合いません」などと返してくるので、頭にきた。「よしわかった。それなら百歩譲って、月曜の昼まで待ってやろう。そのかわり、正午ピッタリに全員集まって、会議を始めるからな」と、それ以上は譲らなかった。

■全国会議は、なんとしても全員参加させる

アクション会議には、首都圏エリアだけでなく、日本各地から関係する社員が参集する。「全国から集めるとお金がかかる」など、ここでもさまざまな反発が出たが、そんなものはやり方一つで、いくらでもコストを抑えることができる。

遅くとも半年前には予定を決め、割安の航空券を確保してしまえばいい。とにかく関係スタッフは全員集まれ、と呼びかけた。なぜなら、情報は全員でシェアすることが何より大切だからだ。全員参加でなければ意味がない。ストリーミング中継も行うが、どうしても来られない社員のためだ。

『レ・ミゼラブル』を鑑賞するとして、DVDを観るのと、大きな劇場でライブ観劇するのとで、心を揺さぶるのはどちらだろうか。生の臨場感、緊張感には、コストをかけるだけの意義がある。

■10時間の会議は最後まで白熱したまま

アクション会議は、ひとたび開会したら最後までノンストップだ。休憩などは一切挟まない。とにかく時間がもったいないので、私がどんどん先に進めてしまう。話し合わなければならないことは、いくらでもある。そのかわり、会議中の飲食は自由。食べたいものを持ち込んで、好きなときに食べればいい。トイレも自由に行ってくれと言っている。トイレ休憩の時間なんて設けても、トイレが混雑して無駄に時間がかかり、会議の再開が遅れるだけだ。ノンストップの会議は、極めて合理的なやり方だ。

参加者には「関係する社員がいてもいなくても、構わずに議論は進める。決めるべきことを決めてしまう。絶対に待たない」と伝えている。このような会議形式についても、当初はかなり反発があった。しかし、緊張感が生まれ、だらけることなく、白熱した議論が展開されるようになった。正午から会議を始め、だいたい21時、22時くらいまでぶっ通しで議論するのだが、最後まで熱気を帯びたままだ。(後編に続く)

(メガネスーパー代表取締役社長 星崎 尚彦 構成=漆原直行 撮影=黒坂明美)