ハワイ・オアフ島の真珠湾(資料写真)


 1月13日土曜日の朝8時過ぎ、ハワイ・オアフ島のホノルル滞在中であった筆者の携帯が緊急警報を鳴らし、緊急警報メッセージが飛び込んできた。

"BALLISTIC MISSILE THREAT INBOUND TO HAWAII. SEEK IMMEDIATE SHELTER. THIS IS NOT A DRILL."(弾道ミサイルがハワイに向かっている。直ちに避難所に待避せよ。これは訓練ではない。)

 1941年12月7日(ハワイ時間)の日本軍による真珠湾攻撃の際に発せられた有名な警報、"AIR RAID ON PEARL HARBOR. THIS IS NO DRILL."(真珠湾が空襲を受けている。これは訓練ではない。)とオーバーラップする警報だ。

弾道ミサイル発射を知らせる緊急警報メッセージの画面


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30分以上発せられなかった「誤報」の知らせ

 ハワイに対して弾道ミサイルが発射されたとなると、当然のことながら北朝鮮が発射したと考えるべきである。着弾予想時間はあと20分前後というところである。

 おそらく北朝鮮軍がハワイにミサイルを撃つ場合、北朝鮮に睨みを効かせているアメリカ太平洋軍の指揮命令系統を混乱に陥れるために、オアフ島の真珠湾にあるアメリカ太平洋艦隊司令部を目標に設定するであろう。なぜならば、太平洋艦隊司令部を中心として3〜4キロメートル以内にアメリカ太平洋軍司令部、アメリカ太平洋海兵隊司令部、アメリカ太平洋空軍司令部が位置しているため、アメリカによる北朝鮮攻撃の先鋒部隊の上級指揮統制系統を灰燼に帰すことができるからだ(下の地図)。

北朝鮮の弾道ミサイルが狙うハワイ・オアフ島の攻撃目標


(* 配信先のサイトでこの記事をお読みの方はこちらで本記事の図表をご覧いただけます。http://jbpress.ismedia.jp/articles/-/52113)

 筆者が滞在していたのは、太平洋艦隊司令部からは20キロメートル以上離れたホノルルの東端であったため、いくら命中精度が低いと言われている北朝鮮の弾道ミサイルといえども、おそらくは直撃は受けないものと思われた。しかし、核弾頭が搭載してあるに違いないため、最低でも丸2日は建物から出るのは危険である。幸い数日分の水のストックはあった。

 このようなことを考えつつ、米軍関係のネットワークで弾道ミサイル情報の着信を確認してみたが、何の情報も見当たらない。たとえば、沖縄でヘリコプターが不時着したような情報でさえ比較的タイムリーに情報が寄せられるのに、北朝鮮が弾道ミサイルを発射した情報は全く現われない。

 ハワイ州の弾道ミサイル攻撃警報が発せられてから10分以上経過しても、軍関係情報網では弾道ミサイルに関する情報は全く流されていない。筆者は、弾道ミサイル警報は99%誤報であると確信した。

 しかし、ハワイ州警報システムはいまだに誤報であったという続報を発していない。着弾予定時間になっても、弾道ミサイル警報から30分以上経っても、誤報の通知はなされない。

 "THIS IS NOT A DRILL" の警報が発せられてから38分経った8時45分、ようやく「ハワイ州に対するミサイルの脅威あるいは危険はない。繰り返す。誤報であった。」という緊急メッセージが着信した。

誤報だったことを知らせるメッセージ


ホノルル市民を襲った恐怖の38分間

 幸いにも筆者は米軍関係者たちとのネットワークに繋がっていたため、ハワイ州政府が発した弾道ミサイル攻撃に関する緊急警報は誤報であったことを比較的早期に確認することができた。しかし、ホノルル市民やワイキキなどに滞在していた観光客の多くは、「恐怖の38分間」を経験することになったという。

 毎週土曜日に大規模なファーマーズマーケットが開かれるカピオラニ・コミュニティーカレッジでは、誤報が発せられた朝も、大勢の出展者や買い物客それに観光客などでごった返していた。弾道ミサイル警報が発せられると、マーケット参集者たちはコミュニティカレッジの建造物の中に緊急避難をしたという。また、ワイキキのホテルの中には、地下エリアへ客を待避させたところも少なくないようである。そして、30分以上も誤報であるとの情報がもたらされなかったのだ。

 今回の誤報騒ぎは、ハワイ州当局の担当者が「弾道ミサイル警報」のボタンを誤って押してしまった、という呆れるほど単純な人的ミスであった。直ちにハワイ州政府は、担当者を2名として、それぞれの警報ボタンが押されない限り「弾道ミサイル警報」は発せられないシステムに変更する措置を施した。

弾道ミサイル防備態勢を施してこなかったハワイ

 ハワイのオアフ島には、アジア太平洋地域を担当エリアとするアメリカ太平洋軍関係諸機関の中枢が集中しているにもかかわらず、弾道ミサイル防衛態勢は脆弱である。

 オアフ島の隣のカウアイ島には、先日、小野寺防衛大臣が訪問した弾道ミサイル防衛システムの試験場が設置されている。だが、オアフ島を防衛するための実戦態勢を固めたイージス・アショアも、イージス巡洋艦も、イージス駆逐艦も、THAADも、PAC-3も配備されているわけではない。

 これまでは、ハワイに対して弾道ミサイル攻撃を実施する能力を有していた国はロシアと中国だけであった。それらの国々とアメリカの間には、互いに核弾道ミサイルを突きつけ合って抑止する「相互確証破壊」のメカニズムが働いている。そのため、ハワイを超高額な弾道ミサイル防衛システムで防護する必要性はなかったのであろう。

 しかし、今や北朝鮮がハワイだけでなくアメリカ本土までをも攻撃する能力を持ち、アメリカと北朝鮮の間には「相互確証破壊」のメカニズムが存在しない。となると、アメリカ自身も超高額兵器である各種弾道ミサイル防衛システムで防備を固めるか、北朝鮮の対米核攻撃能力を叩き潰してしまうのか、の選択を迫られることになるのである。

筆者:北村 淳