ナイトタイムエコノミーが推進されれば、終夜運転は待ったなしだ(写真:hide0714 / PIXTA)

自民党の時間市場創出推進(ナイトタイムエコノミー)議員連盟が、娯楽施設等の夜間営業の拡充、公共交通機関の運行時間の延長等を通じて、消費拡大を図ろうという中間提言を昨年暮れにまとめた。

鉄道とバスの終夜運転の検討も盛り込まれ、その課題を調査するとされている。すでに24時間営業の公共交通機関を持つロンドンやニューヨークなどの他都市を参考に、騒音対策や人員確保、保守点検などの課題を調査する必要があると強調された。

終夜運転を実現する方策は?

東京圏の鉄道は世界一のネットワークと利便性、利用者数を持つ。路線は複線延長で2500km、利用者は1日4000万人である。ナイトタイムエコノミーの成功には、深夜の鉄道サービスをどれだけ向上できるかがカギを握ることは言うまでもない。

深夜の鉄道サービスとして多くの人がまず思い浮かべるのは終夜運転だろう。まず、深夜走行時の騒音問題が課題となるが、地下鉄(JRや民鉄の地下区間を含む)では問題ない。地平や高架の区間も、今でも午前1時過ぎ、あるいは午前5時前から運行している区間も少なくなく、それほど問題にならないのではないだろうか。むろんロングレール化やキメ細かいレール削正といった騒音軽減策は欠かせないが。

終夜運転における最大の課題は保守間合(線路を保守するための時間)の確保だ。レールや架線は、数年から条件によっては数十年の寿命を持つが、鉄道の総延長は長く、2年前や20年前のものが混在している。一晩ですべてを一気に交換(張り替え)するのは現実的ではないので、レールや架線は絶えずどこかで交換されている。ほかにも作業や検査が多数あり、鉄道の安全運行に日々の保守間合は欠かせない。

終夜運転で有名なニューヨークの地下鉄は、両方向2線ずつの複々線で建設され、深夜はその内の2線で運行、残り2線は保守作業としている。そのため、保守作業を行いながら終夜運転することが可能だ。

東京圏でもやり方次第では可能だ。JR東日本では東海道・中央・東北・常磐・総武の各線が、それぞれ小田原・三鷹・大宮・取手・千葉まで複々線化以上となっている。たとえば、中央線の御茶ノ水-三鷹間は2線を保守作業、2線を終夜運転させることができる。また、山手線の内回りと外回りは運転系統としては独立であり、1日おきにどちらかを終夜運転できる。

ただし、列車運行する隣接線で、重機の使用も含む保守作業を行うことになるので、充分な安全策が欠かせない。

線路改良で終夜運転をもっとスムーズに実行する

日本の鉄道の複線以上の線路は一方向にしか走行できない路線がほとんどだ。しかし、どちら向きにも走行できるように信号システムを改良し、数駅おきに上下線を行き来できる渡り線を入れ、運行本数の少ない深夜は単線運転とすれば、ほぼ毎日終夜運転できるようになる。

ここで「ほぼ」と書いたのは、渡り線を保守する日を確保しなければいけないからで、それは終夜運転ニーズの少ない日曜や祝日の晩に設定すればよい。

多額のコストはかかるが、複線にさらに1本増やして「3線運行」とすれば、より大きな効果を生み出せる。1線だけ増やして3線とし、朝ラッシュは上り2線、下り1線、夕ラッシュは逆に下り2線、上り1線とすれば、複々線とほぼ同じ輸送力を実現できる。道路のリバーシブルレーンと同様だ。昼間は3線使う必要はなく、1線を保守作業に当て、それを日によってローテーションすることで、夜間の保守間合が不要となり、終夜運転をスムーズに実行できる。保守部門の夢である、昼間の保守作業も実現できる。

2016年4月に交通政策審議会から国土交通省に答申された『東京圏における今後の都市鉄道のあり方について』に、以下の複々線化の構想が掲載されている。

 京葉線 新木場―市川塩浜付近
 中央線 三鷹―立川
 京王線 笹塚―調布
 小田急小田原線 登戸―新百合ヶ丘
 東急田園都市線 溝の口―鷺沼

3線化のコストは複々線化よりはるかに低い。複々線化を3線化に改めることで、事業費を縮減でき、開業時期を早められ、終夜運転に対応でき、保守作業を昼間にできるようになる。

ナイトタイムエコノミーを成功させるために、終夜運転より先にすべきことがある。22時以降、特に23時台、0時台の満員電車ゼロである。

品川駅を例に説明しよう。


どの路線も23時台、0時台の運行本数が極端に少ない。そして、金曜や忘年会シーズンの晩は、積み残しが出るほどの満員電車となる。本数が少ない分、待ち時間も長い。混雑や途中駅での他路線からの接続待ちで、遅れることも多い。

深夜帰宅の多い人は、そういったことをよく知っており、できれば早めに帰宅したいと考えている。それでも帰宅の遅くなった人を運びきれないほど、金曜の夜は輸送力が不足している。

土曜の晩にも満員電車が出現する。土休日ダイヤで平日よりも運行本数が少ないにもかかわらず、利用者数はそこそこ多いからだ。筆者が、昨年12月16日土曜日の23時30分前後にスマホのJR東日本アプリで、新宿付近を走行する山手線5列車の混雑具合を表示させ、画面キャプチャーしたものを示そう。多くの車両が朝ラッシュ並みに混雑していることがお分かりいただけるだろうか。


昨年12月16日土曜日23時30分頃の山手線の状況。朝ラッシュ並みに混んでいるのがわかる(筆者撮影)

車掌は「運転間隔が乱れたために混雑し、……」と放送していたが、輸送力不足のために列車が混んでいたのだ。

深夜の満員電車ゼロ実現のために必要な輸送力を確保するために地上設備の改修や車両の増備は不要だ。運転士・車掌の人件費と電気代を掛けるだけで実現できる。駅の仕事は、混雑がなくなる分、むしろ減る。

こんな状況は東京圏の多くの路線に共通だ。深夜の時間帯でも快適に電車で移動できるようにすることも、ナイトタイムエコノミーの成功には不可欠である。