世界広しといえど、爆笑を誘うお笑いは日本だけにしかない(写真:kou/PIXTA)

どうも〜、オーストラリア人のお笑い芸人、チャド・マレーンです。謹賀新年でんねん。「戌(いぬ)年」ってことで、皆さんにとっても尻尾ブンブンな一年でありますように!

いきなりですが、僕は『世にも奇妙なニッポンのお笑い』という書籍を出しました。昨年、脳科学者の茂木健一郎さんが「日本のテレビやお笑いはオワコン」発言をして物議をかもしたことがありましたが、青春を「日本のお笑い」に捧げてきた者として、「全くもってオワコンじゃないねんで!」という思いをぶつけました。

コテコテの「ラリアっ子」なのに

僕は、インド洋で産湯をつかい、アメリカとイギリスのメディア文化の影響を大いに受けた、コテコテの「ラリアっ子」です。なのに、日本のお笑いは世界で一番面白いと思っています。

15歳の時、ひょんなことで日本のお笑いに出会ってしまい、海外のコメディアンよりも日本の芸人の方がずっとオモロイと思い、「日本で売れたら世界制覇できる!」という信念のもと18歳で単身来日しました。もう20年ほど経ちましたわ。

来日して、吉本興業が運営するお笑いの学校NSC(NEW STAR CREATION/吉本総合芸能学院)に初の外国人として入学し、ぼんちおさむに弟子入りしました。日本独特の上下関係の中で揉まれながら、日本のいいところも悪いところも、どちらとも言えないところも、いっぱい見てきました。

本業の漫才を軸に、舞台やTV番組に出たり、雑誌や新聞に連載したり、本も出したり。また、英語翻訳の仕事もしています。板尾創路さんが構成を務めた『魁!! クロマティ高校 THE★MOVIE』(2005年公開)で英語字幕のチェックを頼まれたのをきっかけに、日本のコメディ映画、芸人のネタ、そのほかさまざまなお笑いコンテンツの英訳をしています。

そうした仕事を通じて、僕は日本のお笑いを海外に輸出することについてつねづね考えてきました。コンテンツとして考えた場合、日本のお笑いは世界制覇するほどのポテンシャルがたっぷりあると思ってます――僕自身のことはさておきながら。

僕が「日本のお笑いは世界一、面白い」と言うと、「どこが?」と驚く人も多い。詳しくは著書に詳しく書いてあるのですが、今回あらためて簡単にまとめると、オワコンになりようがないと思うポイントは3点あります。

1つは、日本には圧倒的な数の芸人がいること。「数で勝負かい!」とツッコミが入るかもしれませんが、ブラジルはサッカーが強いのと同じ理屈で、お笑いに人生を賭ける人数が多いほど必然的にレベルが高くなるということはうなずけるかと思います。お笑い専門の劇場もあちこちにあり、お笑い番組も多く、海外と比べてものすごくハードな競争が繰り広げられているのです。

日本のお笑いは「チームプレイ」

2点目のポイントは、日本の社会の仕組みにも少し関係しています。それは日本独自の上下関係と、みんなで場を盛り上げる「チームプレイ」です。

後輩を育てる文化が根付いている日本では、先輩が年がら年中、若手にアドバイスをします。反面教師にするかは後輩の自由ですけど、そんな環境の中で育つ日本の芸人と、個人プレイが主流の海外のコメディアンとでは、磨き上げ具合が全然違うんです。オーストラリアという、上下関係とは無縁の国に生まれ育った僕でさえ、上下関係は合理的だと思います。

お互いが対等に主張したら話がまとまりにくくなりますが、上下関係があると話がスムーズな場面も多い。また、先輩には気を遣うといっても、後輩だってオモロイと思われたいし、自分の芸においては我慢しません。ただ、ガチのケンカを見せても面白くならないから、どっちがより多くの人を笑わせられるか、というところでバトルします。

よく、日本人は空気を読むと言われますが、空気を読めるからこそ、巧みに笑いを取れることもあるのです。それと関連して、日本では、トークやコント、歌などを組み合わせたバラエティ番組が多く、多様な出演者が並ぶ中でうまく立ち回ったり、誰かをフォローしたり盛り上げなくてはなりません。いわば「チームプレイ」の力。そんな緊張感の中では「オワコン」になるまでもなく、進化し続けないと生き残れません。

3点目は、日本のお笑いが海外のお笑いよりも上だと思う、決定的な点でもあります。僕が思う海外のお笑いの4大テーマは「政治」「宗教」「人種」、そして「下ネタ」と言っていいでしょう。対して日本のお笑いは、それらを避ける傾向にあることです。それを海外の人にいうと、みんなが驚きます。「一体なにで笑いを取るねん?」と。

先に述べた「日本のお笑いはオワコン」騒動でも、日本のお笑いには政治や社会風刺が足りない、ということが言われました。では、なぜ海外ではその4大テーマに需要があるかというと、手っ取り早くウケるからです。

それらはお客さんが日常的に直面する問題だったり、感情的になれる話題だったりするので、コメディアンがネタにしやすいのです。お客さんは日頃のモヤモヤを代弁してもらってスッキリするし、「それ、分かるわぁ」と笑うことで傷を癒してもらうこともある。

日本人はもっと日本のお笑いを誇るべきだ


一方、日本のお笑いは、そもそも祝福芸です。「笑う門には福来る」精神があるので、小難しい話や誰かを揶揄することとは、根本的に相いれないのです。となると、4大テーマ以外で笑いを取る日本の芸人は、もっと斬新な発想が必要となります。お決まりじゃない題材で人を笑わせることに徹しているのが、日本のお笑いの真骨頂です。

また、日本のお笑いが爆笑を誘うのには、日本独特の「ツッコミ」が果たす役割も大きいと思います。海外のコメディアンたちは、サラッと面白いことを言ったり、粋な感じでひねくれたことを言ったりしますので、クスッと笑うことはできても、爆笑はできません。

ツッコミは「観客の代弁者」であり「常識人」なので、観客の常識が一致しているという前提が必要です。欧米では人種も価値観も日本より多様なので、ツッコミ不在で観客一人ひとりが心の中でツッコミを入れるような笑いが多くなるわけです。

海外のお笑いでは、人が面白いポイントでリアクションをしたり、ボケを正したり、たとえば眉毛の動きひとつでツッコむことはあるけども、的を射た一言でガッツンと大爆笑をさらうことはありません。その点で、日本のお笑いは優れていると思いますし、そんなツッコミが入るからこそ、ボケがより面白く発展していくのだと思います。

とにかく、圧倒的な数を誇る芸人人口と、多種多様なテイストのお笑いの上に成り立つ一大文化を、日本の皆さんはもっと誇るべきですし、これからの進化にも期待を持っていただいていいと思います。

みんなで、いっぱい笑おう。