ふるさと納税で日本を元気にすることが地方創生の1つでもあります(写真:CORA / PIXTA)

ふるさと納税の返礼品と言えば、食品を思い浮かべる人が多いと思います。

しかし、地方の特産品は食品だけではありません。その地方でしか製造できない洋服を作っている工場も、全国のいたるところにあります。にもかかわらず、ファッションの出品商品割合はほんのわずかです。ファッション関連の商品が返礼品になっていることを知らない人もいるかもしれません。

総務省の統計によると、2016年(1〜12月)の寄附金額は2540.4億円で、利用者数は225万人。前年の寄附金額が1471億円、利用者数が129万人だったことを考えると、この1年で市場規模が大幅に拡大しています。

アパレル工場が下請け構造から脱却する上で、ふるさと納税は大きなチャンス。商品ありきの支出ではなく、ふるさと納税に充てられる上限値を踏まえた上で「今年はどこで何に使おうか」を考えていくという支出ありきの市場なので、毎年安定した規模が見込めます。自治体にもよりますが、20〜30分程度で商品を登録できるケースもあるように、参入障壁も高くありません。

寄附金2億円を達成した岩手県のアパレル工場

ふるさと納税の目的は、都市部に一極集中する税金を分散させ、地方創生を図ること。納税者にとっては、寄附金から2000円を引いた金額が所得税・個人住民税から還付・控除され、寄附した先の自治体から御礼の品物が送られるというメリットがあります。

ふるさと納税は「納税」とはいうものの、税法上は都道府県や市区町村への寄附といえます。生まれ故郷だけでなく、自由に自治体を選ぶことができ、地域振興を目的に2008年度から始まりました。2015年度には控除額の上限が引き上げられたほか、給与所得で一定の条件を満たせば、確定申告が不要となる制度が導入され、利用者の拡大を後押ししました。

約4年前、アパレル工場の中でいち早くふるさと納税に参入したのが、岩手県北上市でカシミヤ100%の商品を作っている『UTO』。開始2カ月で寄附金は1000万円を超え、直近の1年では寄附金2億円(=売上6000万円)を達成しました。


UTOのニットセーターの仕上げ工程。すべてのカシミヤニットが北上市でつくられる(写真:UTO)

『UTO』の商品は誰もが知るような世界の有名ブランドから支持されているように高い品質を誇りますが、これだけの寄附金が集まっている背景として、商品や地域の魅力をサイト上でしっかりと伝えていることが挙げられます。

ふるさと納税のサイトに情報をなんとなく載せているだけでは、人々の心を動かすことはできません。寄附する側にとっては税金が控除されるという実利的なメリットもありますが、それと同時に、自分が好感を持てる地方を応援したい、そしてそこにある企業を応援したいという思いも持っています。

『UTO』は、工場の理念や商品へのこだわり、作り手の顔写真などをふるさと納税のサイト上に掲載しており、リンク先の自社ホームページでは北上市の魅力にも言及。なぜ『UTO』の商品を選んでほしいのか、なぜ北上市に寄附してほしいのかという“ストーリー”を細やかに伝えています。


UTOの宇土寿和社長(中央左)と遠藤政治工場長(中央右)。ニットの風合いは命だ(写真:UTO)

官民が一体となって戦略を立案

ふるさと納税で支持を集めるためには、ビジネス的な戦略も必要です。『UTO』では、35万円という高額商品をあえてラインナップに加えることで、価値の高い商品を作っていることをアピール。去年商品を選んでくれた人に今年も引き続き選んでもらうために、新商品の開発にも力を入れています。

これらの取り組みは自社だけで考案しているわけではありません。北上市役所の担当者とアイデアを交わしていることも、『UTO』が成功を収めている要因の1つです。 「北上市をともに盛り上げていこう」という同じ目的のもと、官民が一体となって商品プランや情報発信などの戦略を一緒に考える。毎日連絡を取り合うほどの密な関係性を築いていることが、リピート率25%という数字に結実しています。

今後自治体がふるさと納税に注力していく中で、アパレル工場は各地域のキーとなり得る可能性を秘めています。たとえば山梨県は、ぶどう・桃・さくらんぼ・苺・ブルーベリーなどの果物を収穫できますが、果物には旬の時期があり、畜産物のように一年を通して商品を供給することができません。

山梨・南アルプス市に工場をかまえ、1年前からふるさと納税をスタートさせた『小林メリヤス』は、自治体にとっても貴重な存在。なぜなら『小林メリヤス』のベビー服は南アルプス産のオーガニックコットンを使用しているため、南アルプス市の特色を打ち出せる商品を通年で供給できるからです。

市役所と一体になって戦略を練っているという点では、『UTO』と同じ。ものづくりに理解を持っている担当者とタッグを組み、日々知恵を絞っています 。

ふるさと納税はギフトとしても利用されており、「小さな子どもがいる家庭にプレゼントを贈りたい」という人たちも少なくありません。『小林メリヤス』では、アイテムのカラーバリエーションや種類を増やすことで、選べる楽しさを提供しつつ、複数申し込みたい人たちのニーズに応えています。スタイ(よだれかけ)は汚れやすいため、商品を贈られる側にとっても複数もらえるのは嬉しいもの。こういった双方の心理を読み取りながら、商品構成やラインナップを考えています。

語れるものがあるというアドバンテージ

これまではBtoBでの製造しか手がけてこなかった工場にとって、ふるさと納税はBtoCをスタートさせるこれ以上ない機会です。希望小売価格で販売できるため、利益を生み出せるのはもちろん、エンドユーザーを対象としたビジネスセンスを磨くことにもつながます。

ふるさと納税で成功すれば、そこからの流れで自社ECサイトが生まれたり、セレクトショップとの取引が始まったりすることも考えられる。つまり、新規事業が立ち上がる第一歩にもなり得るのです。

メイドインジャパンの高い品質、そして、その地方にあるその工場だからこそ語れるストーリーがあれば、「地方移住は難しいけど、地方を応援したい気持ちはある」という潜在的な欲求を抱えている人たちに響くはず。最終的に人の心を動かすのはストーリーです。

『小林メリヤス』の商品がギフトとして人気を集めているのも、贈り手が「この商品には南アルプスの雄大な自然で栽培されたオーガニックコットンが使われているんだ」といった語りを添えられるからでしょう。

各自治体の「返礼品の送付競争」は年々激化していますが、前述した『UTO』や『小林メリヤス』のように、ふるさと納税をビジネスチャンスとして捉えている事業者がいることもまた事実です。ふるさと納税は、 長きにわたって地方で積み重ねてきた伝統が強みとなるビジネス領域。語れるものがあるというアドバンテージを、今こそ活かすべきです。