「Thinkstock」より

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 着物の販売やレンタルを行っていたチェーン店「はれのひ」が、成人の日当日の1月8日に突如営業を停止し、同店を利用していた新成人たちに振袖が届かないという異例の事態が発生した。

 はれのひによる被害総額は2億円を超えるといわれ、警察への相談も740件に上る。被害者のなかには、2年前から予約を入れていたり、総額で100万円以上も支払ったという人もいたという。

 計画倒産が疑われるはれのひへの糾弾の声がやまないのは当然ともいえるが、そもそも、なぜ2年も前から予約する必要があるのだろうか。また、100万円を超える高額な支払いが必要なのかも疑問だ。そこで着付け業者に話を聞いた。

●人気振袖の争奪戦、競合他社を出し抜くための早割

 まず取材に応じてくれたのは、関東を中心に全国にチェーン展開する振袖専門店Aの従業員だ。

「レンタル・購入問わずに、新作の発表が不定期な着物ブランドが多いため、お客様にお見せできる振袖は来店のタイミングによって異なり、1店舗が確保できる枚数にも限りがあります。そのため、お気に入りの振袖は見つけ次第、すぐに予約しておかないと、次の来店時まで残っている保証がなく、早めのご契約をおすすめしております。

 振袖に強いこだわりはなく、お店にある振袖のなかからレンタルするというのであれば、そこまで時間も費用も要しません。しかし、新成人のご家族が『上質な振袖と小物を身に着けて晴れの日を迎えてほしい』とお考えの場合は、かなり早めの時期から足を運んでいただいております。たとえカタログで目星を付けていても、すでに先約があり注文できないということもザラにありますので、2年ほど前から何度もお店に足を運ぶお客様も少なくありません」(振袖専門店A・従業員)

 一口に成人式といっても、かける時間もかける金額もピンからキリまであり、今回のはれのひ騒動で大きな被害を受けたのは、比較的こだわりが強い新成人とその家族だったのかもしれない。

 さらに、成人式前にプロのカメラマンに晴れ姿を撮ってもらう「前撮り」の時期や、振袖を着る際に必要な小物集めなどの側面から考えても、2年前の予約は妥当だと続ける。

「昨今では、成人式の10カ月前あたりから前撮りをする傾向にあります。夏を越して日焼けした肌では振袖が似合わなくなってしまったり、進学などの理由から県外に住んでいるお客様が前撮りを通して振袖の最終チェックをしたりするので、早くに行う方が増えているからです。そのため、振袖選びの過程から含めて考えていくと、2年前の予約もおかしいことではありません。

 また、レンタル商品では、バッグや草履、髪飾りが含まれているセットメニューもあるのですが、お客様の好みにそぐわない場合もありますから、小物類を自分で買う方もいらっしゃいます。そうした買い物を前撮りに間に合わせようとすると、自ずと前倒しで準備をする必要が出てくるのです」(同)

 ほかにも、成人式当日のヘアメイクや着付けの予約時間も2年前という早期契約に関係していると話すのは、東京都を中心に全国展開し、自社ブランドの着物を販売・レンタルするチェーン店Bの従業員。

「成人式当日は、式が開始される時刻から逆算して着付けやヘアメイクの予約を取りたい方がほとんどです。たとえば、午前11時に成人式が開始される場合、着付け会場からの移動を含めて、朝の7時から8時に予約を入れておくのがベストとされています。そして、そういった人気の時間帯の予約は真っ先に埋まっていくので、“ちょうどいい時間帯”でのヘアメイクを確実に押さえておくためには、2年ぐらい前に予約しておく必要があるというわけです」(着物専門店B・従業員)

 Bでは、早期予約を入れると代金が20%引きとなる「早割」もあるという。競合他社に顧客が流れないように早めに囲い込もうと、このような割引サービスを行う業者も出てきているため、予約時期の早期化に一層拍車がかかっているのかもしれない。

●本人よりも家族のこだわりが強い場合に高額になる傾向

 また、はれのひ被害者のなかには、総額で100万円以上もの高額な支払いを済ませていた例もあった。そんな大金が動くわけを、Bの従業員は次のように推察する。

「当然、振袖自体の価格は質によって大きく変わります。シルクにポリエステルやナイロンといった化学繊維が混ざっている安価な振袖もあり、ブランドや生地の質よりも流行や好みの柄・色に重きを置いている方々は、そういったリーズナブルな振袖を選ぶ傾向があります。また、そもそも振袖の質にこだわらないお客様は、購入ではなく写真撮影代なども含めて20〜30万円が相場のレンタル一式で済ませる方も多いです。

 ただ、一生に一度の晴れの舞台ということで、新成人本人よりもご家族が振袖のランクを気にするケースもよく見かけます。特に祖父母の方々から、『日本製のシルクが使われているのか?』といった質問をされることもあります。お金を支払うのは、新成人本人ではなくご両親や祖父母であることが大半ですから、こうしたこだわりのあるご家族の場合は、レンタルではなく購入される傾向があります。

 そして有名なブランドや質のいい振袖を購入するとなれば、新成人のサイズに合わせて振袖を形成する“仕立て”は専門の職人が手作業で行うため、振袖代とは別に十数万円かかる場合もあります。このような事情から、総額100万円以上になることも珍しくないのです」(着物専門店B・従業員)

 手描き友禅や日本製シルクを使用した振袖は高価な値が付くとされているが、生地に柄をプリントできる技術も進歩していることから、着物に詳しくない人が見た目だけで価値を見極めるのは困難だという。そのため、そのような安価な振袖を、高額で売りつけられるケースも起きている。

 はれのひが取り扱っていた振袖がどういった品質だったかは不明だが、和装に触れる機会が少なくなり、目利きができない人が増えているため、そういった詐欺まがいの販売が横行しているのだろう。

 いずれにしても、かわいい我が子や孫を祝ってあげたいという新成人の家族たちの思いが、皮肉にも被害を大きくしてしまった可能性もある。
(文=A4studio)