「Thinkstock」より

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 安倍晋三首相と頻繁に会っている財界人は誰か。やや資料は古いが、2017年9月4日付「ダイヤモンドオンライン」記事『安倍首相「親密度」ランキング(財界篇)』によると、トップは葛西敬之・JR東海名誉会長だった。12年12月26日〜17年8月3日までの毎日新聞の「首相日日」を基に集計した。

 JRの“天皇”こと葛西敬之名誉会長の面会回数は41回と断トツ。2位が榊原定征・日本経済団体連合会会長(東レ相談役)の23回。3位が御手洗冨士夫・経団連名誉会長(キヤノン会長兼CEO)の19回。4位は古森重隆・富士フイルムホールディングス会長と今井敬・経団連名誉会長の18回。

 葛西氏と古森氏は、たびたび東京・南麻布の料亭で安倍首相と親交を深めている。2人は安倍首相の“経済指南役”として知られている。

 17年11月16日付「首相動静」(朝日新聞)によると、「7時1分、東京・銀座の日本料理店『新ばし金田中』。葛西敬之JR東海名誉会長、古森重隆富士フイルムホールディングス会長、中西宏明日立製作所会長らと会食」とある。18年6月に任期満了を迎える榊原会長の後任に、「副会長の中西宏明・日立製作所会長が固まった」と毎日新聞が報じた日である。

 安倍首相を若手議員のときから支え、個人的な結びつきが強い葛西・古森両氏は、ほとんどが会食。対して、榊原氏や御手洗氏ら経団連グループはゴルフ場のことが多い。「御手洗氏は、安倍首相が経済人とゴルフをするときにメンバーを人選する窓口」(経団連元副会長)との声がある。

 経済同友会もゴルフ派だ。17年12月10日付「首相動静」によると、神奈川県茅ヶ崎市のゴルフ場「スリーハンドレッドクラブ」で、小林喜光・経済同友会代表幹事(三菱ケミカルホールディングス会長)、金丸恭文・経済同友会副代表幹事(フューチャー会長兼社長 グループCEO)、新浪剛史・前経済同友会副代表幹事(サントリーホールディングス社長)と安倍首相はゴルフをした。

 安倍政権の一強体制になり、自民党も官僚も財界も「もの言えば唇寒し」となった。榊原氏も「安倍さんのポチ」と揶揄される有様だ。

●安倍首相の目玉政策に対する経済3団体の対応に温度差

 政府は17年12月8日、待機児童対策や幼児教育の無償化などを盛り込んだ2兆円規模の政策パッケージを閣議決定した。総額2兆円の財源のうち3000億円の負担を安倍首相が経済界に要請したが、経済3団体の対応が分かれた。

 経団連の榊原会長は、「少子高齢化の壁や潜在成長力の停滞といった構造問題の解決に向けた内容だ」と高く評価した。榊原氏は経団連会長になってから、安倍首相の政策に「ノー」と言ったことは一度もないとされていることから、読み筋通りの反応といえる。

 これに対して日本商工会議所の三村明夫会頭は、「子育て支援は国の最重要政策で、本来は税による恒久財源で賄うべきものだ。中小・小規模企業の負担が過重にならないように配慮を望む」と、容認しない立場を貫いた。

 三村会頭は12月21日、茂木敏充・経済再生担当相と会談し、経済界の負担が増加することに関連して、「大企業に比べて中小企業の拠出金の負担が大きい」ことを訴えた。さらに、中小企業が活用しやすいような子育て支援促進策の検討を要請した。これに対して茂木氏は「中小企業に対するなんらかの措置を検討していきたい」と理解を示した。

 これを受けて同日、三村会頭は3000億円の負担を「拠出やむなし」とした。子育て支援に充てられる事業主拠出金についてのオープンな討論や、安易な使途拡大の防止、運営規律の徹底に関して、政府が日商の主張に応じる見通しとなったことから、方針を転換したわけだ。

 それでも日商vs.経団連・経済同友会の意見対立が鮮明になったことは間違いない。財界・経済界は、決して一枚岩ではないのだ。

 経済同友会の小林代表幹事は歯切れが悪かった。「企業市民としての責任・社会貢献から企業拠出金に協力する」とした。その一方で、「民間企業が自己の責任により意思決定・実行すべき事項に関連して、政府が生産性革命の数値目標を掲げることは、本来、あるべき姿ではない」と付け加えた。

 経済同友会は、すべての統制の撤廃と自由主義経済の樹立を目的に発足した。政府主導による統制色が強まるなか、その存在意義が問われようとしている。政府の統制(コントロール)に協力するか、自由主義経済の立場を貫くか。その板挟みで、今回もどっちつかずのコメントとなった。

「政府の言いなりになるようでは、経済同友会のアイデンティティはない」との厳しい意見が、あちらこちらで聞かれるようになっている。

●政権との距離をどう保つのか

 財界の地盤低下が指摘されて久しい。

 経団連が「財界の総本山」として力を振るうようになったのは、1956年に石坂泰三・東芝社長が2代目会長に就任した頃からだ。自民党による長期政権がスタートした時代と重なる。経団連は「資本主義体制を守るための“保険”」として自民党への政治献金の仲介役を担った。

 このため歴代の自民党総裁は、大スポンサーである経団連(会長)の意向を無視できなくなり、石坂氏は「財界総理」と呼ばれた。

 1980年代以降、会長ポストは巨大企業の経営者の指定席となった。新日本製鐵、東京電力、トヨタ自動車による「経団連御三家」時代が到来した。

 しかし、バブル崩落と冷戦体制の崩壊で経団連の地盤低下が始まった。経済はグローバル化した。製造業の空洞化が進み、政・官・財が一体となった「日本株式会社」は解体に向かうことになる。

 経団連の会長ポストも変質する。ここ3代は御三家以外から選出された。財界主流派の重厚長大型産業から、財界傍流に交代した。

 御手洗会長時代は、民主党への政権交代で政治献金への関与を中止した。米倉弘昌前会長は、政権復帰前の自民党・安倍晋三総裁の金融緩和を「無鉄砲」と批判。政権に復帰した安倍政権との関係は冷え込んだ。

 その後を継いだ榊原会長は、経団連と安倍政権との関係改善が最大の課題となった。政治献金への関与を再開し、安倍首相の消費増税延期を支持した。時代背景をまったく考慮せずに「安倍首相ベッタリ」と批判されるのは、いささか気の毒な気がしないでもない。

 4年に1度の経団連会長人事は近年、人選が難航し、現職会長の任期満了の前年秋に決まらず、年明けにもつれ込むことが多かったが、今回は早くからの中西副会長が本命と目されてきた。

 これまで日立は、「自分たちは茨城の田舎企業ですから」と、財界のド真ん中での活動に踏み込まなかった。14年、川村隆会長(現名誉会長)が、当時の米倉氏の強い要請を拒否して経団連会長にならなかった経緯がある。そのため、下馬評にも上がらなかった榊原氏に“タナボタ”で会長の椅子が転がり込んできた。いわば、窮余の一策だった。

 次期会長は政権と近いことが条件だった。中西氏は、日立には珍しく財界活動に積極的で、政府の「未来投資会議」の民間議員を務めるなど安倍政権とのパイプは太い。

 本流と評されてきた東京電力、東芝は経営が破綻した。中西氏は会長就任を受諾したと報じられており、これが経団連の歴史の転換点となる可能性もある。だが、“中西新会長”が首相の発言に「御意」とオウムのように繰り返すなら、間違いなく榊原氏の二の舞となる。
(文=編集部)