これがJ1で3度の優勝を果たした、名将の手腕だろうか。監督として歴代最多タイのJ1優勝回数を誇る森保一監督の、さすがの手綱さばきである。

 アジアU-23選手権はグループリーグ最終戦が行なわれ、日本は北朝鮮を3-1で下した。この勝利でグループリーグを3戦全勝とした日本は、グループ1位で準々決勝進出を決めた。


北朝鮮相手に3-1で勝利した森保ジャパン

 日本はこの試合、第2戦のタイ戦から先発メンバー全員を入れ替えて臨んだ。もちろん、第2戦終了時点でグループリーグ突破が決まっていたからできたという側面はあるにしても、なかなか大胆な選手起用である。森保監督が語る。

「もともと力のある選手だからここに招集しているわけで、できるだけ多くの選手にプレーできるチャンスを与えたいと思っていた。なので、タイ戦が0-0で終わり、勝ち点4だったとしても(先発総入れ替えを)やっているかもしれない。そこは何とも言えないが、勝ち点6を取ってグループリーグ突破できたことで、そこのトライがはっきりできるようになったとは言える」

 しかしながら、その多くがほとんど同じチームでプレーしたことのない選手たちである。内容的に物足りなさがあったことは否めない。ボランチを務めたMF森島司(サンフレッチェ広島)は、「ピッチ状態がよくなかったこともあって、ボールをうまく回せなかったので結構キツかった。全体的に(各選手のポジションが)低く、前にボールが入らなかった」と悔しそうに語る。

 とりわけリズムが悪くなったのは、日本が2点をリードして迎えた後半52分。北朝鮮に1点を返されると、若い選手たちはたちまち浮き足立った。精神的な余裕を失った選手たちは、奪ったボールを意図もなく前に蹴り出すばかりで、再び簡単に相手へ渡してしまい、ただただ自陣で耐えることしかできなくなった。

 ところが、そんな苦境にも森保監督は落ち着いたものだった。むしろ、この状況を心の中では喜んでさえいたのかもしれない。指揮官が劣勢の時間帯を振り返る。

「前半で2-0になって後半押し込まれることは、サッカーではよくある展開。そのまま押し通せるのが理想だが、相手はA代表の選手もいる強敵なので、ある程度押し込まれると思っていた。練習にもなるし、追加点が取れれば自信になると思って見ていた」

 余裕を持って見ていたんですね――。そう尋ねると、森保監督は苦笑いで「余裕は全然ないけど」とつけ加え、こう語った。

「選手たちが(やるべきことに)トライし、ひたむきに苦しい局面をがんばってくれていた。理想としては何も問題なくレベルアップしていければいいが、こういう苦しいことを経験しながらレベルアップしていくというのが、個であれ、チームであれ、大切だと思って見ていたので、選手がトライすることを信じて見ていただけ」

 もちろん、ベンチから手を差し伸べる、すなわち、選手交代でリズムを変えるといった策を講じることも考えられた。だが、森保監督は、あえてピッチ上の選手たちに任せた。

「今、そこで耐えられたことが成功体験になる。最悪やられることになったとしても、また次に生かせる経験が今できている。自分たちの経験値とかレベルアップのためにつなげてほしいという思いで見ていた。自分たちが痛い思いをしながら、またレベルアップしていくことは非常に大切だと思うので。そこは僕も監督として、選手たちが苦しい局面の中でやっていることを許容してあげられるというか、時と場合によるが、自分も我慢することで、選手たちの経験値を上げ、レベルアップにつながればとは思う」

 結果、20分ほど続いた”嵐”が過ぎ去ると、北朝鮮の攻撃が焦りから雑になったことも手伝い、日本は押し込まれながらもカウンターを繰り出す展開まで押し返せるようになった。FW旗手怜央(はたて・れお/順天堂大)のPKで追加点を奪い、終わってみれば、再びリードを2点に広げての勝利である。

 いわば、森保采配の懐の深さを感じさせた試合だったが、とはいえ、歴戦の名将は選手たちにすべてを任せ、ただ見守っているだけではない。北朝鮮戦前日の練習でのことだ。

 北朝鮮戦を想定したゲーム形式の練習で、翌日の先発出場組が主体となり、控え組(つまり、タイ戦の先発出場組)が4―4-2の仮想・北朝鮮を務めた。確かに、北朝鮮を相手にどうボールを動かし、相手のどこを突いていくかといった確認が練習の主な目的ではあったのだが、タイ戦の先発出場組は「オレたち、明日は試合に出ないから」と言わんばかりに緩慢なプレーを続け、易々と突破を許した。

 その瞬間、森保監督のカミナリが落ちた。

「全員で(明日の試合の)準備をするんだよ! 4バックだって(これから先の試合で)やるかもしれないんだから!」

 グラウンドにピリッとした緊張感が走り、その後の練習が締まったものになったのは言うまでもない。

「勝利と課題の両方を持って次の戦いに臨めることは、チームにとってポジティブなこと」

 表情を変えず、淡々とそう語る森保監督の巧みな手綱さばきに導かれ、U-21日本代表は望外の3連勝で決勝トーナメントに進出した。

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