(写真撮影/浜田啓子)

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住宅雑誌で特集がされたり、ネットで専門サイトが立ち上げられたりと、なにかと目にするヴィンテージ・マンション。一般の中古マンションとはどこが違うのでしょうか。

前編では、住宅評論家の坂根康裕さんに、ヴィンテージ・マンションの魅力と基礎知識、買うときに気をつけたいことなどを伺いました。

ヴィンテージ・マンションには明確な定義がない!

ワインや車などによくあるヴィンテージ物。このヴィンテージは「歳月を経て、より価値が高められた物」という意味合いで使われています。マンションの場合、「アンティークでかっこいい高級マンション」のようなイメージをもちますが、本来はどのような物件を指すのでしょうか。

さっそく坂根さんに伺うと、「実は、ヴィンテージ・マンションには明確な定義はありません」との意外な答えが。

【画像1】ワイン(写真/PIXTA)

坂根さんによれば、そもそもマンションにヴィンテージという言葉が使われ始めたのは2000年代初頭。バブル崩壊後のデフレの影響で画一的なマンションが増えるなか、「過去にはこんな面白い物件があった」と目を向けられたのがきっかけだったそうです。

「実際、過去のマンションのなかには、建物デザインや住戸プランが非常に個性的で、新しいライフスタイルを提案しようとさまざまな工夫が盛り込まれているものもありました。そうした価値を多くの人たちが認め、ここに住みたいという人が絶えない物件がヴィンテージ・マンションと呼ばれている。その評価の高さは、当然、流通価格に結びつきます。エリアや駅からの距離など条件をそろえて比べたときに、他の物件よりも下落率が低かったり、逆に上がっていたりすることがあり、資産価値も高いといえるわけです」

南欧風の青い瓦屋根や屋上プールなど、物件ごとに個性あり

そんないわゆるヴィンテージ・マンションの魅力の一つは、先にも挙げたように、個性的な建物やデザイン。昨今の新築マンションとはどこが違うのでしょう。

「マンションの区分所有法が定められたのは1960年代の初めですが、建物のデザインで個性が際立つのは1964年東京オリンピックのころのマンションですね。例えば、そのころに初めて分譲された秀和レジデンスシリーズは、南欧風の青い瓦屋根と白い塗り壁、さらにバルコニーに配した黒の鉄柵が特徴です。こういうデザインは昨今のマンションにはなく、今でもファンがいるほどです。

東京オリンピック開催の翌年1965年に竣工した『コープオリンピア』は、欧米先進国に追いつけ追い越せという時代を反映して、屋上にはプールがあり、ロビーはまさにホテルライク。当時は集合住宅=団地というイメージが強く、それを払拭したいという気概もあったのでしょう。今見ても新しさを感じます」

ほかにも、アート作品のように大胆なフォルムを描いていたり、ホテルのような和風庭園があったり、エントランスが特大の絵画で彩られていたり。ヴィンテージ・マンションは、ドア、窓、把手のような細部にも個性が宿り、今見るとアンティーク感もあって心がくすぐられます。

【画像2】コープオリンピア(写真/PIXTA)

ヴィンテージ・マンションは希少性のある都心エリアに集中

加えて、ヴィンテージ・マンションの魅力といえるのが立地です。千代田区、渋谷区、港区などの都心に集中し、その時代だからこそ得られた希少な立地に立つマンションも少なくありません。

都心タワーマンションの先駆けと言われる「三田綱町パークマンション」は、大正時代からの歴史がある「綱町三井倶楽部」に隣接し、その庭園を借景として楽しむことができます。また、1980年代のマンションを代表する「広尾ガーデンヒルズ」も立地の希少さで知られています。都心にあって約5万7000m2もの敷地面積を誇る大規模マンションは、今後、建てられないだろうとも言われています。

その「広尾ガーデンヒルズ」は豊かな緑がシンボルですが、これもまた、多くの人が認める価値につながると坂根さんは言います。

「時間とともに朽ちるのが建物なら、時間とともに成長するのが植物とコミュニティ。『広尾ガーデンヒルズ』は竣工から約30年たった現在、樹木が成長して森のような環境が生み出されています。これは新築マンションにはない魅力と言っていいでしょう」

樹木は放っておけば伸び放題で本当の森になってしまいますが、人が快適に暮らせるのはきちんと管理がされている証拠。つまり、植栽の美しさは「マンションをきれいに保ちたい」といった住人の意識の高さの表れであり、そこには成熟したコミュニティがあるとも考えられるわけです。

【画像3】三田綱町パークマンションの住戸から望む「綱町三井倶楽部」の庭園(写真撮影/浜田啓子)

時を重ねた物件だからこそ、躯体や設備の状況は要チェック

もちろん、長い歳月を経てきたマンションだからこそ、購入にあたっては注意点もあります。その一つが躯体や設備などの老朽化です。

「どんなに素晴らしいマンションでも経年による劣化は免れません。特に、古いマンションの場合、給排水管のメンテナンスは欠かせません。取り替え工事が行われているかなど点検や工事の履歴は要チェックです。併せて大規模修繕が適切に行われているか、また今後、どのような修繕計画があるのかを確認しておくと安心です」

修繕履歴や長期修繕計画など管理状況に関することは、管理会社が作成する「重要事項に係る調査報告書」に記載されています。仲介会社に依頼すれば用意してくれるはずなので、購入を決める前にしっかり目を通しましょう。
さらに見ておきたいのは、断熱性や遮音性といった住宅の基本性能です。

「法的整備が進み、マンションの基本性能が高まったのはここ十数年の間。それ以前は、物件によって差があるということは頭に入れておきたいですね。古いマンションでは断熱性の低い資材が使われていたり、断熱材が入っていなかったりすることもあります。また、新耐震基準が採用された1981年以前のマンションであれば、耐震診断を実施し、必要に応じて耐震補強がされているかどうかの確認は必須です」

断熱性については、断熱材を入れるなどリフォームで補強することも、場合によっては可能です。窓ガラスも内窓を入れたり、物件によっては複層ガラスに変更できたりする場合もあるとのこと。変更の可否は管理規約で定められているので、事前に確認しておくといいでしょう。

【画像4】マンションの大規模修繕工事(写真/PIXTA)

住みたいと思ったら、仲介会社に連絡して気長に待つべし

では、ヴィンテージ・マンションに住んでみたいと思ったら、どのように探せばいいのでしょうか。

手がかりになるのは、やはりインターネットの物件検索サイト。どんなマンションがあるのかを見ていくことができます。ただし、人気の物件はなかなか売却住戸が出ず、売りに出てもすぐ成約済みなんてことに。

「住みたいマンションを見つけたら、仲介会社に連絡し売り物件が出たら教えてもらうのが確実でしょう。最近はリノベーション会社がリノベ済みの住戸を売りに出すケースも多いので、そこから探してみるのもいいかもしれませんね」

いずれにしろ、いつ売りにでるかは未知の部分。時を重ねてきたマンションのように、じっくり気長に待つ感覚が必要のようです。

ヴィンテージ・マンションと呼ばれる物件には億を超える高額物件が多くある一方、小さめながら3000万〜4000万円台の住戸も。決して、高嶺の花ばかりではないようです。ただし、ワインや車などと同様に、嗜好性の強いもの。資産性といったこと以上に、そのマンションに対して愛着をもてるかどうかが大切なのかもしれません。後編では、まさに愛着をもって暮らす人たちが住むヴィンテージ・マンションを訪問。管理組合の活動や暮らしについてレポートします。

●後編はこちら
有名な3物件を訪問! ヴィンテージ・マンション徹底解剖(後編)
●監修
・坂根康裕さん
1987年株式会社リクルート入社。『都心に住む』『住宅情報スタイル 首都圏版』編集長を経て、2005年独立。
現在は高級マンションを中心に取材、執筆等活動中。住まいのWEBマガジン『家の時間』代表も務める。
日本不動産ジャーナリスト会議会員。著書に『理想のマンションを選べない本当の理由』 『住み替え、リフォームの参考にしたいマンションの間取り』
(上島寿子)