人気グループからまんべんなく主演俳優が出ています(撮影:今井康一、尾形文繁)

2018年スタートの冬ドラマが次々に始まっていますが、あちらこちらで聞こえてくるのは、「これもジャニーズ主演?」「今期は多くない?」という声。

実際、プライム帯(19〜23時)で、元SMAPの木村拓哉さん主演「BG〜身辺警護人」(テレビ朝日系)、嵐の松本潤さん主演「99.9%-刑事専門弁護士-SEASON供廖TBS系)、KAT-TUNの亀梨和也さん主演「FINAL CUT」(フジテレビ系)、Hey! Say! JUMPの山田涼介さん主演「もみ消して冬〜わが家の問題なかったことに〜」(日本テレビ系)の4本。深夜帯にも、タッキー&翼(活動休止中)の滝沢秀明さん主演「家族の旅路 家族を殺された男と殺した男」(フジテレビ系)、ジャニーズWESTの藤井流星さんと茺田崇裕さん主演「卒業バカメンタリー」(日本テレビ系)の2本が放送されます。

余談ですが、5つを超える媒体が「TOKIOの長瀬智也さん主演『フラジャイル』(フジテレビ系)も“月9”で放送予定だった(共演の武井咲さんが妊娠したため延期に)」と報道していました。業界のみならずファンの間でも周知となっていましたし、この点を踏まえても、「いかに主要グループからまんべんなく主演俳優を出しているか」がわかります。

驚くべきは、「冬ドラマ全体の約3割を占めるうえに、民放各局をほぼ総なめ状態」であること。ネット上には賛否の声が飛び交っていますが、なぜこのような状態が起きているのでしょうか。

誤解のないよう最初に書いておきたいのは、「ジャニーズ事務所の所属タレントに非はない」ということ。私は彼らがつねに努力し、ファンの期待に応える姿を見てきましたし、スタッフやメディアに対しても謙虚に接するなど、芸能人のみならずビジネスパーソンとしてもすばらしいのです。

ここではあくまで、芸能事務所の営業戦略と、取引先となるテレビ局の事情を客観的かつ冷静に書いていきます。

「今年も連ドラの中心はジャニーズ」の戦略

まず考えるべきは、ジャニーズ事務所の営業力。民放各局、各曜日、各時間帯に、各グループのメンバーをパズルのように送り込めるのは、相当な営業力がなければできません。

これを一般企業に置き替えると、「その業界の大手各社に異なる自社商品を売り分けている」ということ。また、「ジャニーズの所属タレントが他の俳優と比べて、圧倒的に人気や演技力があるわけでも、高視聴率を獲得しているわけでもない」ことを踏まえると、なおさら営業力の凄さを感じます。

しかも、そのセールスを“2018年の頭”にそろえたのも見逃せないポイント。「今年も連ドラの中心はジャニーズ」と印象づけるための戦略であり、だからこその全方位営業だったのでしょう。

各局の編成担当やプロデューサーなどの実力者とやり取りしつつ、周辺のスタッフやブレーンともコミュニケーションを取って、早い段階から企画案やスケジュールを投げかけるなどの営業努力をしているようです。

各局にしてみれば、「ウチでジャニーズ主演ドラマを放送するのは1本だけだから」という認識に過ぎません。しかし、テレビ局と放送時間帯を巧みに分散させているため、今回のように「いざはじまってみたら6本もあった」というケースが起こりうるのです。

これを一般企業に置き替えると、「いろいろな商品を用意していますが、今回はこちらだけでもいかがでしょうか?」という営業パターン。それを複数の取引先に仕かけることで、全体の売上をアップさせているのです。

この方法は、「売れる会社にめいっぱい売ろう」「いかに上得意を作るか」という営業パターンの会社よりも、各期の売上を確保しやすいのも優れたポイント。もしある会社との取引が打ち切りになったとしても経営が傾くことはなく、安定性のある営業パターンと言えます。

「売りっぱなしにしない」アナログ作業

ジャニーズ事務所の営業力は、「主題歌も主演俳優が確保する」「後輩タレントを助演として送り込む(バーター出演)」という点にも表れています。主題歌が売れれば直近の利益につながり、後輩タレントが経験を積むことで未来の利益につなげるというダブルのメリットを確保できるのも、優れた営業の証。おカネとおカネで買えない経験の両方を得ることで、次の営業につなげていることがわかります。

さらに、ジャニーズ事務所の営業は、「売りっぱなしにしない」のも強みのひとつ。「自社タレントのドラマ主演を勝ち取って終わり」ではなく、各局のスタッフとやり取りしながら番組PRを進めています。情報番組やバラエティ番組への番宣出演に加えて、テレビ誌や新聞などの各媒体にくまなく露出。たとえば、「〇〇には掲載されていたけど、××には掲載されていなかった」という媒体の“落ち”や“抜け”がなく、きめ細かにPRが行われているのです。

実際、私が関わっているいくつかの媒体で、ジャニーズ事務所のPR力を実感させられた経験が何度もありました。よくネット上では、「媒体側がジャニーズの顔色をうかがって提灯記事を書いている」と噂されていますが、「ジャニーズ側のPRが徹底されているため記事になりやすい(掲載を拒否する理由もない)」というのが実情。この点は、みなさんが思っている以上に、依頼や確認などの極めてアナログな作業が徹底されているのです。

各局にとっても、「PR面で後押しが期待できる」のは心強く、他にここまでのことを行っている芸能事務所はないでしょう。やはりビジネス的な視点で見ると、ジャニーズ事務所は営業力の強い会社と言い切れるのです。

一般層は「演技力・役柄へのフィット」志向に

ただ、どの業界でもそうですが、営業力の強い会社は「何かと叩かれやすい」のが常。批判の声をあげるアンチが存在するのは仕方ないとしても、一般層からも疑問の目を投げかけられてしまうことがよくあります。

ジャニーズ事務所や所属タレントが最も叩かれるのは、まさに今期のような連ドラ主演。近年連ドラでは、人気やルックスよりも演技力や役柄へのフィットが優先される傾向が強く、ジャニーズタレントの主演作が発表されると必ずと言っていいほど批判の声があがります。

また、以前より視聴率がふるわないケースが増え、「初回がまずまずでも、回を追うごとに右肩下がり」という作品も少なくありません。作品名や個人名をあげるとコラムの主旨から外れるので挙げませんが、昨年も1ケタ視聴率のものがいくつか見られました。ジャニーズ事務所としても、そんな結果を踏まえているから、「視聴率の影響が少ない深夜帯で主演させる」という戦略が増えているのではないでしょうか。

ジャニーズに限らずアイドルは、バラエティ番組でMCやメインゲストに相応しい存在感を放つ反面、演技力や役へのフィットが最優先される現在の連ドラで主演を務めるのはハイリスクそのもの。しかし、ここに関してジャニーズ事務所の営業は極めて強気であり、「主演ありき」「かっこいい役ありき」で売り込みを続けています。

ネットの普及で一般層の志向が可視化されるなど、強気の営業だけで押し通せるほど簡単な時代ではなくなりました。強気の営業に対する一般層の反発は年々強まりつつあり、連ドラに限らず「適材適所でない」と感じたキャスティングには、放送前から容赦なくバッシングの声があがっています。

これは裏を返せば、一般層の志向を受け入れず「演技力や役柄へのフィットよりも、人気やルックス重視」のキャスティングを採用するテレビ局側の問題ということ。2010年代に入ってから、ゆるやかにその問題は改善されつつありますが、一般層からすれば「まだまだ不十分」「いつまで同じことを続けているのか」であり、そこかしこに不満の声を見かけます。

視聴率の不調のみならず、連ドラへの関心やイメージの低下が叫ばれる中、現状のような「芸能事務所が強気の営業で攻める」「テレビ局は迷いがありつつもそれを受け入れる」という関係性が続くのは、芸能事務所、俳優、テレビ局のすべてにとってマイナス。テレビ局にとって連ドラは「老若男女に見てもらってナンボ」だからこそ、「目の前の取引先(芸能事務所)ではなく、一般層の志向に寄り添ったキャスティングができるのか」が近未来の鍵を握っているのです。

アイドルに地上波の番組は厳しい時代

話をジャニーズ事務所のタレントに戻すと、今後、彼らが演技力や役柄へのフィット志向の強くなる一般層に受け入れられるためには、「主演ばかりでなく助演での出演を増やす」「作品やキャラクターに合う役柄を選んで出演」「主題歌や後輩タレントのバーター出演にこだわらない」などの柔軟な姿勢を見せることがポイントになるでしょう。

もともとジャニーズ事務所のタレントには熱心なファンが多く、イベントや物販に強いことで知られています。一方、地上波のテレビ番組全体が、「老若男女から、凄く好かれるよりも、嫌われないことが求められている」のは、もはや避けられない現実。その点、「ある層から熱狂的に支持される反面、それ以外の層から嫌われやすい」アイドルにとって地上波の番組は、必ずしも居心地のいい場所ではないでしょう。

彼らが最も輝くのは、有料客を集めたステージ上であることは周知の事実。熱狂的なファンを満足させて売上を確保しつつ、アンチを中心にした批判の声を避けるために、少しずつ映画や有料配信サービスへの出演が増えていくのではないでしょうか。

事実、岡田准一さん、二宮和也さん、生田斗真さんら「ジャニーズの演技派」と言われるタレントは、映画への出演を増やす一方、連ドラ主演を務めることはめったにありません。この方針は、「演技派としての評価を高め、批判や低視聴率でのイメージ悪化を避けている」ということ。ジャニーズ事務所は「利益を追う攻めの営業と、商品価値を保つ守りの営業を使い分ける」という戦略も持ち合わせているのです。

いろいろ書いてきましたが、少なくとも「ジャニーズ事務所が芸能界屈指の営業力を持っている」ことに疑いの余地はありません。同事務所に限らず芸能は、「見てくれる人あってこそ」のビジネスモデルだけに、各メディアへの強気の営業が正しいとは言えないですし、近い将来、方針転換があってもおかしくないでしょう。そのあたりの動向も含めて、「東洋経済オンライン」読者のビジネスパーソンにとっては参考になる会社のひとつなのです。