負傷離脱にも「落ち込むことはなかった」。西岡が復活の勝利

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選手というのは選ばれた人なのだとつくづく思う。昨年3月に左ひざ前十字じん帯断裂の大ケガで長期離脱を強いられ、今大会、力強く復活した西岡良仁(日本/ミキハウス)を見て、その思いを強くした。

この1月にチャレンジャー(下部ツアー)で実戦復帰。ここでは単複とも1回戦敗退に終わったが、グランドスラムの大舞台で約10カ月ぶりとなる公式戦勝利を挙げた。

相手は第27シード、34歳のフィリップ・コールシュライバー(ドイツ)。経験豊富な試合巧者であり、試合勘の戻らない西岡には大変な難敵と思われた。ところが西岡はこのベテランを上回る試合巧者ぶりを発揮する。

強風が吹く中での試合であったため、「安全にプレーしようと思った」という西岡。「思いきり打って狙ったところに打ちきるのは大変。(相手に)打たれてもいいからコートに入れ続けて、相手のミスを待ったりした」。安定したプレーは、序盤は風に惑わされてミスの目立ったコールシュライバーと対照的だった。

ブランクの影響でフォアハンドは好調時の出来からは遠かった。また、6-3、2-6、6-0、1-6、6-2のスコアが示すとおり、流れが行ったり来たりする試合だったが、西岡はあわてなかった。つぶさに相手を見て、自分の状態を冷静に分析、5セットマッチをコントロールしてみせた。コールシュライバーのミスの多くは西岡が強いたものでもあったはずだ。

そうして、最終的に自分の最大の強みで勝負した。「自分の思ったボールが打てたわけではなかったが、その中でどうやって相手を崩していくか。自分の持っているよさがそこだと思う」

ただ、「選ばれた人」と感じたのは、実はそこではない。

西岡は負傷からの復活の道のりを話した。手術、リハビリ、トレーニングと、復帰への道は自分との戦いだ。不安に押しつぶされそうになるのが普通だろう。だが西岡は「落ち込むことはなかった」という。

手術の直後から、〈しっかりと治療と体作りをして1日も早くツアーに戻れるように努力します〉とSNSなどを通じて精神状態が前向きであることを発信した。リハビリは「本当につらかった」が、担当医に「つらくなったら休みます」と話し、マイペースで、しかし実直に取り組んだ。

支えとなったのは、昨季の序盤戦、好調時に得た感触だった。

左ひざを負傷するまでは快調だった。2月から3月にかけて、ATP500シリーズのアカプルコで8強入りすると、マスターズ1000のインディアンウェルズでは予選から4回戦に進出した。アカプルコでは当時18位のジャック・ソック(アメリカ)を破り、準々決勝ではラファエル・ナダル(スペイン)と互角の打ち合いを見せた。インディアンウェルズではスタン・ワウリンカ(スイス)とファイナルセット・タイブレークにもつれる接戦を演じた。

マイアミで負傷したあとも、好調時のイメージは「残っていた」という。だから、離脱を強いられても、自分はトッププレーヤーと十分戦える、男子ツアーの厳しい世界で生き残っていける、という手応えが常に胸の内にあったのだろう。それが前向きな気持ちにつながったと思われる。

負傷の報を聞いたあと、筆者は〈自信、好感触が、長いリハビリを乗り越える心の支えとなる〉と原稿に書いた。そうあってほしい、という思いで書いたものだ。西岡はそれを実践し、長いリハビリ期間中、積極的な気持ちを持ち続け、それがこの順調な回復と復帰につながったと見ていい。

「落ち込むことはなかった」。この言葉が、彼の心の強さを、並外れた精神力をあらわしている。

(秋山英宏)

※写真は「全豪オープン」1回戦を突破した西岡良仁
(Photo by Scott Barbour/Getty Images)