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●ダイバーシティ推進、課題は「意識」

代表取締役社長に樋口泰行氏が就任して以降、パナソニックの社内分社であるコネクティッドソリューションズ社は働き方改革とダイバーシティを猛烈に推進している。

中でも重要になってくるのが、社内で働く従業員がこれまで培ってきた文化や意識を変えていくことだ。だがこれまで、大阪の製造業としてものづくり一筋に取り組んできた従業員が、東京を中心としたB2B主体のビジネスへとマインドを切り替えるのは容易なことではない。

そうした社内の意識改革に、パナソニックはどのような考えを持って取り組んでいるのだろうか。コネクティッドソリューションズ社の常務 営業推進本部 本部長 ダイバーシティ推進担当の山中 雅恵氏と、常務 人事センター 所長の大橋 智加氏に話を聞いた。

○「昭和のおっちゃんの会社」からの脱却

IBMやマイクロソフトという外資系企業、住設メーカーで日本企業のリクシルを経て、2017年7月にパナソニックに入社した山中氏は、入社直後のイメージが「昭和のおっちゃんの会社」だったと話す。

「(社員に)質問すると『過去からこうやっていた』という回答の人が多いし、『従来よりも良くなった』という感想を持てても、『競合より勝っているか』『顧客が満足しているか』という視点のない人が多い。目線が内向きになっている」(山中氏)

一方で長年パナソニックに在籍している大橋氏は、旧来のパナソニックの風土について「良いものづくりさえしていればいいという考え方が主流だったかもしれない」と話す。高度成長期以降「いいものを安く作ること」を最も重視する価値観の下にすべての事業が動いており、昨今のような、とりわけB2B事業で最も重要な顧客の声を聞き取るといった体制が機能しきれていなかったというのだ。

もう一つ、大橋氏は「上司が絶対的な存在に近く、若い世代が自由にものを言いづらかった。端的に言えば風通しが悪かったかもしれない」と話す。

そうした状況を見て山中氏は、「もったいない。社員一人ひとりは優秀なのだから、環境を変える後押しさえすれば、実力をもっと発揮できる企業になるのではないか」と感じたという。樋口体制で臨む働き方改革は、単なるワークスタイル変革ではなく、「約100年の歴史の中で社員に根付いた閉鎖的な価値観を変える」という狙いがある。

○制度は問題なし、だが「価値観が古い」

なぜ環境の変化をすること=価値観の変化なのか。

山中氏によれば、パナソニックは過去に在籍していた企業と比較しても「制度面ではダイバーシティに代表される"自由な働き方"を支援できるような体制が整っている。ただ、価値観に起因する徹底度合いが足りない」と感じた。

具体的な社内課題は3点。1つはダイバーシティの達成に向けてKPIを設定し、それを必ず達成するという仕組み上の問題。2つ目は組織の末端にまで「ダイバーシティを推進する」という意識が浸透していないこと。そして3つ目は、トップのダイバーシティへのコミットメントにムラがあり、制度面での環境は整っていたにもかかわらず、取り組み度合いに波があったことだ。

これらの課題を解消するため、山中氏や大橋氏が現場の声を聞く「ダイバーシティ推進の全国キャラバン」を実施。そこで集めた意見を樋口氏に共有しながら、ダイバーシティ推進を確実にするためのサイクルを回しているという。

ただ、製造業ならではの「技術者に男性が多く、男性比率が圧倒的に高い」という慢性的な課題がある。周囲に女性が少ない職場で長年勤めている人に対して、急に「ダイバーシティ推進のため意識を変えよう」と語りかけても難しい側面がある。実際、山中氏がキャラバンでヒアリングした中でも「女性の部下に子供ができた時、どう話をすればいいのか分からない」という意見があり、「指針」よりも「具体的な対処法」を現場は求めがちなようだ。

一方で山中氏はこのケースに対し、「女性の出産に関して、産後すぐに職場復帰する人がいれば、長く育児休暇を取る人もいる。個々のニーズに応える制度は整っているにもかかわらず、本人がやりたい方法を選び、周囲がそれを前向きにサポートできない」という個別対応が求められることを指摘。こうした選択肢があることを丁寧に説明することで理解を深めたい意向だ。

ダイバーシティ推進の本質は、女性が働きやすい会社、男性優位という片翼の視点だけでなく、多様な視点を取り入れられる会社に進化することで、企業競争力にも繋がる点にある。「ダイバーシティの推進は開始当初こそ華々しいが、実は一朝一夕で実現できるものではない。KPIを回し続けてしつこく継続するしかない」(山中氏)という、長期的な視野に立って実現に向けた取り組みを進める構えのようだ。

●オープンな環境の推進で会議は大幅に減少

働き方改革は、何もダイバーシティ推進だけではない。コネクティッドソリューションズ社の大阪から東京への移転もその一環だ。「意識を変え、お客様視点への変革には場所の問題は大きかった」と、大橋氏は答えている。

東京オフィスでは、仕切りをなくしたオープンスペースをベースに、社長である樋口氏までもがその中で仕事をしている。また、Skypeやテレビ会議システムを活用したテレコミュニケーション、テレワークも積極的に利用している。このあたりは、日本マイクロソフト 前会長の樋口氏ならでは、といった印象も受けるが、実はソリューションの導入だけでなく「会議室を減らす」という大なたを振るっていた。

"大なた"である理由は、大阪の門真時代、常に「会議室を増やしてほしい」という要望があったから。東京オフィス移転の際もそうした要望があり、「会議室を減らしたことには当初、反発の声が多く上がっていた」(大橋氏)。しかし、オフィスの造りをオープン型に切り替えることで社員同士のコミュニケーションの仕切りがなくなり、意見交換の機会が増えた。結果として会議が減り、行われる会議も「一つ一つの時間が短くなり、中身が濃いものになっているという実感がある」(大橋氏)。

「社内でも大なり小なり課題があるという意識は抱えていた。これまでにも色々取り組んできたが、本質を変えることができていなかった。社長の樋口が率先して、自ら働き方を変えていく姿を見せるというやり方が、社員にとっては新鮮に映っていると思う」(大橋氏)

職場が変わり、コミュニケーションも変わった。となれば、マネジメントも変える。日本企業は長年「年功序列制」での評価が定着していると言われてきたが「パナソニックでは、実は10年以上前から成果主義評価だった」(大橋氏)。ただ一方で、これまでの評価手法は上司が部下を評価する一方通行のもの。そこで人事制度の改革でも「360度評価」を取り入れ、部下からの評価軸も加えることで、誰もが納得できる「成果主義評価」へと変化させようとしている。

「コミュニケーションの変革とマネジメントの変革は同じ。日常のマネジメントが変わらないと本質は変わらない。日々の部下との接点を変えるための研修や仕組作りに力を入れていく。上司が部下を取り仕切るのではなく、互いに自らの意見を出し合える関係を構築できれば」(大橋氏)

○製造業で勝てなければ日本企業に勝ち目はない

社内の働き方改革に取り組んでいる山中氏と大橋氏だが、どういったポイントを大事にして改革に取り組んでいるのだろうか。

大橋氏は「向かう方法や方法論は合っている」と答えるなど、両者の意識や考え方は一致しているようだが、そのことをどう伝えるかという、コミュニケーションの部分に関しては、両者で相談しながら決めていくことが多いのだという。

「私は7月にパナソニックに入社したばかりですし、鈍感力が強すぎる部分があるので(苦笑)、わからないことも多い」と山中氏は自己分析した上で、だからこそ長年の社内体制を熟知している大橋氏と頻繁に相談し、アドバイスを受けながら意識改革に向けた取り組みを進めているのだそうだ。

山中氏はこれまでの経験を踏まえ、「IT業界に携わっていて、日本企業はITの世界で勝ち目が薄いと感じている。だからこそ、日本が勝てるフィールドである製造業を強くしたい。製造業で勝てなければ、世界で勝てる日本企業はないというぐらいの思いで精一杯努力したい」と、日本にとっていかに製造業の復活が重要かを力説する。

技術畑ではない山中氏がパナソニックで果たす役割は、営業力の強化や組織の活性化という製造業にとっては「影のサポート役」かもしれない。しかし、「昭和のおっちゃんの会社」が「世界水準の働き方」を達成できれば、この会社が世界のリーディングカンパニーになる未来も見えてくるだろう。