保守性の強い政策を行ってきた中東の国・サウジアラビアで、実に35年ぶりに映画館で映画を上映することが解禁されました。多くの国民にとっては待望の映画館の復活という一大イベントなのですが、記念すべき復活第一号の映画はよりによって欧米の映画評論家などから「史上最低」という評価を受けて話題になってしまっていた「The Emoji Movie」など2本となっています。

Saudi Arabia begins screening films after decades-long ban lifted

https://uk.reuters.com/article/us-saudi-cinema/saudi-arabia-begins-screening-films-after-decades-long-ban-lifted-idUKKBN1F40QS

After lifting a 35-year cinema ban, Saudi Arabia screens The Emoji Movie - The Verge

https://www.theverge.com/2018/1/15/16893324/saudi-arabia-the-emoji-movie-cinema-ban-lifted

サウジアラビア政府は非常に保守的で、イスラム教の戒律に基づき、これまで35年にわたってコンサートの上演や映画館での映画上映を禁止してきました。措置の解除は、ムハンマド・ビン・サルマーン皇太子による取り組みの一環で、この他にもサウジアラビアでは、サッカースタジアムで男女が一緒に試合を観戦することが許可されるなど、よりオープンな制度の導入が進められています。

サウジアラビアで女性のサッカー観戦認められる スポーツイベントで初めて

http://www.huffingtonpost.jp/2018/01/12/soccer-women_a_23332386/

超がつくほど保守的な政策を続けてきたサウジアラビアでは、国民の多くは娯楽を求めて隣国のバーレーンやアラブ首長国連邦などを訪れていたとのこと。しかし、将来的に石油の枯渇が危惧される中で危機感を募らせているムハンマド皇太子の「脱石油」政策の一環として、国内に娯楽を取り込んで経済に貢献させ、海外からの観光客や産業を呼び込むことを狙いとした措置が進められています。

そして2018年1月には実際に映画の公開が開始されているのですが、ここで選ばれた作品が話題を呼んでいます。今回選ばれた作品はいずれも子ども向けカートゥーン映画である「The Emoji Movie」と「Captain Underpants: The First Epic Movie」の2本なのですが、「The Emoji Movie」はあろうことか映画評価サイトや映画評論家からの評価で「史上最低」とされる作品。映画評論家のレビューをまとめてスコア付けを行う「Rotten Tomatoes」では、過去に類を見ない「肯定的なレビュー:ゼロ件」という記録を打ち立てていました。

ぶっちぎりで過去最低「スコア0%」という記録を「THE EMOJI MOVIE」が打ち立てる - GIGAZINE



この作品は2017年7月末に公開されたものですが、それに先立つ同年5月に公開された予告編も、記事作成時点では高評価が1689件であるのに対して低評価は6461となっていました。

まさかの絵文字が主役の映画「THE EMOJI MOVIE」の予告編公開、はやくも低評価多数 - GIGAZINE



今回の上映は仮設の映画館で実施されたものでしたが、サウジアラビア政府は今後2030年までに300館・2000スクリーンを国内に展開することを目指しているとのこと。実際に映画鑑賞に訪れた30歳のイブティサム・アブ・タリブさんは「今後はアクション映画やロマンス映画、子ども向け映画、コメディなど、ありとあらゆる作品が上映されることを願います。神の思し召しを」と語っています。

サウジアラビアでは、かつて国を率いてきたサルマン国王からムハンマド皇太子への権限移譲が進んでいるところで、脱石油の野心に燃える若き皇太子が新しい国造りを進めている段階にあります。

早わかりサウジ情勢 若きムハンマド皇太子が権力掌握、脱石油目指す | ワールド | 最新記事 | ニューズウィーク日本版 オフィシャルサイト

http://www.newsweekjapan.jp/stories/world/2017/11/post-8886.php

「ビジョン2030」は巨額財政赤字の圧縮を目的にスタートしたが、石油以外の成長や雇用を生む新たな分野はまだ創出できていない。計画には民間投資呼び込みや民営化促進、世界最大の政府系ファンド設立なども含まれる。女性の労働参加率を引き上げることも目的の1つだ。

燃料や水、電気に対する政府補助の段階的な削減は既に始まったとはいえ、こうした引き締め策は国民の受けが悪い。原油安のあおりでサウジ経済は減速しており、既に緊縮策の一部は見直しや先送りとなっている。


サウジはイスラム教スンニ派の中でもコーランの教えに厳格なワッハーブ派に属し、男女同席やコンサート、映画などを禁じている。

皇太子の力が強まるとともに権限が若い年齢層に移っており、社会面や文化面に変化が生じている。来年からは女性が車を運転できるようになり、スポーツイベントへの参加も認められる。

イスラム教聖職者が絶対的な権威を有してきた教育、裁判所、法曹といった部門でも改革が始まっている。


しかし一方で、ムハンマド皇太子の手法には懐疑的な見方も存在しており、「暴走」と捉えられる側面も。オイルマネー依存から脱却して抜本的に国の在り方を変えようとする段階においては強硬な反対論が噴出することも当然ではありますが、はたしてどのような国造りが進められるのか興味深いところです。

サウジは、若き皇太子の暴走で自滅へ向かう | 外交・国際政治 | 東洋経済オンライン | 経済ニュースの新基準

http://toyokeizai.net/articles/-/198565