今回は「ランニングシューズ」の蘊蓄100章です(撮影:今井康一)

モノ情報誌のパイオニア『モノ・マガジン』(ワールドフォトプレス社)と東洋経済オンラインのコラボ企画。ちょいと一杯に役立つアレコレソレ。「蘊蓄の箪笥」をお届けしよう。
蘊蓄の箪笥とはひとつのモノとコトのストーリーを100個の引き出しに斬った知識の宝庫。モノ・マガジンで長年続く人気連載だ。今回のテーマは「ランニングシューズ」。あっという間に身に付く、これぞ究極の知的な暇つぶし。引き出しを覗いたキミはすっかり教養人だ。

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01. 「ランニングシューズ」とは長距離走行用にクッション性能や安定性などが設計された専用シューズのこと

02. 戦前、日本のランナーたちは裸足もしくは足袋をはいて走るのが主流であった

03. 1911年金栗四三はストックホルム五輪の予選会出場を控え、足袋店「ハリマヤ」にマラソン足袋製作を依頼

04. この足袋で予選会に出場した金栗は当時の世界記録を27分も短縮し日本人初の五輪マラソン代表となった

05. 翌12年のストックホルム五輪では振るわなかったが、帰国した金栗はハリマヤとマラソン足袋改良に着手

06. 改良されたマラソン足袋は「金栗足袋」と名付けられ日本の長距離ランナーたちに愛用されるようになった

07. 戦後、金栗とハリマヤは足袋の留め具・こはぜをやめシューズ型に進化させた「カナグリシューズ」を製作

08. このシューズをはいて1953年ボストンマラソンに出場した金栗の愛弟子・山田敬蔵は大会新記録を樹立した

09. カナグリシューズが世界に認知される一方、兵庫では鬼塚喜八郎がマラソンシューズの開発・製造を開始する

10. 誕生した「オニツカタイガー」は1956年メルボルン五輪の日本選手団用シューズとして正式採用された

ランニングシューズは、大きく分けて3種類

11. 1964年に開催された東京五輪ではオニツカ製シューズをはいた円谷幸吉がマラソンで銅メダルを獲得


12. 円谷の活躍をきっかけにマラソンブームが起こり市民ランナーも増加。ランニングシューズが定着していく

13. ウォーキングシューズが重めに作られているのに対し、ランニング用は軽量であることが重要視される

14. 横移動のあるバスケットボールやテニス用シューズと異なり、左右の動きを安定させる機能は付いていない

15. ランニングシューズには「安定感」「反発力」「クッション性」「路面グリップ力」という機能が搭載されている

16. シューズの種類は3つに大別され、「トレーニング用」「レース用」「ライトトレーニング用」がある

17. トレーニング用はクッション性が高く、走行時に関節にかかる負荷や衝撃を吸収してくれるタイプ

18. レース用は路面とのグリップ力を高めたもので、足の蹴り出しスピードを速くする効果がある

19. ライトトレーニング用は、トレーニングにもレースにも使用可能な両用タイプのシューズである

20. 他の2タイプに比べてトレーニング用は重量があるため、最初のうちは足が重く感じることもある

21. その重さがランニングフォームを安定させるため、初心者のうちはトレーニング用を選ぶのが賢明だ

22. フォームが定まり、足腰の関節に負担をかけずに走れるようになったらレース用やライト用へと替えていく

23. ランニングシューズの構造で最も重要視されるのが「ソール(底)」と呼ばれる部分

24. 「ミッドソール」はランニング中の衝撃を吸収し和らげる役割を担いEVAという素材が使用されることが多い

25. 「アウトソール」は接地面にあたる部分で、シューズの最下部にあるため最も摩耗しやすいパーツである

26. そのためミッドソールよりも硬い素材が使用され、ランニング中に足裏が滑らないようにグリップ力も持つ

27. このアウトソールが擦れてミッドソールが露わになったタイミングがシューズの買い替え時ともいわれる

28. 「インソール」はサイズ調整やフィット感向上のために、ランナーの足裏にあたる部分に入れる中敷きのこと

29. 一般的には後入れや取り外し可能な中敷きを指し、手持ちのシューズの機能をワンランクUPすることが可能

30. 近年ではランニング中の疲労や足腰への負担を軽減する効果を持ったインソールも登場している

31. 「ヒールカウンター」とはかかと部分を補強するもので、安定したランニングの実現には不可欠なパーツ

32. シューズを履くときはかかとから合わせて履くが、このときしっかりとホールドされることが重要だ

33. 「アッパー」は足の甲を覆う部分のことで、足そのものを保護する役割がある

34. 足のマメや靴内の蒸れを予防するために、多くのモデルで通気性の良いメッシュ素材が使用されている

35. 軽量であることを重視するランニングシューズではアッパーの生地も薄くなるが、その分傷みやすい

靴紐の結び方

36. 「シューレース」とは靴紐のことで、シューズ購入時にすでに通されている場合もあるが自分で再調整が大切

37. 結び方には紐をシューホール(穴)の下から通すアンダーラップと上から通すオーバーラップの2種類ある

38. アンダーラップは微調整がききやすく、オーバーラップは足の甲のフィット感を出したいときに効果的だ

39. 「ラスト」はランニングシューズを作る際の足型のことで、メーカーによって微妙に形状が異なる

40. 人によって合う・合わないが最も顕著な部分だけに、シューズ購入時には必ず試し履きをしてチェックする

41. 「ウィズ(ワイズ)」は足囲を示し、足の親指の付け根から小指の付け根を通ってメジャーを1周させた長さ

42. 自分にあったランニングシューズを見つけるためには、第一に自分の「足の形」を確認しなければならない

43. 自分の足の特長やどの部分に注意して選ぶべきか、シューズ購入前に把握しておく

44. 人間の足の形には「スクエア型」「エジプト型」「ギリシャ型」と大きく3タイプがある

45. 「スクエア型」は親指の長さと人差し指の長さが同程度で比較的横一直線に足の指の長さが揃っている足形

46. このタイプは日本人の約1割といわれるが、つま先部分が細い靴を履くと小指が横方向に圧迫されやすい

47. 日本人に最も多い「エジプト型」は親指が最も長く、小指にかけてなだらかな傾斜を持つ足形のこと

48. 親指のつま先がシューズに当たりやすいため、つま先部分に余裕(捨て寸)を持った靴を選びたい

49. エジプト型の場合、足に合わないシューズを履き続けると外反母趾になりやすい傾向があるので注意が必要

50. 「ギリシャ型」は足の人差し指が最も長く、親指よりも人差し指が飛び出ている足形をいう

51. 日本人の約2割がこのタイプにあたるが、比較的どんなシューズでもなじみやすいため失敗は少ない

女性は小さめ、男性は大きめを選ぶ傾向がある

52. ランニング初心者がシューズ選びで最も失敗しやすいといわれるのが「サイズ選び」である


自分の足の適正サイズを計るには?(写真:Kazpon / PIXTA)

53. ランニングシューズ専門店の市場調査では、女性の多くが適正サイズよりも小さめのものを選ぶ傾向がある

54. 一方、男性は大きめを選ぶ傾向があり、これは靴に対し〈楽に履けること〉を重視しているあらわれともいう

55. 人間にとって歩くことは日常的行為だが、走るという動作は非日常の行為ゆえ適正サイズであることが重要

56. 合わない靴を履いてトレーニングを行うと足の甲の痛みや爪の変色、靴擦れやマメなど故障の原因になる

57. またランニング中に足が痺れるときは、適正サイズより大きなシューズを締め付けて履いているせいである

58. 自分の足の適正サイズを計るには、ランニング時に使用する予定のソックスを履いて計測するとよい

59. ただしソックスによっては足のサイズが5mm近く変わることもあるため、ソックス選びにも注意が必要だ

60. 測定するポイントは「足長(足の長さ)」と「足囲(足の周囲)」の2カ所である

61. 「足長」とは、かかとから一番長い足の指のつま先までの距離を指すが、人によって指は異なる

62. 〈日本人の足は幅広い〉という思い込みが強いが実際には近年の日本人の足形は細くなっている傾向がある

63. ランニングシューズには国内外のさまざまなスポーツメーカーが参入し、メーカー別に特長も異なる

64. 鬼塚喜八郎を祖に持つ「アシックス」は日本人による日本人のためのシューズ開発にこだわる


日本人の足型を徹底的に研究(撮影:今井康一)

65. 日本人の足型を徹底的に研究し、その膨大なデータと経験から生み出されるシューズはプロの信頼も厚い

66. 日本人の足に合うフィット感はもちろんクッション性能の高さも特長で、特に注目すべきは「GEL素材」

67. GELはアシックスが誇る衝撃緩衝材で、スピーバと呼ばれる高反発素材とともにそのクッション性を支える

68. 元来アシックスはシューズ用品メーカーゆえラインナップは非常に豊富で初心者からプロ向けまで手厚い

日本人にフィットする商品が豊富

69. 同じく日本を代表する総合スポーツ用品メーカー「ミズノ」は「ウェーブシステム」と呼ばれるソールが特長

70. ミズノのシューズはよりよい走り心地を追求したスムースライド機能も持ち、走行時の揺れを軽減する

71. ソールに作られた通気口からシューズ内の蒸れを排出するシステムなど複合的に快適さを追求している

72. ミズノもまた日本人向けランニングシューズを中心に開発しており、日本人にフィットする商品が豊富だ

73. 米国ボストンに本拠地を持つ「ニューバランス」は欧米メーカーには珍しく日本人向けの足型を研究・開発

74. それゆえアシックスやミズノと並び、日本人ランナーに高い支持を得ている

75. また1930年代からカスタムによるシューズ製造を行い、足囲によるサイズ選択を可能にした元祖でもある

76. ニューバランスのランニングシューズの特長は「アブゾーブ」と呼ばれる独自のクッション材

77. ランナーが地面から受ける衝撃を吸収するのはもちろん、そのエネルギーを反発させ蹴り出し力に変える

78. 「ナイキ」は戦後の名品・オニツカタイガーにほれ込み、1962年に米国での販売権を取得したことから始まる

79. 米国オレゴンに本社をおく世界的スポーツブランドだが、センスのよいデザインで若年層中心に支持される

80. ナイキのランニングシューズの特長は〈走ることが楽しくなる〉機能をたくさん搭載していること

81. iPhoneのアプリ等でランニングデータを記録可能な「NIKE+」や裸足感覚のソールを持つ「ナイキフリー」

82. カラーバリエーションも豊富だが、日本メーカーのシューズと比較すると横幅が狭いことがある


アディダス(撮影:今井康一)

83. ランニングシューズ分野でも人気が高い「アディダス」はデザイン性の高さと通気性のよさ、そして軽量が魅力

84. 「ブーストフォーム」と呼ばれる〈ばね〉のような新感覚クッション材は前へ前へ弾むように足が進む

85. ブーストの含有率が高いほど強い反発力とクッション性を得られるが、含有率が低いほど安定性は高まる

86. ランニング大国アメリカで専門店における市場シェア1位を誇るメーカーが「ブルックス」だ

87. その理由はオーダーメードのように快適なフィット感を実現したクッショニングシステム「BROOKS DNA」

88. 大柄な男性から小柄な女性まで、それぞれの体格に合わせた最適なフィット感を得ることができる

89. ブルックス最大の特長は〈ランナーの着地時における足の角度〉でラインナップされていること

90. 靴底の減りが均一で着地時に足首の角度がまっすぐ、または自然な範囲で内側に傾く人は「ノーマルタイプ」

91. 靴底の外側部分が減りやすく、着地時に足の回内が早い人は「マイルド・オーバープロネーションタイプ」

92. 靴底の外側の減りがさらに早く、着地時に大きく回内する人は「モデレイト・オーバープロネーションタイプ」

93. この着地時の足の角度からシューズを選ぶことで、フォーム改善にもつながることが人気のポイントだ

94. ランニング業界のプロたちが注目しているのがスイスに本拠地を持つランニング専門メーカー「オン」

95. その特長は「クラウドテックシステム」と呼ばれる爆発的ともいえる蹴り出しを可能にしたクッショニング

96. チューリッヒ工科大学の研究では一般的なシューズに比べ心拍数減少や血中乳酸素濃度減少も見られる

97. オンの革新的技術が生んだランニングシューズは、足元のみならず長距離ランナーの体そのものを支える

ランニングシューズの寿命の目安は?

98. ランニングシューズの寿命は持ち主のランニング距離や頻度で変わるが、〈距離〉を意識しておくとよい

99. シューズの寿命はおよそ800kmといわれ、走行距離が500kmを越えたあたりから新靴の準備をすすめる

100. また同一シューズで毎日練習すると汗などの湿気が蓄積するため、3日間ほどは休ませる時間が必要である

(文:寺田 薫/モノ・マガジン2018年2月2日号より転載)

参考文献・HP/「マラソン完走マニュアル」(ベースボール・マガジン社)、「解剖学でわかるランニングシューズの選び方」(スタジオタッククリエイティブ)、アシックス、ミズノ、ニューバランス、ピントル、フィットネスジャパン、RUNNETほか関連HP