何をしでかすかわからない会社にこそ、投資したくなりませんか?|糸井重里

写真拡大 (全3枚)

20世紀の経済発展において、企業の力は疑いようがない。しかし、資本の期待に応えて成長を目指す企業が、今後、社会的な問題を解決する担い手として存在感を示すことができるか。人の幸せを実現するために資本主義は機能するか。これらの問いを巡って、本連載では、経営者、学者など各界の第一人者とともに考える。

第一回は、ほぼ日社長の糸井重里とCFOの篠田真貴子。2017年3月に上場したほぼ日は、11月26日に初の株主総会を開催した。総会はイベント(株主ミーティング)を含め、8時間半。なぜ彼らは異例ともいえる株主総会を開いたのか?その裏側を聞いた。

株主総会も、会社が提供するサービスの一つ

岩佐:改めて、初めての株主総会お疲れさまでした。株主ミーティングを含め8時間半という長さはまさに前代未聞。総会の議題のみならず、経済学者である岩井克人さんの講演、ピースオブケイク代表の加藤貞顕さんや青年失業家の田中泰延さんとの座談会など、内容面も多彩でした。まず、このような形で株主総会をやろうと思った理由を教えてもらえますか。

糸井:単純に言えば、お金を出してくれている人たちに僕らのことを知って欲しかったんです。建前だけ知ってもらうのは嫌だから、長時間開催すればお互いにボロが出て、つい本音で喋ってしまうでしょう。上場一年目でも株主優待と総会については面白くやりたかったので無茶を言いましたが、株主の人数がもっと少なかったら、みんなで箱根の温泉に行こうと考えていたくらいなんですよ。

篠田:上場直後のインタビューで糸井は「最初は型通りにやる」と言っていたので、私も油断していました(笑)。6月頃に糸井が基本構想を描いて、それにあわせて乗組員(社員)の個性やほぼ日らしさが伝わるコンテンツを出し合ったら、こんなプログラムになっていました。

糸井:みんな大変だったと思います。ただ、僕は苦労するけど面白いことより簡単だけどつまらないことをさせている時のほうが、心が痛むんですよ。

篠田:会社のことを知ってもらうというのは、上場の目的そのものでもありました。知ってほしいことを盛り込んだら、あんなに長くなってしまいましたが(笑)。

岩佐:結果、300人以上を動員した異例の総会となりました。普通は総会に来る株主は全体の3%程度と言われていますが、今回は20%近くに上ったそうですね。

篠田:嬉しい誤算でした。でも、用意していた会場の大きさでは収容できるか怪しかったんです。株主総会の運営を丁寧にアドバイスしてくれた信託銀行の方からは株主の5%以上が来ることはないと言われていたのですが、ウェブアンケートを実施したら400人近くが参加希望だとわかって。1週間でバタバタと整備した結果、おもてなしとしては行き届かない面もあったかもしれませんが、大きなトラブルも起こらずホッとしました。

糸井:篠田はCFOという立場で総会を成立させてくれましたが、実は僕はもっとたくさんの人に来てほしいと思っていました。株主総会は上場会社の義務ですが、僕らにとってはサービス、おもてなしの一つ。会場がパンクしたら公園に行けばいいんだから、来たい人にはみんな来て欲しい。後で怒られるとわかっていても、この考え方を貫くのが船長の仕事だと思っています。僕が頭を下げればどうにかなるのが、小さい会社の良いところですね。


篠田真貴子|ほぼ日最高財務責任者(CFO)

これから投資されるのは、何をしでかすかわからない会社

岩佐:総会では糸井さんが原稿を読み間違える場面もありましたが、全体として株主の方々のほぼ日への愛を感じました。

糸井:僕が思っている以上に、みんながほぼ日に大きなスケールの期待をしてくれている気がします。

岩佐:株主からどういった点を期待されていると思いますか?

糸井:具体的に何なのかはいま僕も考えていますが、何をするのかわからないところではないでしょうか。実は僕らは、株主総会の前日にレオス・キャピタルパートナーズ代表取締役社長でうちの出資者でもある藤野英人さんの運用説明会に行っていました。

岩佐;えっ、株主総会の前日に!?

糸井:はい(笑)。うちに投資してくれている藤野さんが、ほぼ日のことをどのように話されるか興味があったのです。そこですごく嬉しかったのは、藤野さんがほぼ日を良い事業をしている会社ではなく、「この会社はイキイキしているからきっと伸びる」と紹介してくれたこと。

篠田:それを聞いた人が、「この会社の商品はどこで買えるの?」と尋ねてくれて。それで糸井の総会への不安も吹っ飛んだようで。「この質問にはこう答えよう」と暗記しても意味がないと思ったそうです。

岩佐:事業の内容ではなくイキイキしている会社が良いとは、どういうことでしょうか?

糸井:僕が株主だったら、いまはダメでもこれから何をするのかわからない会社の株を買いたいんです。業績が安定しているかどうかで選ぶより、面白そうじゃないですか。

岩佐:何をするかわからない会社?

糸井:藤野さんは同じ理由で、ZOZOTOWNを運営しているスタートトゥデイを褒めていました。あそこも「服を通販しています」と事業内容を紹介するだけではそこまで面白くなさそうなのに、メンバーが楽しそうに働いています。そういうところが、本当の意味での会社の魅力なんじゃないでしょうか。こうした捉え方は、最近どんどんメジャーになっている気がします。

岩佐:事業の魅力より会社の魅力が重要な時代になっているということですか。

糸井:本来的には、ずっとそうだったのではないでしょうか。むしろこれまでは、会社のスペック面が価値を持ちすぎていました。言語化や安全性の計算ばかりが注目されて、面白さが入りこむ余地がなかったんです。株主の方からも、「他の会社の株は儲けるために買っているけど、ほぼ日の株はファンだから買った」と言って頂きました。

実際、ほぼ日手帳はそうやって売れたんです。ファンが知り合いをロフトに連れて行ってくれて、その説明を聞いた横の人がさらに興味を持って……。そうやって応援され続けることで、ここまで成長できたんです。



岩佐:これからも、ほぼ日は何をするかわからない会社なんですか。

糸井:ただ目の前に可能性がたくさんあるのに、いまはリソースが少なくて悩んでいます。それに、僕には欲がないからあたふたしています。そこはいま自分を変えなきゃいけない部分ですね。「スケール」とか平気で言えるようにならないと、手伝ってくれる人に迷惑がかかるのです。まだまだできることはたくさんあります。他社とのコラボもあれば、タダ働きもあるでしょう。

岩佐:タダ働きも事業も、どちらも糸井さんの中では一緒なんですね。

糸井:そうです。だってそれが仕事を作っているわけですから。利益が出る仕事もあればタダ働きでトントンという仕事もあります。みんなにノウハウが乗っかる仕事をすれば、事業につながっていくんじゃないですか。ひとつひとつの仕事を損得の軸で考え過ぎちゃうと、「頭いいね」というだけになってしまいますから。

孫泰蔵さんがMistletoeでやっているインキュベーション事業も面白いですよね。すぐに結果を出せと言われたら、あんなこと絶対できないですよ。

篠田:Mistletoeは、新しいことをやってみようという人たちの梁山泊になっていますね。

岩佐: 3年後あたりに、いまされていることが証明されたらいいですよね。

糸井:でも、証明されなくてもすごいと思います。僕は、田んぼを耕すことをみんなが評価しなさすぎると思っています。すでに人の手が入った田んぼは、何を植えても稲が育つんです。

僕がやってきたのは、田んぼを耕すことばっかりです。今の説明は生まれて初めてしましたが、失敗してもそれは失敗じゃないんだ、という言い方を僕はよくします。失敗したことで、その理由が何なのかわかれば、ノウハウがたまり、後からいろんなことができるようになるんです。

岩佐:土地を豊かにするという意味では、失敗も成功も同じだと?

糸井:なにより人間が育ちますから。

次回は株主総会の中でも特に異彩を放った岩井克人東京大学名誉教授の講演会について。グーグルとほぼ日の共通点からは、これから求められる企業像が浮かび上がってくる。(続く)

糸井重里◎株式会社ほぼ日代表取締役社長。コピーライター、エッセイスト、作詞家として幅広く活躍する。1998年に開設したほぼ日刊イトイ新聞は、1日140万PVのアクセスを集める。

篠田真貴子◎株式会社ほぼ日最高財務責任者CFO。日本長期信用銀行(現・新生銀行)、マッキンゼー・アンド・カンパニーを経て、2008年より現職(当時社名・東京糸井重里事務所)。