綾香グランドグループ グランドオーナー 天正知子さん。CAから転身し、今では23人のショップオーナー、マネージャーを束ねる。

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2017年1月に発売したシワを改善する美容液「リンクルショット メディカルセラム」が大ヒット。業績絶好調のポーラは、かつての「ポーラレディ」にあたる人材の育成に力を注いでいる。その狙いはどこにあるのか――。

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ライフイベントと両立しやすい「雇われない働き方」とは
▼ポーラの現状
・ビューティーディレクターを13万人から4.2万人に減らし、教育を集中。
・ショップを任せられるようなマネジメント人材の育成が急務だった。

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ポーラの化粧品を販売するポーラレディは、女性がライフスタイルに合わせて働ける1つの選択肢になってきた。彼女たちはポーラの商品を業務委託で販売する個人事業主。実は「雇われない働き方」を実践しているのだ。

歩合制で収入は不安定である一方、働く時間は自分で決められるので、ライフイベントと両立しやすい。同社は長年、そうしたポーラレディに対して、自由度だけではなく、働きがいを高める策も進めてきた。1つが昇格だ。30年前、ポーラレディをまとめる支店長(現グランドオーナー)は9割が男性だった。徐々に優秀なポーラレディを支店長に引き上げ、今はグランドオーナーの大半が女性に代わった。

十数年前まで主流だった訪問販売も、だんだんと店舗誘客型に代わり、個人からチームで仕事をする環境に変化した。現在は「ポーラ ザ ビューティー」をはじめとする全国約4600店の店舗があり、スタッフが助け合いながら化粧品の販売やエステサービスを行う。

実はポーラレディの呼称もなくなり、今は「ビューティーディレクター(BD)」と呼ぶ。BDは美容のスペシャリストで、BDの上に立ち店舗を経営するのがショップオーナー(以下、オーナー)とマネージャー。複数のオーナーとマネージャーを統率するのがグランドオーナーだ。グランドオーナーはお店を複数取りまとめる経営者的ポジションで、いわば“一国一城の主”である。

大阪・梅田から地下鉄で南に40分ほど行くと、堺市のなかもず駅に着く。駅にほど近い住宅街に「ポーラ ザ ビューティーなかもず店」がある。扉を開けて招き入れてくれたのがグランドオーナーの天正知子さん。オーナーとマネージャーを合わせて23人を指揮するスゴ腕だ。

天正さんとポーラとの出合いは今から十数年前にさかのぼる。元は航空会社のCA。3年ほど正社員として国際便に乗り、結婚を機に退職して3人の子どもを育ててきた。1番下の子どもが2歳になったとき「もう1度働きたい」と契約社員でCAに復帰。月2回、1泊か2泊のフライトに出るようになった。

社会復帰に手ごたえを感じたものの、正社員になれる見込みがない。掛け持ちできる仕事を探していたとき、大阪狭山市でオープンを間近に控えた新店のオーナーにリクルートされた。

「一回り年上の方でした。自分のお店を持てて、お客さまと長いお付き合いができるという話に魅力を感じました」

まだ訪問販売中心の時代。初めてドアチャイムをドキドキしながら押した。出てきた女性は「娘がシミを気にしているの」と言う。翌日、スキンチェックのために再訪し、お客さまになってもらった。

「なんて面白い仕事だろうと思いました。CAのお客さまは会社のお客さまですが、ポーラでは自分のお客さまができて、自分の説明で商品を買っていただけ、それが収入になるのです」

しかしそう簡単に業績は伸びない。「向いていないな」と何度も思った。

「最初は、半年頑張ろう。半年たつと何人かお客さまができたので、お客さまのためにもう少し頑張ろう。そのうち訪問先で興味があるとポーラに入ってくれた人がいて、その後輩のためにもう少し頑張ろうという気持ちでした」

4年が過ぎ、ポーラ ザ ビューティーのオーナーに挑戦することに。

ところが最初から波乱含み。新店では、大阪狭山市から堺市に職場が移る心配や、歩合制への不安で、オープン早々1人を残し、主力メンバーが辞めてしまったのだ。もう1度、リクルートし直した。始めて3年間は人間関係がギクシャクした。

「私は店を守るために必死でやっていたので、頑張れない子がいると、なんで頑張れへんのと思ってしまいました。言葉には出しませんが、やっぱり心で思っていることが伝わってしまう。すごく嫌われました。人の上に立つとこんなに嫌われるのかというくらい(笑)」

1度は、嫌われても人が育つならそれでいいと割り切った。しかし1人で育てることに限界が来る。スタッフの中で1番力があると見込んだ人にマネージャーを頼み込んだ。

最初は「私はマネージャーになんかなりたくない」と抵抗された。話し合いを重ね、何度もけんかしつつも最終的にリーダーになってもらった。そのスタッフがマネージャーに。すると「一緒にお店をよくしていきましょう」と今まで聞いたことのない言葉を口にした。

「人を束ねる立場になると、こんなに人は成長するんやなと驚きました。スタッフをマネージャーに育てるのが自分の仕事だと思いました」

2013年、天正さんは業績やマネジメント力が評価され、グランドオーナーに昇格する。天正さんが育てたスタッフがオーナーになり、そのオーナーがスタッフを育てる。

「家族が増えていく感じ。私はひいおばあちゃんくらい」と笑う天正さんの目はさらに先を見る。

「今後の私の役割はグランドオーナーを育てること。ポーラは歴史があり、その中でお客さまへの愛情とか、人を本気で育てようとする風土が受け継がれています。私もそれを次の世代に引き渡すのが仕事かな」

■登録わずか2年で、お店が持てる人も

天正さんが店を持つまでには4年半がかかっている。決して遅いわけではないが、ポーラは直接雇用しているわけではないものの、オーナーやBDの養成・研修に積極的に投資。昨年、そのスピードを一気に上げ、オーナーを1年半〜2年で養成する「ショップオーナー養成コース」を導入した。兵庫県・姫路駅から車で10分ほどの姫路南店で働くBD、渡邊めぐみさんはそのコースで鍛えられている真っ最中だ。

2016年6月にBDになったばかり。大学を卒業し百貨店の美容部員を振り出しに、社会に出て10年が過ぎ、転職を考えていたとき、姫路でただ1人のグランドオーナー、満田百合子さんから声をかけられた。それもいきなり「このお店をやってもらいたい」と熱烈な誘いだ。

「ずっと昔、祖母がポーラの仕事をしていたので懐かしいなという気持ちがありましたし、美容には興味を持っていました。でも個人事業主なので安定がないのが心配でした」

その気持ちを満田さんに率直に話すと、「定年がないのよ。会社に勤めて60歳で定年になったらどうする?」と言われ、腹を決めた。

目下、BDとしての技術向上と、オーナーになるためのマネジメントの勉強、スタッフの育成と、目まぐるしい日々を送る。

「スタッフには、ちょっと先を行く先輩として、お客さまにはこうして差し上げたほうが気持ちいいんじゃないかとアドバイスしながらも、私自身が新人ですから助け合って仕事をしている感じです」

短期間でオーナーにチャレンジすることは容易ではない。だが、職場に同じコースに挑戦する後輩がいるので心強い。

「昔、美容部員をしていたときの後輩です。私がポーラで働くときに彼女も転職を考えていたので、一緒にやってみない? と誘いました。自分が働きたい人と働けるので、この仕事っていいなって思います」

オーナー養成コースに入って10カ月がたち、渡邊さんには新たな目標が生まれてきた。

「後輩と一緒に姫路駅前に新店をオープンさせたいんです。駅前でイベントを開催すると、『近くにポーラのお店はないの?』と、よく言われます。だから駅前にお店を出し、ポーラの知名度を上げたい」

駅前出店のためには、まず渡邊さんがオーナーに認定されるほかに、格好の物件を見つけるなどさまざまな条件をクリアする必要がある。それらがトントン拍子で進めば来年前半にもオープンできるという。

■内心に訴えかけ、女性の可能性を開く

オーナー養成で重視するのは早さだけではない。人材開発部 オーナー・BD育成チームの吉田彗さんは、「自らオーナーになりたいと思う人が永続的に成長する」と言う。

ポーラはもう何十年もの間、月間で一定の業績を満たすBDを対象にオーナーのマインドを醸成する「ショップオーナー候補者研修」を開いてきた。一緒に働く仲間を増やす魅力を伝え、BDのリクルート方法のロールプレーイングを主軸に置いた研修だ。ところが実際にオーナーになるとモチベーションが下がる人がしばしば見受けられた。

「オーナーとBDは感情的なつながりが強く、オーナーやグランドオーナーから『あなたもオーナーになって』と言われ、研修を受け店長になったものの、気持ちが続かないことがあったのです」

周りから言われる外発的動機には限界がある。自らが店長になりたいと心底思う内発的動機こそが大切なのだ。そこで昨年から内発的動機を大切にする研修に切り替えた。対象者の参加資格も、ダブルワークではなくBDに専念しないとクリアできない条件に上げた。

「研修では外発的動機に訴えるメニューは外し、人として、女性としてのありたい姿を考えてもらうメニューを中心に据えました」

研修では3日間を使って自分と向き合い、「なりたい姿」をとことん考える。吉田さんたち研修スタッフは、キャリアビジョンを描く大切さは説いても、答えは示さない。

「3日間が終わってもモヤモヤしたまま帰る人が半分います(笑)」

それでも、旧研修を受けてオーナーになる人は4人に1人だったところ、新研修では2人に1人がオーナーになるというから効果は出ている。今期は182人が受講した。

■女性の地位向上が、日本を元気にする

オーナー養成コースや刷新したオーナー候補者研修に思いのたけを込める人がいる。コースの創設を主導した取締役(トータルビューティー事業担当)の及川美紀さんだ。

「実力十分のBDに『オーナーやりませんか?』と言うと『私なんて無理です』と答える人が多い。女性ってそういうところがあるでしょ」

従来、BDは技術を高め、お客さまを増やし、さらに増やした先にオーナーがあった。だから今の仕事に精いっぱいのBDには、オーナーになるイメージがわかなかった。

「BDの中から優秀な人が出てきてオーナーになるという偶発的な育成ではなく、BDになるときにオーナーを視野に入れてBDの可能性を広げたいと思いました。お客さまが1人もいない段階からのオーナー養成コースです(笑)」

ただしBDの技量を極限まで高めたい人も大切にしたいから、「トップBD」の称号を設けて目指す道をつくった。

さらに、1人の女性が地域に影響を与えるリーダーとして成長できるようサポートする「女性起業家育成プログラム」を始めた。

「私は入社以来26年間、オーナーと付き合う中で本当にこの人たちはすごいなと思ってきました。BDに対して自分のノウハウを出し惜しみせず教えます。日々、ショップを切り盛りするだけでなく、5年後に組織をつくるような視点で働いてほしい。女性を引き上げるのは私の使命であり、ポーラの使命です」

近年、続々と生まれる優秀なグランドオーナーやオーナーはポーラ本社に大きな刺激を与えている。昨年、代表に就任した横手喜一社長は真っ先に1番大きな組織のグランドオーナーに会い、100人以上のオーナーをまとめるリーダーがどんな価値観で仕事に当たっているかを尋ねた。

「トップダウンや押し付けではなく、個性を引き出し、やる気をどう高め、やりがいをつくるかに心を砕いていました。そこにポーラという組織の可能性を感じました」

BDの世界は、昔の訪問販売スタイルの個人戦から、店舗で働く多様なメンバーの個性を活かす団体戦に変わっている。チームワークが良く一体感のある店舗はお客さまもその雰囲気を好ましく感じ、実際に業績が伸びている。

「本社のほうが大幅に遅れている。本社も硬直した縦社会から共創をベースにした組織に変わらなければ、市場の変化についていけません」

横手社長は、本社の組織改革の参考にしたいと評価するグランドオーナーたちを、組織の外でも輝かせたいと考えている。

「女性が活躍するには、リーダーとなる人がポーラの中だけでなく、地域で、日本全体で評価されるよう、社会的なポジションをつくっていかないといけない。そのためにはポーラが地域の雇用や女性活躍に貢献できるよう自治体に働きかけるのも1つの方法です。世の中に貢献できているという気持ちが、女性の働くモチベーションをさらに高めます」

横手社長の話に及川さんも続く。

「グランドオーナーは女性をマネジメントする力にたけています。女性リーダーのモデルがうちにはたくさんいるので、育成の参考にしてもらえれば、社会に貢献できると思います」

組織に貢献する人から社会に貢献する人に。BDからオーナーに、オーナーからグランドオーナーにステップアップする魅力がさらに大きくなる。

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▼訪問販売を進化させショップ型経営へ
「ポーラレディ」による訪問型から店舗誘客型に販売スタイルが変化。その結果、個人からチームで仕事する環境になり、マネジメントの重要度が増した。
●訪問販売
ポーラの創業以来続く、お客さまを直接訪問する販売スタイル。
●エステイン
エステサービスとカウンセリングを行う小規模なショップ。住宅地も含め、全国各地に出店。
●ポーラ ザ ビューティー
統一された外装・内装のサロン型ショップ。商業施設、主要都市の中心部などに出店。
 

▼女性起業家リーダー開発プログラム
2017年1月に開始したプログラムで、ポーラで高い成果を出しているハイパフォーマー分析から導き出した「人材開発プログラム」で、社会で求められる女性リーダーを輩出することを目指す。
●リクルート
企業説明会「リクルートフォーラム」の充実で、ショップオーナーやグランドオーナーを目指す起業家マインドを持つ人材との接点を増やす。
●ビューティーディレクター教育
教育プログラムや活動評価内容の改定など、プロフェッショナル育成、ショップオーナー誕生を促進する制度・教育コンテンツを見直した。「ショップオーナー養成コース」も。
●女性リーダー育成
ショップオーナーからグランドオーナーまで、組織拡大過程におけるリーダーの必須要件、コンピテンシーを明確化し、ポーラの人材開発部が直接教育を実施する。

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(大下 明文 撮影=市来朋久)