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航空機に限らず、移動するものはみんなそうだが、「航法」という問題がついて回る。わかりやすく言えば、「今、どこにいて、目的地に向かうにはどちらに進めばいいのか」という問題である。その航法と、関連する話題として管制の話題を取り上げてみたい。

○現在位置を知る手段 : 地文航法

まず「私は誰、ここはどこ?」の話から。

筆者は国際線の飛行機に乗ると、いつも映画やオーディオは無視して、目の前の画面は地図表示にしている。今、どの辺りを飛んでいるのか、目的地までどれぐらいの行程が残されているのか、といったことをすぐに把握したいからだ。

飛行機の性能が低く、陸上を昼間に飛行することしかできなかった時代には、地文航法で用が足りた。つまり、眼下の地形やさまざまな目標物を基にして、現在位置を知る方法である。

地図を見慣れた方なら、「そんなの簡単」と思われそうだが、実際にやってみると意外と難しい。筆者は国内線の飛行機で東北地方の上空を飛行した時に、眼下に並ぶ山では、まるで現在位置の把握ができなかった。富士山みたいに、外見に特徴がある独立峰なら話は別だが。

そこで代わりに使った方法がスキー場だった。スキー場は山の斜面に設けてあり、コースの形に合わせて樹木を伐採してあるから、上空から見るとコースの形、向き、配置が一目でわかる。それを、頭の中にあるゲレンデマップと照合するわけだ。

また、昔は「航空灯台」というものがあった。艦船が航行する際に灯台を参考にして位置を出すことがあるが、それと同じように、飛行機に向けて光を出して目印とするものである。

ただ、こういう手が使えたのは昼間で視界が良く、しかも地表が見えるぐらいの高度を飛んでいたからだ。夜間、悪天候、あるいは雲上飛行では、下を見ても何もわからない。つまり地文航法は使えない。洋上飛行についてはいわずもがなである。

○現在位置を知る手段 : 推測航法

飛行機だけでなく船舶でも使う方法だが、推測航法という手がある。どこから出発したかがわかっていれば、そこを基点として、進んだ方向、速度、経過時間を基にして現在位置を推測できる。

この3つのデータがそろっていれば問題なく精確な位置を出せそうに思えるが、そうは問屋が卸さない。風で流されることもあるし、第43回で書いたように、対気速度計の数字と実際の対地速度は同じではない。そして地球は球形だから、真っ平らな場所を移動する場合と比べると計算が複雑になる。

そういう事情により、推測航法は大雑把な参考データを得る手段にはなっても、精確な測位の手段としては物足りない。

○現在位置を知る手段 : 天測

そこで登場したのが天測。六分儀を使って、特定の星の位置を測る。いつ、どの場所からどの星がどの辺に見えるかというデータは事前に用意できるから、それに基づいて作成した表と、自分が測定した星の位置に関するデータを照合する。

第2次世界大戦中の爆撃機をはじめとする大型機を見ると、屋根の上に透明なドームが突き出していることがある。これは、航法士がここから頭上の星を見て、位置を測るために使用する場所だ。

戦後でも、アストロトラッカーといって、天測を自動的に行う機械を備えていた飛行機がある。これがあれば航法士が乗っていなくても天測ができる。不慣れな航法士訓練生だと位置を出し間違えることがままあるらしいが、アストロトラッカーなら大丈夫だ。

ただ、天測は星が見えないと使えない。地文航法とは逆に、雲の下を飛んでいると使えない方法である。雲中飛行だと、地文航法も天測も使えなくなるので最悪だ。

ちなみに、飛行機ではなくミサイルの話だが、現在位置を割り出してコースを修正する手段として天測を使っている事例がある。米海軍の潜水艦発射弾道ミサイル、UGM-133トライデントIIがそれだ。

○現在位置を知る手段 : 電波航法

このように、飛行機の機上だけでなんとかしようとしても限界があるため、陸上に航法支援施設を設けようという話になった。相手は飛んでいる飛行機だから有線というわけにはいかない。無線を使用する必要がある。

電波航法機材が登場して、かつ進歩したのは、第2次世界大戦中のこと。夜間爆撃を行う爆撃機のために、航法支援手段が必要になったのだ。もちろん、爆撃機は戦闘機と違って航法を担当する航法士が乗っているが、夜間だから地文航法は使えないし、推測航法だけでは頼りない。天測も、お天気次第のところがある。そして、敵地に入れば灯火管制をしているから、いまいる場所の下が市街地なのか山岳地帯なのかはわからない(そのために灯火管制をするわけだが)。

そこで登場したのが電波による航法支援手段。例えば、自国内の異なる2カ所から、爆撃目標となる町の上空に向けて電波を出す。それぞれ電波に変調を行い、例えば異なる種類の音を載せておく。すると、片方の電波の音調しか聞こえない場合と、両方の電波の音調が聞こえる場面ができるので、それによって爆撃目標の上空にいるかどうかを判断する。

戦後に民間でも広く使われるようになった、LORAN(Long Range Navigation)をはじめとする双曲線航法も、ルーツは第2次世界大戦中の航法支援手段にあるといってよい。航空機だけでなく、船舶にとっても利用価値があるので、GPS(Global Positioning System)が普及するまでは多用されていた。

こうした無線航法支援手段を利用するには、機上に専用の受信機を必要とする。システムが高度に、複雑になると、それを取り扱う航法士に対する訓練も課題になった。1つの解決策として、熟練した航法士が乗った爆撃機だけで編成する嚮導部隊を編成する手がある。その部隊が最初に目標を爆撃して火を点ければ、後続の部隊はそれを目印にできるというわけだ。

なお、軍用だと敵国に妨害される可能性も考えなければならない。実際、ドイツがイギリスに夜間爆撃を仕掛けたときには、イギリス軍はドイツ軍の無線航法支援手段をせっせと妨害していた。逆に、イギリス軍がドイツに夜間爆撃を仕掛けるようになると、今度はドイツ軍がイギリス軍の無線航法支援手段を妨害していた。お互いさまである。