経済学を「教養」として学び直すだけでは、真に有効な知的戦闘力にはつながらない。ビジネスパーソンが戦闘力を上げるために学ぶポイントは、「競争ルール」と「モノの価値」のメカニズムを知ることだ。MBAを取らずに独学で外資系コンサルタントになった山口周氏が、知識を手足のように使いこなすための最強の独学システムを1冊に体系化した『知的戦闘力を高める 独学の技法』から、内容の一部を特別公開する。

競争に勝ち続けるためにマーケットの原理を知る
――市場がビジネスというゲームのルールを規定している

 経済学を学ぶ意味について、世の中一般でよく言われるのは「社会人としての常識だから」とか「世の中の仕組みが理解できるから」とかといったことですが、私自身はそうした「教養としての経済学の知識」について、その有用性を否定はしないものの、副次的なものでしかないと感じています。

 ことビジネスパーソンが「知的戦闘力を上げる」という目的に照らして、経済学を学ぶことの意味を考えてみれば、そこには大きく二つのポイントがあります。

 一つは、「経済学」が研究対象とする「経済」や「市場」が、ビジネスというゲームの基本ルールを規定しているということです。

 ビジネスには当然ながら競争という側面があるわけですが、ではその競争の「ルール」は誰が規定していると思いますか?公正取引委員会?それは不当な競争をするプレーヤーを摘発するのが仕事で、別にルールを規定しているわけではないですよね。

 実は、ビジネスにおける競争のルールを規定しているのは市場なんです。市場という、人間が生み出したものが、人間とは別に勝手にルールを生み出してしまう。そしてこのルールに人間は縛られるわけです。これをマルクスは「疎外」と呼びました。

 疎外という言葉は聞いたことがあると思いますが、別にそんなに複雑な概念ではありません。人が作ったものが作り主である人から離れて、よそよそしくなってしまうことです。

 したがって、市場がどのように振る舞うかを知ることが、ビジネスのルールを理解する上では大変重要だということになるわけですが、この「市場の振る舞い」を研究しているのが経済学という学問なんです。こう考えるとビジネスパーソンが経済学を学ぶ意味がよくわかるでしょう。

 ハーバード大学にマイケル・ポーターという先生がいます。この人は『競争の戦略』という、競争戦略の定番テキストを書いたことで大変有名ですが、この『競争の戦略』という本は、基本的に経済学の、それも産業組織論の枠組みを用いて書かれています。

 マイケル・ポーターという人は、元々経済学で博士号を取っています。経営戦略の大家なので経営学の博士だと思っている人が多いと思いますが、そうではないのです。

 経済学では厚生の最大化を目指します。簡単に言えば、市場に健全な競争が行われて、誰もが良いものを安く買えるような社会を「良い社会」と考え、これを阻害する要因を排除することを考えます。

 つまり、どのようにすれば1社が独占的に市場を支配し、新陳代謝が起こらないような状況を避けられるかということを考えるわけです。しかしこれをひっくり返してみて、市場に参加しているプレーヤーの側から考えてみるとどうなるか。

 1社が独占的に市場を支配し、新陳代謝が起こらないような状況というのは、まさしく理想的な状況なわけです。

 つまりポーターという人は、経済学でずっとやってきた研究を裏返しにして、それをそのまま経営学の世界に持ち込んだということなのです。

 このような事実を知れば、いかに経済学を学ぶことが、ビジネスの世界における知的戦闘力の向上につながるかがわかってもらえると思います。

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