改修が終わったロンドンブリッジ駅の構内には「ご不便をかけました」と詫びる駅の看板が。クレーンでティーバッグを引っ張っている(筆者撮影)

「ここってあの気持ち悪いお化け屋敷があったところだろう?こんなピカピカな駅になるとは……なんてアメージングなんだ!」

お正月休み明けの1月2日にオープンしたロンドンブリッジ駅の新しいコンコース。筆者とともに電車を待っていた会社員、ポールさんがそうつぶやいた。

新たなコンコースは鉄道駅というよりむしろ、ハブ空港の出発ロビーという雰囲気だ。ガラス張りのエレベーターが並び、何本もの長いエスカレーターがコンコースからホームへと延びている。

同駅の運営会社で、英国の鉄道インフラ整備を一手に引き受けているネットワークレールはこの新しいコンコースについて「(イングランドのサッカーの聖地である)ウェンブリーのピッチより広い」と自慢。ショップや飲食施設が入るスペースは改装前と比べ10倍に広がった。

同社は、ロンドンブリッジ駅をはじめとする直営の17駅にショッピングとグルメスポット機能を持たせ、新たな収益の柱にしようとしている。日本ではすでに「エキナカビジネス」ということばが定着し、構内ショップの充実が著しいが、果たしてイギリスではどんな方向に向かっているのだろうか。その状況を追ってみよう。

改装でお化け屋敷も追放

ロンドンブリッジ駅は、ロンドン南郊外と市の中心部を結ぶターミナルとして、毎朝たくさんの通勤客が降り立つ。駅の乗降人数では国内4位だ。ベッドタウンが郊外に次々と生まれる中、旅客需要に駅施設の容量が耐え切れなくなり、コンコースの新設を含めた抜本的な解決を迫られていた。


かつてロンドンブリッジ駅ガード下にあった「恐怖の館」ロンドン・ダンジョン(Photo / from www.CGPGrey.com)

そうした中、改装に向けた地元自治体からの承認を2011年に取得。その後、2013年春に着工し、4年以上の年月をかけてようやく新しい駅コンコースの完成にこぎつけた。

コンコースはもともと高架ホームの橋脚だった部分へ新たに造られた。ガード下にはかつて一般のお店のほか、「恐怖の館」として観光客の人気も高かったお化け屋敷「ロンドンダンジョン」があった。駅の入口で客引きに立つ“お化け”を記憶している市民も多い。しかし、2013年には駅改装に伴い、「恐怖の館」もガード下から追い出される格好となった。

ネットワークレールによると、ロンドンブリッジ駅の改修は、対応できる旅客容量を改装前と比べ3割増やすために行われたものだ。投入予算も単一駅の改装では過去最大となった。


ロンドンブリッジ駅周辺は過去10年に大規模な開発が進んでいる。高層ビル・シャードはEU加盟国では最も高い(筆者撮影)

今年5月には新しい施設をフル活用したダイヤに改正されるが、その際には市内を縦断する鉄道・テムズリンク線の列車が同駅に立ち寄るようになる。日立製作所が手掛けた高密度ダイヤに対応可能な運行管理システムが導入されることもあり、ピーク時には2〜3分間隔で運転される見込みだ。

改札内にはすでにカフェやドラッグストアが設けられているが、改札外には食品スーパーが新たにオープンする。一方で、駅周辺の中小企業への配慮も行っており、「もし、地元市民がお店を開きたい場合は家賃の補助あり」というスキームを打ち出した。改装前の駅通路には、地元の人が開いた小さなコーヒースタンドもあったが、今回の新コンコース誕生を機に一掃されてしまった。こうした経営者が順次、新しい施設に戻ってくることを期待したい。

「ハリポタ」の有名シーンを再現

ネットワークレールによると、直営17駅に付設されているリテール施設からの売り上げは5年半続けて伸びており、昨年は過去最高の7億5000万ポンド(1143億円)に達したという。

キングスクロス駅は、ロンドン北部のターミナルの一つで、スコットランド方面に延びる東海岸本線(イーストコーストメインライン)の起点だ。ここに2012年、従来の伝統ある建物の西側に、斬新な現代建築の粋を集めた待合施設及びショッピング&グルメスポットを新たに開いた。これにより、同駅の売り上げは改装前と比べ2〜3倍に伸びた。

キングスクロス駅では施設増設を機に、世界中から注目を浴びるスポットを新たに設置した。あのハリー・ポッターが同駅にある架空のホーム「9と4分の3番線」に向かう際、カートを壁にぶつけるシーンを再現できるスポットだ。カートが半分だけ壁にめり込ませてある一角には、映画のシーンを再現してカメラに収めようとする観光客でつねににぎわう。家族連れのお財布にも優しいように、同駅のグルメスポットには、値が張るハイエンドなレストランでなく、ややレベルは高めではあるものの、ファストフード店が並んでいる。

ネットワークレールでは昨年、パディントン駅の一角にショッピング&グルメスポットを増設した。パディントンといえば、言うまでもなく絵本「くまのパディントン」の舞台だ。同駅もある種の訪英客にとっては「ロンドンで訪れたい観光スポットの一つ」となっている。1番線ホーム横に置かれた「くまの銅像」、そして公式グッズストアへは観光客がひっきりなしに訪れている。

紹介した2つの駅はいずれも「駅の観光地化」が進んでいる例と言えようか。列車に乗る用事がないのにわざわざ駅を訪れて、施設におカネを落としてくれる客層がいるのは興味深いことだ。


クリスマスの大規模な運休で最後の仕上げが行われた。看板の後ろには37台もの改札機がずらりと並ぶ(筆者撮影)

しかし、ロンドンブリッジ駅にはこうした観光スポットになる要素はない。ロンドンブリッジ自体は童謡『ロンドン橋落ちた』で知られているが、さすがにロンドンブリッジ駅にはハリー・ポッターほどのインパクトはないだろう。

ただ、同駅を利用する人の流れを考えてみると、これまでのロンドンのターミナル駅とは少々違ってくる可能性もある。従来のナショナルレール(旧国鉄)利用客は、地下鉄などの都市交通機関でターミナルへ来て、そこから郊外行きのナショナルレールの電車に乗り換えるという動きだった。

ロンドンのターミナル駅はどこも行き止まり式ホームとなっており、ホームへの入口に改札口があり、店舗はコンコースにのみ設けられている。このような従来の駅の構造と比べると、ロンドンブリッジ駅の構造は地元の通勤客には目新しいものと映るだろう。

トレンドに合った店は生まれるか

ところがロンドンブリッジ駅には今後、テムズリンク線が乗り入れるほか、市内中心部の主要駅とも直結する。そのため、改札内での乗り換え客が従来よりも相当増えることが見込まれる。駅内の施設には「帰りにちょっと買い物」という会社員たちによる利用が期待できよう。


改札内スペースには今後、ポップアップショップが増えるかもしれない(筆者撮影)

イギリスのショッピングモールや空港では、需要が高まってくると屋台店のようなポップアップショップやワゴンカフェなどを次々と追加し、人々のニーズに対応する。ロンドンブリッジ駅にも「サッカーのピッチより広いスペース」を使って、その時のトレンドにあったユニークなお店がいずれ現れることだろう。イベント的な要素も持った柔軟性のある出店方法は利用者の目を日々楽しませることだろう。

長年にわたって鉄道利用者だけでなく周辺住民にもさまざまな迷惑をかけながらようやく完成した駅施設は、人々にどんな効果をもたらすだろうか。少なくとも「“お化け”がいたときのほうが活気があった」と言われないような進化を目指さないといけない。