トランプ大統領のアジア歴訪の際には、安倍総理の蜜月ぶりが連日報じられていましたが、「トランプのアジア歴訪は北朝鮮に圧力をかけるための政治的威力偵察」との見方を示す専門家もいます。では実際、米国と中国の動きはどのような意味を持つのでしょうか。今回のメルマガ『国際戦略コラム有料版』では著者の津田慶治さんが、「米中貿易戦争が起こる」と前置きした上で、「トランプは中国の勢力拡大と北の脅威を利用して日本に武器を売りつけようとしている」との持論を展開しています。

世界の構図を壊す米国と中国

前回の世界の構図では、グローバルとローカルに分断しているとしたが、この構造を壊し始めているのが、中国と米国である。これを検討する。             

中国とロシア

各国経済からグローバル企業が世界で活動することで、世界は経済的に一本化の方向であり、この経済統合で人的な移動も加速して、グローバルとローカルに世界は分断している。

しかし、米国経済と一体化を目指した中国経済は、逆に中国を中心とした経済構築で、グローバル経済に対応するようになってきた。

中国もロシアも国家経済の中心は国営企業であり、この国営企業を一帯一路などの構想に組み込んで活性化し、経済規模を大きくした。

この成功で、米国のグローバルIT企業を中国から追い出して、中国IT企業を育成し、米国のグーグルやアマゾンなどグローバルIT企業に対抗してきた。しかし、その株式総額は、今や米国企業以上になっている。テンセントやアリババなどである。技術力もファーウェイなどを育成して、IT企業が国家運営上でも重要になっている。

また、インターネットの国際接続を制限している。グローバル化になったのは、インターネットのおかげであり、それを拒否していることで、自国民から世界の情報にアクセスできなくして、国家統制できる体制を築いている。

逆に国民を監視するためにインターネットを活用している。顔認証などを発展させて、国民監視を徹底する方向だ。そして、米国などの海外で活躍している優秀な中国人IT技術者を呼び戻している。

ロシアは石油依存経済であり、その石油会社を国営化しているし、民間企業がワイロ等の要求で発展せずに石油国営会社がロシア経済を支えているが、経済発展がない。

このため、日本の民間企業をロシアに導入して、経済の立て直しを図りたいようである。

遅れて来た中国とロシアがグローバル化を押しとどめる方向であるが、多くの新興国・発展途上国も独裁政治になっているので、中国の国家統制システムに魅力を感じている。

中国の思惑

このため、中国の国家統制経済を世界に広める方向である。人民元の大量発行で、本来なら人民元は元安になるところを、ドルとのリンクを維持して元が高い。このため大幅な貿易黒字で世界に投資できるほどである。

この中国の投資を期待して、フランス・ドイツなど西欧は、本来グローバル世界の一員であるはずが、中国に靡いているし、東欧のポーランドなどは、中国経済の出先機関のようになっている。一帯一路で貨車便が定期的に運行して、中国製の製品が安値で欧州全土に行き渡り始めている。そして、欧州の高級な製品を中国国民が買っているので、中国の影響力を欧州経済が強く受けている。

その集積地としてポーランドがなっているので、まるで中国の出先機関と言えるような状態である。

中国は欧州に多大な投資をして、フランスやドイツと経済同盟化を進めて、人権問題などの国家統制経済を認めさせている。フランスは、日本の死刑執行を非難するが、中国の死刑執行を非難しない。

このように、中国は国家統制経済を世界に認めさせようとしていたが、それが事実上できて、次の段階を目指している。国家統制経済そのものの仕組みを輸出する方向である。

米中貿易戦争に

米国は、グローバル経済の中心であったが、それにより貧富の差が拡大し、白人労働者が苦難になっているとして、グローバル社会の構造を崩そうとして、移民制限や技術者のH1Bビザ発給の制限をし始めた。もう1つが、製品輸入を制限するために、貿易赤字国からの製品などに相殺関税として、相当な高率な関税をかけ始めた。

中国に対しても、北朝鮮への制裁をしないとして高率な相殺関税を掛け始めようしている。しかし、中国は米国債の追加購入を止めるし、もしそれでも相殺関税をするなら、米国債を売るという脅しを掛けている。

このため、米国金利が上昇して円高になっている。金利が上昇すれば、円安になるのが常識であるが、米中貿易戦争になり、米国の国力が下がると、市場はみているのであろう。

中国は欧州を味方につけて、米国の孤立化を狙っているので、米国のアメリカ・ファースト政策は、中国の勢力拡大に願ったりの政策となっている。

欧州もアメリカ・ファーストで欧州製品に相殺関税を掛けるなら、対応処置をとることになる。トランプ大統領は、米国孤立政策で、米国が消費するものは米国で生産すると公約したので、それを実現するだけである。米国版地産地消経済を目指しているのだ。

要するに、米中の政治家はローカルでしか物を考えないことで、危機を作り出している。この政治家を選ぶのは、ローカルにいる国民であり、どうしても反グローバルになる。

グローバル社会を動かしてるのは、多国籍企業やジャーナリストたちであるが、米国も中国も国単位で動こうとしているようである。

世界の2大国の動向から、世界はグローバルからローカルに逆転する可能性もあると思う。世界の貿易は拡大から縮小に向かい、各国で必要な需要分は、自国で生産する方向になる。地産地消経済が世界に拡散することになる。

3Dプリンターなどの工作機械も出てきて、製造が昔に比べて楽になっていることも大きい。地産地消経済を支える技術ができているということである。

日本の政治状況

トランプ公約のために、日本企業の米国進出を促している。日本との貿易赤字は、製品を米国で作り縮小させて、残りの分を米国産兵器や米シェールガスを日本が買うことで相殺させるようだ。

とうとう、日本は米国の貯金箱になったようである。日本は中国の勢力拡大で尖閣諸島などが守れなくなるので、米国を必要としている。米国は、その構図を利用するようだ。北朝鮮の核ミサイルなどを利用して危機を作り、日本に米国産兵器を売る環境を整えている。

ICBMは、日本にとっては危機ではない。その前の中距離ミサイルが大きな危機であり、安倍首相の言葉を利用して、今回の騒ぎを米国が作った感じである。

陸上迎撃ミサイルのアシェアが売れたので、韓国を利用して北朝鮮との緊張を下げ始めた。日本の安倍首相は、トランプ大統領に利用された格好になっている。トランプ大統領は、公約通りに行動しているだけで、米国の利益のためなら何でも利用する方向である。

さあ、どうなりますか?

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