電通本社ビル(写真:東洋経済/アフロ)

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 人気アイドルグループ「嵐」の櫻井翔さんのお父さまで、元総務省事務次官の桜井俊氏(64)が2018年1月1日付で、電通の執行役員に就任することになった。桜井氏は内部統制機能全般の強化を、常勤の執行役員として担当する。電通は違法残業や社員の過労自殺などが問題となった会社だけに、コンプライアンスに関わる執行役員は重要なポストといえる。

 ところで、この「執行役員」とはなんだろうか。神戸製鋼の品質データ改ざん問題でも、執行役員が不正を認識していたということでメディアは大騒ぎしたが、執行役員の意味をちゃんと理解している人は意外に少ない。

●似て非なる「執行役」

 執行役員と似た役職に執行役というものがある。執行役という名称はあまり聞きなれないかもしれないが、実は法的にはこちらのほうが本当の「役員」だ。執行役とは、「指名委員会等設置会社」という形態にのみ認められる役職である。この形態の会社には大きく2つの特徴がある。

 ひとつ目は監査役が存在しないことである。その代わりに、指名委員会、監査委員会、報酬委員会という3つの委員会を置く。この3つの委員会を置くところから「指名委員会等設置会社」と呼ばれるわけである。そして、もうひとつの特徴が執行役という役職を置かなければならないことである。

 狙いは、監督機能と執行機能の分離にある。取締役とは本来「取り締まる役」である。「取り締まる」とは、「スピード違反を取り締まる」という言葉からもわかるように、他者の行為を監視・監督することだ。ところが、従来の取締役は、経営者としての役割も兼ねるのが普通だ。それは「自分でやって自分で監督します」と言っているわけだから、監督が甘くなる可能性がある。

 経営者とは、野球でいえば現場で指揮を執る監督でありコーチである。それに対して、取締役の役割を果たすのは球団フロントだ。両者が機能的にも組織的にも分化しているからこそ、業績不振の監督はクビを切られるのである。両者が一致していたら、なかなか自分で自らのクビは切れない。

 指名委員会等設置会社においては、経営する役割は執行役として分離し、取締役は本来の「取り締まる役」に徹する。代表権も執行役が持つので、代表執行役となる。代表取締役は存在しない。

●執行役員は一従業員

 経営の執行と監督を明確に分離し、取締役が「取り締まる役」に徹するのはアメリカ型だ。監査役を置くのはドイツ型である。日本は、ドイツをお手本に会社法制をつくってきたので、アメリカ型はかつては認められていなかった。執行役員はアメリカ型がまだ認められていなかった1997年に、ソニーがそれを疑似的に実現するために設けたのが始まりである。以来、多くの企業が執行役員という役職を置くようになったのである。

 今でも執行役員を置く企業が多いのは、指名委員会等設置会社の人気がないからだ。指名委員会等設置会社では指名委員会、監査委員会、報酬委員会という3つの委員会とも取締役により構成されるが、その過半数は社外取締役でなければならない。それは役員の人事と報酬が社外の者に決められてしまうということである。そこが日本企業としては受け入れがたいのだろう。

 その代用として重用されるのが執行役員であるが、役員といいつつも法的には役員でもなんでもない。執行役は株主代表訴訟の対象になるが、執行役員は株主代表訴訟の対象になることもない。執行役員は会社が任意に名付けた役職名のひとつにすぎないのである。法的位置づけは部長や事業部長などと何も変わらない。

 したがって、神戸製鋼の品質データ改ざんを執行役員が知っていたというのは、「部長が知っていました」と言っているのと同程度の意味しかない。「部長だったら、そりゃあ知ってたんじゃないの」という話で、実はそれほど驚く話ではないのだ。

 驚くべきは桜井氏が電通の執行役員になったことである。これが取締役になったというのなら、限りなく社外役員に近いかたちでたまに出社する程度なのかもしれない。しかし、執行役員である。それは一従業員として電通に再就職したということだ。64歳にしてこの決断は、採用する側もされる側もなかなかの決断だと思う。
(文=金子智朗/公認会計士、ブライトワイズコンサルティング代表)