ビットコインの次に時価総額が大きい仮想通貨が2015年7月にリリースされた「Ethereum(イーサリアム)」だ。

イーサリアムは、ビットコインよりもいささか若い「仮想通貨」で、いま注目が集まっている。その理由は、ブロックチェーンの可能性が通貨を代替すること以外にも大きく広がっているからだ。

◎そもそも、ブロックチェーンの仕組み
ビットコインに代表される、現在の分散ネットワーク型暗号通貨は、

・取引情報をハッシュ化し、本体に紐付ける
・過去からの取引履歴を分散ネットワークで上に置かれた台帳で管理する

という仕組みを使っている。

これらの暗号通貨は、国や特定機関の信用を担保にしなくとも、通貨であるコイン自体に自身を信用に足るものだとする保証を付けて取引に用いる。取引情報はある一定の時間で「ブロック」の単位でハッシュ化され、鎖のように連結していくことでデータベースに保管される。
取引台帳は管理者不在の分散ネットワークに保存/管理されていることが多い。

ハッシュ値の仕組みを簡単に説明すると、
任意の長さの文字列から特定の大きさのデータに変換することをハッシュ化という。

・生成された固定長のデータをハッシュ値
・文字列からハッシュ値を生成する関数をハッシュ関数

という。ハッシュ関数には、次の特性がある。

・ハッシュ値から、元の文字列を得ることが(事実上)不可能である<原像計算困難性、弱衝突耐性>
・同じハッシュ値となる、異なる2つの文字列のペアを求めることが(事実上)不可能である<強衝突耐性>

つまり、1つのハッシュ値が特定の文字列を示し、それはユニーク(独特の存在)なものであり、なおかつ、ハッシュ値から元の文字列をたどることができない。
これらの特性から、貨幣の価値を保証しているということになる。
ちなみに、このハッシュ関数自体は昔から存在し、暗号署名などにも使われている技術だ。

さらに、あるブロックの内容は1つ前のブロックのハッシュ値に依存するため、一度チェーンにつながれた(追加された)ブロックの改ざんは不可能とされている。

この仕組み、ビットコインプロトコルおよび実装(Bitcoin Core)を作ったのはSatoshi Nakamotoという人物。そして、この技術を原型とするデータベース技術がブロックチェーンである。

なお、すべての取引記録を取引台帳に追記する作業が定期的に発生し、その処理には膨大なマシンパワーが必要となるため、この作業を分担することでコインを得る。これがマイニング(採掘)である。

◎スマートコントラクトを実装したイーサリアム
ブロックチェーンのこうした仕組みは暗号通貨だけではなく、Fintech全体に、さらにアプリプラットフォームにまで活用できるとして登場したのが「Ethereum(イーサリアム)」だ。
イーサリアムが実現した「スマートコントラクト」という概念である。

契約や財産情報を定義し、イーサリアムネットワーク上で乗せることでスマートコントラクト、いわゆる「コントラクト」(契約)の電子化ができるというもの。

AさんからBさんへの何らかの所有権の移動を、その条件や履行情報を分散ネットワークで管理することで、不正が行われないよう取引を実行できる。また、これらのプロセスをイーサリアムのブロックチェーン上にプログラムできるので、自動実行が可能となる。

これが「プログラマブルブロックチェーン」と呼ばれる所以だ。

これまでブロックチェーンが扱ってきたのは単なる「価値」だけなのだが、ブロックチェーンに登録する取引情報を使用者側が定義することで、通貨以上の取引(契約)に広げることができるわけだ。

たとえば、通常オンライン決済で何かものを買うとき、
たいてい第三者の機関(銀行やクレジット会社など)を経由し、信用情報が精査され、取引が実行される。

スマートコントラクトが実装された環境では、この第三者による信用担保を不要にすることが可能となるのだ。

これが、ブロックチェーンがビジネスを変革すると言われる理由だ。
ブロックチェーン上で取り扱う内容をリッチ化することで、通貨の代替以外だけでなく、より社会に密接に関わる部分での活用が可能になるということなのだ。

実際、フランスの大手保険会社AXAがイーサリアムのブロックチェーンを活用した新しい保険「fizzy」(航空遅延時の保険商品)をリリースしている。

◎仮想子猫を飼うゲーム
イーサリアムに関して概要的な部分を補足すると、イーサリアム自体は分散型アプリケーション、スマートコントラクトを構築するためのプラットフォームの名称になる。
仮想通貨の単位としては「イーサ(Ether)」となる。

ビットコインでもあったような分裂も起きており、イーサリアムとイーサリアムクラッシックの2つが存在する。

さて、スマートコントラクトが普及すると社会を大きく変えると期待されているが、実際は、まだスマートコントラクトを活用した動きが始まったという段階だ。

ただ、イーサリアムというとICOに使われることで知られている。
つまり、企業が独自仮想通貨を発行し、資金調達を行う際の基軸通貨としてイーサリアムが選択されている。そのICOの先にスマートコントラクトが展開されていくことも予想される。

1つ、昨年11月末におもしろいゲームが、イーサリアム上で公開されて話題になった。
「クリプトキティーズ」と呼ばれるもので、仮想ゲノム(遺伝情報)をもとにイーサリアム上でプログラムすることで様々な特徴を持つ「猫」を仮想的に育てていくというゲームだ。

ユーザーは仮想通貨で子猫を購入し、フードをあげたり、遊んだり、交配したりして育てていく。あるいは仮想通貨で取引することができる。

このゲームアプリがおもしろい点は、この仮想猫がすでにイーサリアムネットワーク上に存在するということだ。たとえば、運営元がサービスを止めてしまったとしてもいなくなることはないのだ。

これは1つ、インターネットの本来のオープン性を可能にするものなのではないかと興味深い。。

いま、インターネットがインフラとなり、たいていの人が何らかの(インターネット上の)サービスを使うようになっている。
とはいえ、多くのサービスは企業や組織が営利あるいは非営利に運営するものだ。

つまり、永続的に存在する保証がないということ。
採算がとれない、サポートができないという理由で終了するサービスは実に多い。

しかし、もし(イーサリアムに限らずだが)ブロックチェーン上に、ある企業が運営するサービス上のものでも、個人の情報資産として紐付けることができたら、そのサービスが終了、消失したとしてもデータだけは自分のものとして保持できるのではないか。

現状のSNSの問題点の1つとして、企業が一社で管理するということがあげられる。
企業の都合により、アカウントが停止されて、それまでのSNSでの個人の情報が消失することもある。しかも、そのアカウントを停止する基準が不明瞭なため問題となることも多々ある。
固有のプラットフォームに依存する個人の情報やデータを分離・独立させ、既存のプラットフォームを超えることができたら、そうした不自由も解消できるのではないだろうか。

なお、仮想通貨リップルも「スマートコントラクト」対応を打ち出している。


大内孝子