(写真提供=SPORTS KOREA)北朝鮮の「美女軍団」

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聖火リレーもソウルに入り、平昌五輪の開幕も近づいてきた。

正月に出された金正恩朝鮮労働党委員長の代表団派遣発言により、大会への関心は高まりつつあるが、前回も書いたように、「代表団」というのは、小さくも大きくも捉えることができる表現であった。

9日に開かれた南北閣僚級協議で北朝鮮側は、高官や選手、応援団、芸術団、テコンドー演技団、記者団と、韓国側の想定を超えた大規模代表団を派遣することを表明した。

一筋縄ではいかない相手だけに、具体的に話を詰める段階で紆余曲折もありそうだが、韓国側にとっては大きな前進といえるだろう。

美女軍団は“応援団”よりも“公演団”?

そこで注目されるのが、美女軍団と呼ばれる応援団が本当に来るかどうかである。

【画像】北朝鮮の「美女軍団」

私は、美女軍団が登場した2002年の釜山アジア大会と03年の大邱ユニバーシアード、美女軍団は来なかったが北朝鮮選手団は参加した14年の仁川アジア大会を、北朝鮮を中心に取材してきただけに、いくつか気になることがある。

まず何を応援するかである。

夏季大会のサッカー、バスケットボール、バレーボールなどでは、歌ったり踊ったりする応援は可能である。

柔道などもアジア大会やユニバーシアードレベルでは、北朝鮮の選手も勝ち上がり、しばしば試合をするので、リーダーを中心に統率された応援もできる。

しかし水泳の飛び込みのように、集中のための静寂が求められる競技では、応援団に「静かにしてください」という場内アナウンスが流れたこともあった。

冬季スポーツは、統率された応援が合わない競技が多い。

出場がほぼ決まっているフィギュアスケートのペアの場合、応援を披露できるのは、製氷時間くらいである。しかも北朝鮮の選手のランクだと、試技の順番は前の方で早々に終わる。その後は、どうするのだろうか。

出場が噂されているクロスカントリーでは、スタートからゴールに近づくまでは、応援が可能かもしれないが……。

夏季大会の競技の場合は、北朝鮮には柔道や卓球のように、国際大会の出場機会が少ないためランキングは低いけれども実力はある選手が結構いるが、冬季スポーツの場合は、そうした選手がいるようには思えない。

それだけに、北朝鮮選手団の規模や実力を考えれば、美女軍団は応援団というよりも、公演団に近いのではないか。

過去の国際大会でも、公演活動は行われている。

釜山アジア大会ではプレスセンターなどのあるコンベンションセンターの隣にある大広場で美女軍団たちの公演があり、広場は、詰めかけた市民で溢れんばかりになった。

大邱ユニバーシードのときは、大邱タワーのある頭流公園の野球場で、韓国の歌手や学生との合同公演の形で行われ、大会を通して一番の盛り上がりをみせた。

ただし公演となると、北朝鮮側が金品を要求してくる可能性もある。これまでも相当額が支払われたという話もある。

けれども今回は、経済制裁のさなかだけに、宿泊費や食費など、サービスの無償提供という形が限界であろう。

ないとは思うが、最悪なのは裏金を渡すことだ。露見すれば、韓国政府は国内外から批判を浴びるだけでなく、北朝鮮と秘密を共有することで、弱みを握られることにもなる。

過去には乱闘事件も……

北朝鮮側にとって、経済的メリットがないのであれば、来るとすれば、政治的効果への期待となる。

美女軍団や芸術団の訪韓は、韓国内の反北朝鮮感情を和らげる効果はあるだろう。

しかし、五輪という舞台、それに、現在の北朝鮮の置かれた状況を考えれば、露骨な政治宣伝は難しいだろう。

釜山アジア大会や大邱ユニバーシアードの公演では、民謡や『口笛』など北朝鮮の歌謡曲、統一の願いを歌った歌などが中心であった。

ただ、大邱ユニバーシアードで北朝鮮の女子サッカーが優勝したときは、応援団が『金正日将軍の歌』を歌っていた。

また問題になるのが、韓国内の反北朝鮮運動への対応だ。

大邱ユニバーシアードでは、ソウルであった反北朝鮮集会を理由に、美女軍団は到着予定の日に現れなかった。

大会中にも、プレスセンター前で、反北朝鮮集会をしていた団体と、北朝鮮の記者団(私も現場にいたが、記者にはとても見えなかった)の乱闘事件があり、美女軍団が一時応援をボイコットしたことがあった。

美女軍団は韓国で注目されるだろうが、好意的でない人も少なからずいる。

そうした人たちが、どういう行動に出るか。それに対して当局がどう対応するか。

「南南葛藤」という、韓国内のイデオロギー対立が表面化すれば、複雑な様相を呈することになる。

いずれにしても韓国側は、北朝鮮側に相当気を遣うであろう。

しかしながら忘れてはならないのは、主役はあくまでも世界各地から集まる選手たちであり、北朝鮮の代表団は、大会の一部分に過ぎないということだ。

あり得ない特別ルールの要望

そこで気になるのは、大会まで1カ月もないのに、韓国側からいまだに女子アイスホッケーの南北統一チームの話が出てくることだ。

しかも、韓国代表メンバーは既に決まっているので、北朝鮮選手の分の定員増まで求めるという。

アイスホッケーは選手の交代が自由にできるスポーツである。

したがって、エントリーメンバーの数は基本的に同数でないと公平性は保てない。韓国にしても、統一チームにしても、実力的には参加チーム中最低ランクであるが、といって、オリンピックのような公式大会ではあり得ない特別ルールの要望だ。

過去のケースをみれば、平昌五輪で南北の和解ムードが醸成されたとしても、一時的なものかもしれない。

それでも、平和的な雰囲気の中で大会が開催されるのであれば、悪いことではない。

とはいえ、あくまでも競技に支障のない範囲内でなければならない。

統一チームに対する韓国の前のめりぶりをみるとどうも気にかかる。

(文=大島 裕史)

初出:ほぼ週刊 大島裕史のスポーツ&コリアウォチング