鉱山車両のタイヤは一つひとつが高価であるだけに、運用ノウハウを高度化することで得られるメリットは大きい(写真提供:ブリヂストン)


 タイヤ世界最大手のブリヂストンが、鉱山向け事業をトリガーに、ビジネスの変容を急ピッチで進めている。原動力はデジタル技術。鉱山用ダンプカーのタイヤにセンサーを取り付け、タイヤのデータを取得。そのデータを分析することで、タイヤの適切なローテーション方法やより効率的なダンプカーの運用方法の提案につなげようとしている。目指すは「Tire as a Service」、つまりタイヤのサービスビジネス化だ。将来は商品を通じて顧客のビジネス全体を支援することを目指す。

 核となるデジタル技術は、IoT(モノのインターネット)だ。ブリヂストンが開発したのは「B-TAG」と呼ぶタイヤ圧力・温度管理機構である。

 鉱山用ダンプカーのタイヤの内側側面にセンサーを取り付ける。このセンサーがタイヤの温度と圧力のデータを取得し、ダンプカーに取り付けられたアンテナやダンプカー内のコンピュータを経由して、鉱山の業務用サーバーに転送される。

「B-TAG」のセンサー。タイヤの内側側面に取り付ける。センサーの単価は数万円


 タイヤのデータはブリヂストンの鉱山車両向けクラウドサービス「TreadStat(トレッドスタット)」で管理・分析する。センサーで取得したタイヤの温度や圧力の履歴情報とともに、どのタイヤがどの車両に取り付けられており、どの程度使ってきたのかといったタイヤのメンテナンスに関わる情報を一元管理できるようになっている(下の動画を参照)。

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鉱山用車両は高価、稼働を止めてはならない

 鉱山という特殊な環境下においては、ダンプカーをはじめとした鉱山車両のタイヤのメンテナンスが極めて重要な業務になる。鉱山ダンプカー用タイヤの単価は、大型の商品であれば数百万円程度にもなる。ダンプカーは重い鉱物を載せた上で石が散らばる悪路を走ることが多く、タイヤにかかる負担は大きい。特に、積載量を増やして走行速度を上げるとタイヤの温度が上昇し、消耗が早くなる。

 鉱山にとっては高価なタイヤをなるべく長く使いたいと考えるのは当然だし、突然のタイヤトラブルによる走行停止は何としてでも避けたい。ブリヂストンの永谷賢二・デジタルソリューションセンターデジタル戦略企画部長は、「非常に高価な鉱山用車両の稼働が停止した場合の機会損失は大きい。タイヤが原因でお客様のビジネスを止めてはならない」と強調する。

 そこでブリヂストンが解決策として用意したのが、このB-TAGとTreadStatである。ユーザーである鉱山はB-TAGとTreadStatを組み合わせることで「ダンプカーに付けている前後左右のタイヤをうまくローテーションさせる」「外してメンテナンスするタイミングや購入および廃棄のタイミングを見計らう」といったことがより効率的にできるようになる。そして効率性はもちろんのこと「鉱山現場の生産性そして安全性を高めることにもつながる」(永谷氏)という。

中央がブリヂストンの永谷賢二氏(デジタルソリューションセンターデジタル戦略企画部長)、右が堤憲明氏(デジタルソリューションセンターデジタル戦略企画部デジタル戦略企画ユニットリーダー)、左が浜畑直哉氏(デジタルソリューションセンターデジタルソリューション戦略部デジタルソリューションテクノロジーユニットリーダー)。デジタルソリューションセンターは、同社のデジタル化を推進するための専門組織で、2017年1月に設立された。デジタル技術を使ったビジネスモデルの開発や人材育成などを担う


タイヤビジネスを高度化

 ブリヂストンはこの鉱山向けタイヤビジネスをトリガーに、次のビジネスモデルを確立しようとしている。

 同社が掲げるキーワードは「Tire as a Service」。これまでのタイヤを一つひとつ売り切るビジネスから、タイヤの提供のサービス化へと舵を切る。つまり、タイヤの新規購入から現場における運用・メンテナンス、そして廃棄に至るまでのプロセス全体を支援し、その価値に応じた対価を顧客から得るビジネスへとシフトさせることを狙う。

 足がかりはタイヤの故障分析である。B-TAGを提供し始めたのは2012年なので、2017年12月時点で、過去から蓄積されたタイヤのデータは最大で5年分存在することになる。各鉱山の協力を得て収集した5年分のデータを横断分析して、「タイヤの故障要因を詳細分析している最中」(浜畑直哉デジタルソリューションセンターデジタルソリューション戦略部デジタルソリューションテクノロジーユニットリーダー)だ。

 同じ鉱山内で同じ種類のタイヤを使っていたとしても、その使用条件に応じてタイヤの寿命には幅が生じる。ブリヂストン内でデータを分析したところ、銅、鉄、石炭など「扱う鉱物の種類によってタイヤの摩耗の仕方が異なることが分かった」(浜畑氏)という。

 近い将来、こうしたデータの分析結果を踏まえて、タイヤの寿命をより延ばせるような運用方法を個々の鉱山に提案できるようにする。例えばタイヤのローテーション方法である。車両の前後でみると後輪のタイヤのほうが消耗が激しい。そこで新品のタイヤは前に付け、後輪側に付けるタイヤは古いタイヤにして交換頻度を上げるといった運用にすれば、鉱山に確保するタイヤの在庫を圧縮できるという点も含めて、効率的に運用できる。

 また、ダンプカーの走らせ方を鉱山に提案できるよう、さらなる分析を進めていく。タイヤの構造は直接路面に接する「トレッド」部と、全体を支える「ケース」に二分できる。ダンプカーの走らせ方によっては、ケースの強度は保たれたままだがトレッドが摩耗する、あるいはトレッドが摩耗しないうちにケースの耐久度が限界に達するといった現象が起きるという。

「データを分析していくことで、トレッドとケースがバランス良く消耗していくような経済的な走らせ方が見出せそうだ」と浜畑氏は語る。このポイントが探り出せれば、顧客への提案力が増す。ひいては「タイヤメーカーであること以上の価値をお客様に提示できるようになる」(堤憲明デジタルソリューションセンターデジタル戦略企画部デジタル戦略企画ユニットリーダー)。

 タイヤのデータは需要予測や生産計画にも役立てる。鉱山ごとのタイヤの使用状況と在庫管理のデータを踏まえて、ブリヂストン社内における生産計画や新しいタイヤを各鉱山に持ち込む最適なタイミングを見極められるようにすることも検討している。また、データの分析結果をタイヤの商品開発にも適用し、各鉱山のニーズに合った、市場競争力の高い商品の開発を目指す。

課題はデータサイエンティストの育成

 ブリヂストン社内ではデータ分析の対象領域が広がりつつある。同社では乗用車用タイヤを生産する彦根工場に、IoTを全面適用した生産設備を投入済み。センサーで取得したデータを分析し、その結果に基づき改善したところ、不良品の発生率が約6分の1に減少したという。

 すでに成果が出ているだけに、社内でのデジタル技術に対する期待は高まっている。だからこそ「データサイエンティストの育成は急務」(永谷氏)。そこでブリヂストンは2017年9月、データ分析ソフトウエアを開発・販売するSAS Institute Japanと共同で、データサイエンティストを育成する独自の研修プログラムを開始した。2017年はブリヂストンの社員43人がプログラムを受講した。

筆者:高下 義弘