身近なクリニックの看板にも、専門外来の文字を見かけることが増えた。「もの忘れ外来」では、まずは医師が患者に問診を行うが、その前に患者の家族が相談に訪れることも多いという。

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従来の診療科とは別の「専門外来」を掲げる診療所が増えている。「薄毛外来」「めまい外来」「アンチエイジング外来」……。名前は親しみやすいが、いきなり受診してもいいのだろうか。雑誌「プレジデント」(2017年1月2日号)の特集「医者の診断のウラ側」より最新事情を紹介しよう――。

■専門性を打ち出し患者数を増やす!

内科、外科など、医療機関が都道府県に届け出を出し、看板やウェブサイトに掲示している診療科を「標榜科目」という。標榜してよい診療科は、医療法で定められている。一方、「専門外来」については、特にルールが定められておらず、各医療機関が独自に掲げている。

「専門外来を掲げる医療機関は、特に都市部で目立つ」と、医師でジャーナリストの富家孝氏は話す。

「都市部では病院の数が多く、競争が激化し患者の取り合いになっています。このため、患者にとって診療対象がわかりやすい専門外来を掲げ、専門性を打ち出して差別化を図ろうとするのでしょう。逆に地方は、病院の数が限られているため、それほど競争は激しくありません。そのため間口を狭めるより、幅広く患者を集めたいと考えるのではないでしょうか」

「昨今は病院の経営も厳しさを増しています。完治が難しく診察と投薬を継続する必要がある高血圧や糖尿病などで固定患者をつかみ、加えて専門外来で新たな患者を集めようとする病院は多いです」

専門外来の名称は大きく4つのタイプに分けられる。まず、「心臓外来」「膝外来」「股関節外来」など、臓器や体の部位名を掲げるもの。

2つ目が「糖尿病外来」「喘息外来」など、特定の病名を掲げるものだ。なかには難病指定された病気を診る専門外来もある。医学ジャーナリストの松井宏夫氏は「順天堂大学医学部附属順天堂医院の整形外科・スポーツ診療科には、日本で唯一の強直性脊椎炎の専門外来があり、自身もこの病気の患者である井上久医師が担当しています」と話す。

3つ目が、「めまい外来」「頭痛外来」「便秘外来」など、特定の症状をうたうもの。症状だけではどの診療科に行けばわからないときでも受診しやすい。

さらに「引きこもり外来」「高齢者外来」「音楽家のための専門外来」など、上記3つに当てはまらない、人の属性などをうたう外来もある。関東労災病院の「働く女性専門外来」では、更年期障害など女性特有の疾病や、コンピュータの使用によるテクノストレスなど職場環境に伴う心身の変調に対する医療を行う。男性医師への抵抗感から治療を先延ばしにしがちな患者の心理に配慮し、専門の女性医師が診察に当たっている。

■大病院に行くなら「紹介状」が必須に

大学病院や総合病院など、規模が大きい病院の専門外来は、「紹介状なしでいきなり受診するのは避けるべきです」と松井氏は言う。そもそも大病院は、地元の診療所(クリニック)などのかかりつけ医で診察を受け、より専門的な診察・治療が必要だと判断された場合に受診する病院と位置付けられているからだ。このため、「ほかの病院からの紹介状なしに大きな病院を受診すると、金額は病院によって違うが、初診に5000円以上が加算されます」(松井氏)。

また、病名などを自己判断して専門外来に行っても、その判断が間違っている可能性があるので「まずはかかりつけ医に診てもらい、そこで適切な専門外来に宛てて紹介状を書いてもらって受診するのがいいです」と松井氏は説く。

しかし、かかりつけ医を持たない人もいるだろう。松井氏は、「子どもがいる人は、健診や予防接種などで小児科にお世話になることが多いはず。小児科は地元のいい病院を診療科別によく知っているので、かかりつけ医にできる内科医院などを紹介してもらうといいです」と話す。「また、自分自身や家族の誰かが、大きな病院に行く機会があれば、そこの医師に、自分が住む地域の開業医を紹介してもらうのも手」と言う。大病院の医師は、日ごろから地域の開業医からの紹介状を見ているので、紹介状の書き方や、紹介された患者の治療歴などから、いいクリニックを知っている可能性が高いからだ。

専門外来の名前だけでは、どのような診断や治療を行っているか、わかりにくいこともある。その場合は診療科を見ると参考になる。専門外来を掲げていても、医療機関は必ず、何らかの診療科を標榜しているからだ。例えば、「薄毛外来」であれば皮膚科、「めまい外来」であれば耳鼻咽喉科が多い。「アンチエイジング外来」のように、内科や皮膚科、美容外科、形成外科、耳鼻咽喉科などさまざまな場合もあるが、診療科を見ることで、肌の美容の観点から治療をしているのか、内臓や血液など内科的な視点で診察・治療を行うかがわかるので参考になる。

専門外来は、事前に予約が必要なことが多いので、予約する際に診療内容を聞いてみるのもよいだろう。

■自由診療の医師は「腕に覚えあり」

専門外来だからといって、特に医療費が高くなったりすることはない。「費用は、診察や治療内容が(健康保険の対象となる)保険診療か、(健康保険の対象にならない)自由診療かで左右される」(松井氏)からだ。

「アンチエイジング外来」などの場合は、疾病の治療には当たらないため健康保険の対象にならず、自由診療となることが多い。薄毛外来も、円形脱毛症や皮膚の炎症による薄毛であれば保険が適用されるが、それ以外の場合は自由診療となり、費用も高くなる。

自由診療と聞くと、「法外な費用がかかりそう」「信頼できるかわからない」といった印象を受けるかもしれないが、富家氏はそうとは限らないと説く。「自由診療か保険診療かに関係なく、診察や治療内容の質は病院や医者によってばらつきがあります。ただ、自由診療の場合は、患者が医療費を全額自費負担するため、効果が出なければすぐに“客離れ”が起こります。このため、自由診療を行う医師には、自分の腕に自信があるケースが多いと考えられます」(富家氏)。

昔から、特定の病気や体の部位などを専門にする医師はいたが、それを専門外来の形で掲げるようになったのは最近だ。富家氏は「これまで患者は受け身の存在で、病院の側も患者の受診に役立つ情報を積極的に出したりはしていませんでした。わかりやすい名称の専門外来が増えているのは、患者が自分で調べて病院を選ぶ時代に変わってきたことの表れではないでしょうか」と話す。

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▼「何科に行けばいいかわからない」、そんな悩みに専門外来がこたえる
多種多様な名称が並ぶ専門外来。患者にとってわかりやすいように工夫が施されたネーミングも目立つ。同じ名称でも病院によって治療の対象や内容が異なるため、通院前に確認を。

・薄毛外来
・肥満外来
・アルコール外来
・禁煙外来
・もの忘れ外来
・いびき外来
・便秘外来
・口臭外来
・めまい外来
・肩こり外来
・睡眠障害外来
・尿失禁外来
・うつ外来
・引きこもり外来
・スポーツ外来
・ワクチン外来
・腰痛外来
・頭痛外来
・睡眠時無呼吸外来
・フットケア外来
・アンチエイジング外来
・セカンドオピニオン外来
・働く女性専門外来
・更年期外来
・思春期外来
(編集部調べ)

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医師・ジャーナリスト 富家 孝
東京慈恵会医科大卒。開業医、病院経営、日本女子体育大助教授、早稲田大講師等を経て、医療コンサルタントに。新日本プロレス・ドクター。著書に『不要なクスリ 無用な手術』など65冊。
 

医学ジャーナリスト 松井宏夫
中央大学卒。日本医学ジャーナリスト協会副会長。東邦大学医学部客員教授。名医本の執筆やテレビ番組の監修に定評がある。著書に『長生き「できる人」と「できない人」の習慣』など多数。
 

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(ライター 大井 明子 撮影=向井 渉 撮影協力=医療法人社団プラタナス 桜新町アーバンクリニック)