2017年10月にオープンした三井不動産の新ホテルブランド「ザ セレスティン銀座」のロビー(筆者撮影)

2017年下半期の3カ月間に、京都祗園(9月7日)、銀座(10月5日)、東京芝(11月28日)と3施設立て続けに開業を迎えたホテルブランドがある。30年以上にわたり三井ガーデンホテルズを運営してきた、三井不動産グループの新ホテルブランド「ザ セレスティンホテルズ」だ。

同ブランドはハイクラスホテルだが、サービスの内容としては、一般的なビジネスホテルのような宿泊特化型とシティホテルのようなフルサービスの中間的なサービスを提供する。今回は、すでに開業している3施設のうち「ホテル ザ セレスティン銀座」と「ホテル ザ セレスティン東京芝」を取材するとともに、ホテル競争が激化する中での、今後の事業戦略などについて話を聞いた。

既存ブランドとの差別化は?

まずは、三井不動産グループにおけるホテル事業の、これまでの経緯を簡単に説明しておこう。同社がホテル事業を手がけるようになったのは、1983年に「三井ガーデンホテル大阪淀屋橋」を開業したのが始まりであり、現在、「ガーデンホテル」ブランドで運営する施設は、全国20施設を数える。

2015年5月には、グループの中長期計画「イノベーション2017 ステージ供廖2015〜2017年)の中で、ホテル・リゾート事業の拡大戦略・成長戦略を対外的に公表した。当時、5400室程度だった部屋数を、2020年を目途に、「1万室体制へ拡大」させる“規模の拡大”とともに、“ブランドの拡大”も図ることを明確にした。これを受けて、立ち上げたのが、新ブランドであるザ セレスティンホテルズだ。


「銀座に第2の書斎を」をコンセプトにした「セレスティンデラックス」のリビングルーム(筆者撮影)

すでに開業しているザ セレスティンホテルズ3施設のうち、1からスタートアップさせたのは、祗園と銀座であり、芝は2002年に開業し、同社が運営してきた「セレスティンホテル」のリブランドオープンとなる。“天空”や“ 絶妙な”などを意味するラテン語に由来する“セレスティン”というブランド名は、このホテルから引き継いだ。

なお、三井不動産グループは、ザ セレスティンホテルズを立ち上げる一方で、既存のガーデンホテルの高級路線化も進めている。そこで、ガーデンホテルのフラッグシップと位置づけられ、名前に“プレミア”を冠する「三井ガーデンホテル銀座プレミア」などと、新ブランドは、どのように差別化していくのかについて、三井不動産ホテル事業部長の鴉田(からすだ)隆司氏に話を聞いた。

「日本のホテルを見渡すと、アッパーミドルをターゲットとするホテルの上が、ラグジュアリーであり、その中間がない。その隙間を埋めるというのが、今回の新ブランドの発想の起点であり、(アッパーミドルの中で上級と位置づける)ガーデンホテル プレミアよりも、少し上の層のお客様をメインターゲットとして位置づけている。具体的には、ハード面では、部屋のサイズをガーデンホテルよりも一回り大きくしている。サービス面では、宿泊主体型ホテルではあるものの、ホスピタリティをより強化するために、スタッフの数を多めに確保したほか、その土地ならではの体験プログラムを用意するなどした」(鴉田氏)

東京の客室は決して広くはない

実際に客室を見ていくと、セレスティン祗園は、全157室のうちの120室を占める「スーペリアツイン」の専有面積が30〜35平方メートルであり、確かに広い。


セレスティン銀座の主力となる「スーペリアダブル」。公式サイトからの予約で3万円前後〜(筆者撮影)

一方、セレスティン銀座は全104室のうち65室を占める主力の部屋「スーペリアダブル」の専有面積が23.5平方メートルになっている。天井を高くし、床から天井までのフルハイト窓を採用していることなどから圧迫感はないものの、幅1600×1960メートルという存在感のあるベッドが置かれていることもあり、想像していたよりも狭く感じる。もちろん、スーペリアツイン(31.3平方メートル)、セレスティンツイン(34.2平方メートル)、セレスティンデラックス(47.5平方メートル)など、さまざまな部屋のバリエーションが用意されていることは付記しておく。


セレスティン東京芝の「スーペリアダブル」。公式サイトからの予約で2万円前後〜(筆者撮影)

部屋がより狭いと感じたのは、セレスティン東京芝だ。リニューアルに際して、一部の部屋を拡張するなどしたものの、全243室のうち、19〜21平方メートルの部屋が180室を占める。部屋の内装・備品などがリニューアルされ、快適さは増したものの、広さに関しては、一般的なビジネスホテルよりは、やや広いくらいといった感じだ。また、水回りもリニューアルされていない。広々としたロビーやラウンジがあり、スパやトレーニングルームが新設されたものの、客室だけを見ると、リブランドにより上昇した価格の差額を説明するのが、難しいのではないか。

これには、「もともと、新ブランド立ち上げのとき、芝のセレスティンホテルをリブランドしようと決まっていたわけではなく、コンセプトメイキングする中で、芝もバージョンアップして、新ブランドに加えることが決まった」という経緯もあるようだが、ブランドコンセプトを、より明確にするのであれば、必ずしも芝を新ブランドに加える必要はなかったのではないかとも思える。

レストランを重要視

高級化路線に舵を切るにあたり、課題となるのが、スタッフの育成やノウハウの吸収だと思われるが、この点について鴉田氏は、「当社のホテルは、(ラグジュアリーホテルのような)フルサービスのホテルではないが、新ブランドでは、今まで以上のサービスを提供する。そこで、お客様に心地よく感じていただくためには何が必要なサービスで何が必要ないかを、外部有識者も入れ、時間をかけて選別してきた。また、芝のセレスティンホテルは、もともと、ホスピタリティに定評があったので、ガーデンホテルで積み重ねてきた経験とともに、これを基盤とし、さらに、どういったサービスができるかを考えていきたい」と話す。

セレスティンホテルズでキーとなるのが、レストランだ。セレスティン銀座には、表参道や麻布十番に店を持つ「CASITA(カシータ)」というレストランが入っている。同店はホスピタリティに定評があり、「ホテル屋から見ても感動するようなサービス」(鴉田氏)が提供されているという。


セレスティン銀座に入っているレストラン「GINZA CASITA」(筆者撮影)

「飲食に関しては、直営店を入れるという選択肢もあるが、その場合、社内ノウハウしかない。異業種の優れたホスピタリティを持つ店に入っていただくことで、われわれにとっても刺激になる。そういう意味では、テナントというよりも、ホテルをつくり上げるうえでのパートナーというべきだ。テナントであれば、自分たちに直接、メリットにならない提案はしてこないが、(CASITAからは)ホテルのお客様をきちんともてなそうという気持ちからの逆提案があり、さまざまな相乗効果が生まれていると思う」(鴉田氏)

また、セレスティンホテルズは、“それぞれの土地ならではの体験を”という「ローカル・エクスペリエンス」をブランドコンセプトの1つとして掲げているが、その意味でもレストランは重要だ。セレスティン祗園には、地元のてんぷらの老舗「八坂圓堂(えんどう)」が入っているが、料理のみならず、「聞かれれば、地元のことならば何でも答えられ、ローカル・エクスペリエンスに関しては抜群」(鴉田氏)だという。各地に事業展開していくビジネスで、信頼できる地元の店舗とパートナーシップを結んでいくことが、成功の1つのカギになることの好例と言えよう。

ところで、最近の都市部のホテルビジネスの状況を見渡すと、“ホテル戦争”と言っても過言ではない状況になりつつある。宿泊特化型ホテルとフルサービスホテルの中間に位置づけられる、セレスティンと類似する業態のホテルに絞ってみても、リゾートをメインにしてきた星野リゾートが、都市観光ホテル「OMO(オモ)」ブランドを立ち上げたほか、米高級ホテルチェーンのハイアット・ホテルズが、2019年に浦安に「ハイアットプレイス」を日本初上陸させる予定など、各社が相次いで参入表明している。こうした中で、三井不動産グループの強みは、どのような部分にあるのか。

「不動産デベロッパーとして、住宅、オフィス、商業施設など、さまざまな案件を手がけている商品企画力やネットワークが、ホテル専業の会社との違いであり、強みにしていかなければならない部分だ。“ホテルとはこういうもの”という固定観念にとらわれず、マンションでよかったことをホテルにも取り入れようということなどは、われわれの中ではよくある。また、全社ネットワークを生かし、オフィス、商業施設、マンション、ホテルの複合案件を提案したり、街づくりという大きな枠の中で、ホテルの位置づけを考えていくことも可能だ。こうしたことは、不動産デベロッパーにしかできないのではないか」(鴉田氏)

さらに、事業機会を得る“仕込み”の部分にも、不動産デベロッパーならではの強みがあるという。

「われわれに入ってくる案件情報は、ホテル建設を念頭に置いたものに限らない。たとえば、オフィスビル建設を考えている土地所有者との話し合いの中で、ホテルが最適だと思えば、ホテルを提案することなどもあり、新たな事業機会の創出となる。現在、急激な事業拡大に対応できているのは、こういった部分に負うところも大きい」(鴉田氏)

銀座のホテル競争は激化

さらに、銀座に絞ってみれば、ホテル競争の激化は、より鮮明になる。2020年に向け、森トラストが開発を手がけるマリオットの最上級ブランド「東京エディション銀座」などのラグジュアリーブランドから、「スーパーホテル」のような一般的なビジネスホテルまで、現在、把握しているだけでも10軒以上の新規ホテルが2018〜2020年に進出し、客室数ベースでみると、現在より5割程度増加するとの試算もある。

こうした中、三井不動産は、すでに、「三井ガーデンホテル銀座プレミア」「ミレニアム 三井ガーデンホテル 東京」「ザ セレスティン銀座」の3施設を銀座で運営しており、さらに2019年秋には、338室の「(仮称)銀座五丁目ホテル計画」を開業する予定だ。確かに、都内のホテル不足が問題となっているものの、2020年東京オリンピック・パラリンピック後を見据えた場合、ホテルの供給過剰にはならないのだろうか。


セレスティン銀座の客室水回り。シャンプーはブルガリ、タオルは今治タオルが使われている(筆者撮影)

「今後はラグジュアリーホテルの進出が予定されているものの、現在の銀座を見ると、アッパークラスのホテルが十分に足りているとは思えない。“世界の銀座”に相応しいホテルの多様性があってしかるべきだ。アッパークラスの需要は、今後も十分にあると見込んでいる。また、確かに、2020年がホテル需要の1つの山になるのは、間違いない。しかし、現在、インバウンドが増えてきているのは、日本に魅力があるからであり、そうであれば、今後もマーケットの成長は見込めるはずだ。2020年を境に、極端に需要が落ち込むとは思っていない」(鴉田氏)

今後の出店計画は?

もう1つ、気になるのは、都内の地価の高騰だ。国交省が公開している地価公示を見ると、中央区では、この5年間で地価が倍近くに跳ね上がっている場所もある。地価高騰は、ホテル事業の収益を圧迫しないのか。

「ホテルを建設するために、土地を新規購入するのは難しい状況だ。しかし、われわれは、土地を購入してホテルを建てる事業ばかりを行っているわけではない。建物を一括して借りるマスターリースや土地を賃借してホテルを運営する手法もある。銀座に関していえば、ミレニアム 三井ガーデンホテル 東京も、セレスティン銀座も、オーナーである土地所有者が建物を建て、それを借りている。建築コストも上昇しているとはいえ、地価の高騰により、必ずしも、ホテルビジネスが成り立たなくなるわけではない。また、宿泊施設には、容積率緩和の措置が適用されるので、オフィスビルだと採算があわないが、ホテルであれば事業として成り立つというのも、銀座にホテルが増えている理由の1つではないか」(鴉田氏)

最後に、今後のセレスティンホテルズの展開について尋ねた。短期間に、立て続けに3店舗を開業したこともあり、今後の動きが気になるところだ。

「ガーデンホテルの新規案件は多数あるが、セレスティンホテルズの4店舗目に関しては、具体的にどこにというのは、まだ決まっていない。ブランドコンセプトの1つである、ローカル・エクスペリエンスに、こだわりを持っていきたいので、ロケーションとして面白い案件とご縁がつながったならば、そのときに考えるようにしたい」(鴉田氏)